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【タトゥー】タイ護符刺青とは【サックヤン】

 日本から見ると東南アジアの国々は大きく一括りにしがちだが、各国に独特の文化がある。たとえばタイの仏教は、仏教伝来以前からある精霊信仰と深く習合していて、近隣諸国の仏教はまったく違う。そんな例がたくさんある。

 中でも、タイにはタイ独特の刺青がある。ラオスやミャンマー、カンボジアにもあったようだが騒乱などで廃れていき、タイが突出して発展している。そんなタイの独特な刺青は「サック・ヤン」と呼ばれる。宗教的な刺青であり、タイ人はお守りとして身体に彫る。ボクはこれを日本語で「護符刺青」と呼びたい。

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 サック・ヤンは、ヤントラ(仏教などの世界観、宇宙を図形で表したもの)や仏教あるいはヒンズー教に伝わる神話などに登場する神などをあしらった刺青だ。サック・ヤンの発祥はよくわかっていないが、1238年から1583年まで続いたタイ北部スコータイ県の辺りにあったスコータイ王朝の時代に始まったとされる。

 仏教がタイに伝来したのがちょうどこのころだ。そのころにこの地に住んでいたコームという民族が始めたとされるのがサック・ヤン発祥の有力説になっている。コームはカンボジア人の先祖にあたるとも呼ばれ、今でもサック・ヤンにはカンボジアのクメール文字に似ているコームが使っていた文字が使用される。

 ちなみに日本は明治5年から昭和23年まで刺青禁止令があった。そのために今でも日本国内では刺青は完全なアウトローな文化と見なされる。違法なものを彫る自分を誇示する輩がいて、その社会的に不適切だという感覚が今も残っている。ほかの国では刺青はそれほど社会的に嫌われるものではないが、とはいえ、世界のどこを見ても刺青は暴力的なものの象徴ではある。

 一方、タイでは刺青の習慣はサック・ヤンから始まっていることもあり、今でも刺青がある人に対してはあまり否定的ではない。むしろ、最近はサック・ヤンはタイ独自の文化として見直されてもいる。特に15年くらい前にアンジェリーナ・ジョリーがタイでサック・ヤンを入れたことで、当時衰退しつつあったサック・ヤンが持ち直したという経緯がある。

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 サック・ヤンは昔ながらに寺院で彫るものと、魔力を持ったアージャーンと呼ばれる、元は寺院で彫っていた彫り師が独立して自分のアトリエで商売として彫るケースがある。アージャーンは寺を出ているからといっても偽物というわけではない。本来は僧侶だと女性に触ることができないので、アージャーンは女性でもサック・ヤンを手に入れることができるというメリットが生じる。

 ただ、アージャーンはサック・ヤンに守護してくれる魔力を込めることができる民間人ということで、料金が高めになるデメリットがある。有名な人だと小さな図柄でも30万円を超えることもある。一方では本物の魔力があるとされながらも、客から最低限の金しかとらないアージャーンもいる。

 逆に言うと、ニセモノも近年は増えてきたので注意が必要だ。サック・ヤンはただ彫ることができればいいわけではない。ちなみに今回の画像は、ボクが懇意にしている彫師であるアージャーン・エーだ。彼はボクには優しいが、もしかしたらとてつもなく怖い人かもしれない。信者が多数いて、どいつもこいつも柄の悪い連中である。

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 寺院でサック・ヤンを彫る場合は値段が存在しない。花やタバコなどのタイの供え物セットを購入し(これもせいぜい数十バーツ)、あとは気持ちでいい。タイ人はせいぜい20バーツ40バーツを置く程度だ。ただ、寺院で彫る場合は衛生面は保証できない。サック・ヤンで使うステンレスの長い針はあまり消毒せずに次の人にも使うからだ。

 サック・ヤンの図柄には幾何学的な模様のヤントラなどのほか、ハヌマーン(サルの神)、ルーシー(老師)、ピッカネート(ゾウの神。いわゆるガネーシャ)、ヤック(仏教神話に出てくる夜叉)、それからヤモリやトラなど様々な神や動物がある。すべてに意味があり、金運や幸運など総合的に運勢がよくなるもの、権力などを手にすることができるものなどがある。

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 タイ人はそんなサック・ヤンを身体に入れることで神に守られると信じている。彫り終わったあとに魔力が入っていることを証明するため、彫師がその箇所を刃物で切りつけることもある。実際にボクも見たことがあるが、ミミズ腫れになる程度で皮膚が切れることはなかった(切れない刃物を使っているとは思うが)。

 あるアージャーン・エーは、子どものときに僧侶が拳銃で彫り終わった図柄を撃ったところを見たそうだ。図柄が弾丸を弾き、彼はそのときにサック・ヤンを信じるようになったという。また、タイのメディアで死者を墓から掘り起こした際にサック・ヤンの部分だけ腐敗せずに残っていたと報道されたこともある。まあ、それはおそらくインクにある鉛などの含有物で腐らなかっただけと考えられるが、タイ人は不可思議な力が働いたからだと信じている。

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 サック・ヤンはタイ独特の文化でありつつ、外国人でも入れることができる。日本だと欧米のタトゥーが主流なので、特殊な図柄で興味深いと思う。日本国内にボクが知る限りでひとり、サック・ヤンを彫る彫師がいるはず。こういう時世でタイに行けないので、サック・ヤンに興味がある人はこの人を探してもいいかもしれない。

 ちなみに、刺青は「入れたら温泉に行けなくなるかも」といった些細な不安があるなら入れない方がいい。日本ではいろいろな制限が出てくるので注意したいところだ。

 とはいえ、入れたところで温泉にもプールにも行かないような人ならなんら影響はない。よく脈略のない図柄をたくさん体中に彫っている人を見るだろう。ああいうのは、一度入れてしまって生活すると、案外人生は変わらないことに気がつき、そしてハードルが一気に下がって、思いついたら彫ってもらうという癖がついてしまうからだ。

 ボクも4ヶ所ほどサック・ヤンを入れているが、ひとつ以外は背中なので、彫ってから一切意識したことがない。これくらいでないと刺青を身体に彫ることはおすすめしない。

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