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酒場一人

ふと一人で飲みにいこうと思う時がある。

友人と飲む酒は、共通項の話題で埋めつくされるため、文字で起こすと同じ言葉が繰り返される。同期の中川が結婚したやら子供が生まれたやら、会話の中の哀愁を展開させたり、笑いの方にもっていったりと、テーマの選定と展開の繰り返しだ。

一人で飲む酒は何が違うのだろう。初めて一人で飲んだのは大学のテスト前日、嫌になって夜のコンビニで飲んだチューハイはプレッシャーを軽くさせた。このようなありきたりな流れで始まった一人酒生活でだが、スナックやバーでのお酒はまた一味違う。一人席に座り、心で乾杯をつぶやき少しづつ嗜む。この時に私は自分自身がオンラインになっている事を感じ、同じオンラインになっている人がいるか周囲の様子を見る。隣の客は友達二人で来ており、完全に世界が閉じている灰色君だ。端に同じく一人常連でたたずんでいるご年配がいる。きっと隣の二人が帰ればオンラインの繋がりが出来るはず。そう、一人で飲むには周りとの共同作業が大事なのだ。

好きなウイスキーを2杯ショット飲み干したところで隣が席を立った。友人と飲む酒というのはどこで飲んでも友人との酒なのだ、場違いなやつめと心の中の言葉をアルコールと共にしまい、三杯目も同じウイスキーを頼む。同じのを頼むと少しずつ量を増やしてくれるのはマスターのやさしさだろう。しばし、会話に耳を傾けてみる。

「昔海外に赴任してた時にこんなお酒があってね・・・」
半分わからないが少しづつ相槌を打ちつつ更に耳をすます。まずは聞いてますアピールで、マスターとご年配が少しづつこちらにも目を配るのを待つ。
「一緒に飲んだローカルの仕事仲間と仲良くなってね・・・」
目が合ってきたらマッチングの成立だ。会話の隙間を狙い、質問でつなげてみる。
「アジアに長くいらっしゃったんですか?」
会話が連なっていくのを感じながら、文字通りの一期一会を味わう。お酒の味と、人の味わいと。人は人生に一本なら自分の人生を基にした面白い小説を書けるらしい。今日も酒場に一人、みんなと飲んでいる。

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