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一枚の絵が結んだ赤い糸

高校2年生の2月初旬、石川竜貴(いしかわ たつき)は教室で絵を描いていた。絵が完成した直後、同じクラスの杉山翔(すぎやま かける)が石川に話しかけてきた。
「絵を描くのが上手だな。それ、あの子だろ。」
杉山が指していたのは、同じクラスの上田愛(うえだ あい)だった。
石川はパタンとノートを閉じて、下を向いて答えた。
「そうだけど。何か。」
「お前も上田のことが好きか。実は、俺も彼女のことが好きだ。まあ、俺たちはライバルってことで。」
杉山は左手で、石川の右肩をポンと軽く叩き、その場を後にした。
石川は知っていた。杉山はサッカー部のエース部員で、女子からの人気者であることを。
それに比べて、石川は引っ込み思案で、友達も少ない。唯一、絵が上手だった。

杉山が去った後、上田の方を見ると、目が合った。
すると、彼女がニコッと笑った。胸がドキドキしていた。「かわいい」と心の中で思った。

チャイムが鳴り、美術の授業。教師は生徒たちに課題を与える。
「校内の好きな風景を描いてきなさい。」
教師の言葉に、生徒たち散らばり、それぞれの好きな場所で風景の絵を描き始めた。石川は、校庭にある大きな木を選んだ。その木は、学校が創立時からある木だ。
石川は一人で黙々と絵を描いていると、上田が近づき、話しかけた。
「うわ!とっても上手ね!もしよかったら、隣で描いてもいいかな?」
「ありがとう。一緒に絵を描こう。」
「ねえ、石川くん、来年から3年生だね。進路は決まった。絵が上手だから美大に行くの?」
「決めてない。ほら、僕は頭が良くないからさ。」
「そんなことないよ。絵の才能があるじゃない。絵を活かした方がいいと思うよ。」
「ありがとう。上田さんはどうするの?」
「私のことはいいよ。」
「・・・わかった。」
その後、石川は、緊張のあまり、話しかけることができなかった。
しかし、急に描いていた絵を止め、上田の方を向き、重い口を開く。
「う…上田さん、ちょっといいかな。」
「何?どうしたの?」
「きょ…今日の放課後、話したいことがあるの。この木の下に来てくれるかな。」
「何、いきなり?いいけど。あっそろそろ授業が終わる時間ね。戻らないと。」
上田は、先に行ってしまった。

上田が去った直後に杉山が石川に話しかける。
「お前ら、いい雰囲気だったぞ。」
「放っておいてよ。杉山くん、どうしよう。」
「はあ、何が。」
「今日の放課後、上田さんとあの木の下で告白しようと思う。でも、勇気がない。」
「勇気がないなら、やめたら。」
「そうだよね。」
「自分の気持ちに素直になれない奴が、恋愛なんかするな。中途半端に人を好きになるなよ。」
杉山は教室の方へ向かう。石川は心の中で「ありがとう。」と呟いた。

放課後、石川が木の下に到着すると、上田もやってきた。
「上田さん。実は言いたいことがあります。」
「何、かしこまって。」
「僕は1年生の時から上田さんのことが好きでした。僕と付き合ってください。」
上田は、下を向き、静かに答えた。
「ごめん、あなたとは付き合えない。だって、私…4月から札幌の女子校に転向するから。」
「えっ…」
「それに、あなたのこと好きじゃないの。ごめん。」
上田は走って行ってしまった。
木の下で石川が落ち込んでいると、杉山がやってくる。
「石川、本当の恋愛ってさ、何回も『好き』って言えることだと俺は思う。お前の絵が赤い糸を結ぶかもしれないぞ。」
その言葉で、石川は閃いた。すぐに家に帰り、絵を描き始めた。

次の日の放課後、同じ場所で、上田と待ち合わせをした。
上田がやってくると呆れた顔をして言った。
「石川くん、しつこい男は嫌われるよ!」
「上田さん、これを受け取ってほしい。」
絵は、札幌にある大学を指していた。上田もその大学を悟った。
「上田さん、僕はこの大学に行く。だから、この大学の校門で待っていてほしい。もし、合格できなかったら、連絡する。この大学で会うことを信じているから。」
「ちょっと待って、勝手に決めないでよ。それに、どうして私にこだわるの?」
「男が女に一目惚れをしたら、必ず付き合いたいって思うから。それじゃ。」
石川が去っていく姿を上田は無言で見ていた。

それから、あっという間に月日は流れ、上田は転校してしまった。
上田が転校した後、石川は勉強をしていた。杉山にもお願いをして、勉強を教わっていた。

それから高校を卒業した石川は札幌の大学の校門に行く。
絵が指した場所にいた。すると、ある女性が話しかけて来た。
「石川くん、久しぶり。今日から同じ大学だね。」
「つまり、上田さん。」
「うん、この絵を見ていたらね。石川くんのことが好きになってきた。実は、杉山くんから聞いていたよ。熱心に勉強していたって。ありがとう。」
「杉山くん…僕の親友だ。」
「ねえ、石川くん、目をつぶって。」

石川が目をつぶると、上田はキスをした。
その後、2人は手を繋ぎ、入学式に向かって行った。

#2000字のドラマ

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