アツギの炎上で考える(前編):「オタク」と「一般」、その文化の境目

かつて、いかにもなオタク趣味の愛好家たちは、公の場でその趣味を隠すのが普通だった。

私の世代だと、小学生の頃に宮崎勤というシリアルキラー(当時はアニメオタクのイメージで報道されたが、実態は違うらしい)のせいで社会全体に「オタクは怖いもの」という刷り込みがなされ、中高生の頃に旧エヴァが流行ってそれが緩んでいった、という流れがある。

その下くらいの世代になると、対象年齢層の高いアニメと一般人との関係がぐっと近くなった。

特にアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」は普通の中高生にもよく観られた作品であり、一般層の中に「健全な大人向けアニメ」という新しい枠が生まれたといっていい。

その辺りから、「自分がオタクであること」自体をそれほどコンプレックスに思わない世代が形成されてきたと思う。

…そして現代。

親世代でも「ドラゴンボール」「ワンピース」あるいは「名探偵コナン」に素養があり(現在の各作品の展開を追ってるかどうかは別として)、「鬼滅の刃」や「SPY×FAMILY」を観ている程度でオタク扱いというようなことはなくなってしまった。

ヒットチャートのアニソンが占める割合も増えて久しい。非アニソン専業アーティストもきちんとアニメの内容に沿った曲をリリースするのが当然となった。

なので、今の若者世代は、アニメ視聴のような「オタクみたいな趣味」を1つ持つ程度ではオタクと呼べなくなってしまった。
皆ある程度小ざっぱりした服装を着るのがたしなみとして身についているし(ファストファッションが子供の頃から身近というのもあろう)、特に女性は「わかる人にはわかる小物」をつけていることでようやくオタク度の高さがわかる程である。

結果、若者の中ではオールドスタイルのオタクは減っているし、特に見た目がなかなかな人達(婉曲)についてはどちらかというとうつ病や発達障害の文脈でクローズアップされている傾向がある。


ここまで「オタク」が「一般」と混ざってくると一つの問題が起きる。

オタクのノリが、どこまでなら「一般」に受け入れられるか、それを読めていない若者世代が生まれている。

児童文学の絵も近年アニメ絵化しているが、イラストレーターは健全さを考慮して、煽情的にならないキャラビジュアルや構図で絵を描いている。
仮に完全に趣味で作る同人誌では何を描いていたとしても、仕事でそれはやらない。
また彼らは編集者がついているので、編集者からNGを出されて描き直すこともあるだろう。

一方、編集者がつかないSNSのようなところではその判断を投稿者自身、または所属企業自身がつけなければならない。判断が甘いSNS担当者だと当然のようにオタクのノリを出力してしまう。

アツギ社の炎上問題はここにあると思っている。

有名な炎上案件である、2020年の「ラブタイツ」。
これはタイツを履く女の子達を多くのイラストレーターに描いてもらった作品群なのだが、この絵柄の構図がスケベ目線だったため炎上したのだ。

実は、アツギの広報は女性比率が高いとされる。だが「女性が企画したからといってスケベ目線の絵はスケベな絵だ」という目線がない。
濃いめのオタクは総じて二次元のエロい構図に麻痺をしているところはあるが、多くの人は仕事ではそうならないよう気をつけるだろう。これはオタクの感覚を「一般」に押し付けたということなのだ。

アツギのストッキングのパッケージを見れば、むしろ「カッコイイ女」アピールをしたい企業なはずなのだ。そのカッコイイ女達の多数派はオタクのノリを知らないだろう。
また、タイツは制服を着る中高生がよく履くものでもある。娘達の親が大事な子供をその目線で見られて嬉しいはずがない。

当初こそツイフェミが火を付けた節はあれ、最終的には「複数のメーカーが並んでたらなんとなく他社の方を買ってしまう」という程度にメインユーザー達の不興を買ってしまい、株価にも影響した「ラブタイツ」。
後述する2024年の炎上案件をみる限り、少なくとも広報部署全体において不興を買った原因をまだわかっていないようだ。

なお、「一般」の方から「オタク」の領域に侵犯したケースがいわゆる宇崎ちゃん騒動だ。これはツイフェミが悪い(笑)。


「ラブタイツ」炎上は2020年の話だが、人の噂も…というように、炎上案件は普通2、3ヶ月も経てば収まるものだ。しかし、この後暴落した株価は長く戻らず、業績も悪化した。

で、2023年に一度プチ炎上して(笑)、ようやく業績が上向いて株価も上がってきた2024年にまた炎上だ。
ストッキングブランド「アスティーグ」のXアカウントで、アンチフェミニストの投稿にいいねをつけた。

こちらの炎上に関しては、2020年とは別の要因を考えないとならないと、私は考えている。

先にストッキングのターゲット層を「カッコイイ女」と書いたが、これはアスティーグシリーズのコンセプトやイメージ戦略を元に私が解釈したものだ。

何故その層にそっぽをむかれるようなことを繰り返していくのか、後編で考察していく。

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