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大阪行きのスロウボート

半年に一回くらいの頻度で、週末、大阪に行っている。
北九州から大阪へ行く手っ取り早い方法は新幹線なのだけど、僕が使うのはもっぱら金曜発の夜行フェリーだ。行きは安く済ませて、帰りは思い切ってグリーン車に乗る。これがいつものパターン。

ゆったり出来るのがフェリー最大の利点だ。急いで駅に向かい、絶妙に狭い普通座席に拘束される事もない。大浴場にゆっくり浸かり、陸(〝おか〟と呼ばせてもらう)のコンビニで買った酒とツマミで晩酌し、デッキで瀬戸内海の夜風を浴びて、あとはぐっすり。
朝風呂に入ってから船内をぶらつき、船が明石海峡大橋をくぐったら、もうそこは大阪である。

そして、なんと言っても安い。
客室の等級にもよるが、僕が使うツーリストは7,000円ちょっと。カプセルホテルみたいなベッドが用意されていて、寝心地も悪くない。15,000円ぐらいでビジネスホテルみたいな個室もあり、ドミトリーに抵抗のある人も安心だ。いずれにせよ、移動+宿代と考えればコスパは破格と言える。

こんな夜行フェリーだが、回数を重ねるうち〝非日常感〟は薄れ、今ではもっとも肩肘張らないでいい移動手段だ。緊張で眠れなくなったり、割高なディナーブッフェにカネを浪費する事もない。船内での時間が、まるで自宅で過ごす時間の様に、リラックスしたものになった。日常と旅がシームレスにつながっていく。

もちろん、この〝非日常感〟とやらが完全に失われる訳でもない。
船の振動や傾きを身体で感じたとき、強風に吹かれ真っ暗な瀬戸内海を眺めたとき、なんとも言えない不安を覚える。いっぽう、瀬戸内海に朝日が昇り、巨大な明石海峡大橋が近づいてくると、やはり高揚する。

さまざまなベクトルの感情が湧き立ち、ごちゃ混ぜになり、やがて中和されていく。このアンニュイな気分を、人は〝旅情〟と呼ぶのではなかろうか。

安上がりで快適、ほどよい旅情━━。
チープな旅を学生時代から続けているが、やっぱり、こういうのが好きなのだ。


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