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人生ドラマ「なんでもない日」「#テレ東ドラマシナリオ」

「なんでもない日」
作 重信臣聡

あらすじ
29歳最後の日を迎えたバンドマンが兄の遺品整理のために実家に帰ってくる。
そこに隣人で初恋相手だった幼馴染が訪れる。

登場人物
タカヒロ 29歳のバンドマン。
エリ 幼馴染。

◯兄の部屋 昼
きれいに整理整頓された一軒家の一室。
タカヒロ、ドアを開けて、部屋に入り、部屋を見回す。
壁には3月のカレンダーがかけられている。
タカヒロ、カレンダーを見る。
月初の日付には几帳面な筆跡でところどころ印がつけられている。月の後半の2週に関しては全く印がついていない。

タカヒロ「几帳面だな」

タカヒロ、本棚を見る。
本棚には本とゲームソフト分けられ、本はアイウエオ順にゲームソフトは発売日順に並べられている。
タカヒロ、ゲームソフトを一本取り出してしばらく眺め、やがて逆さにして棚に戻す。
タカヒロ、くつくつ笑いながら。

タカヒロ「よく怒られたっけ」

タカヒロ、ベッドに腰掛け部屋を眺め、兄の痕跡を探す。
タカヒロ、ベッドに仰向けに寝転ぶ。
携帯電話の着信音。
タカヒロ、動かない。
電話は鳴り続ける。
タカヒロ、ズボンのポケットから携帯電話を取り出す。
「浜辺さん」からの着信。
タカヒロ、電話に出る。

タカヒロ「はい・・・すみません、大丈夫です。はい。すみません。わかってます。・・・はい、今、実家で。明日までには。はい大丈夫です。必ず。送ります。大丈夫です。メロディはもう一通りできているので。あとはアレンジの直しを少しだけ。はい、心配かけてすみません。失礼します」

タカヒロ、携帯電話をベッドに放り出し、寝転ぶ。
タカヒロ、部屋の隅のダンボール箱に入っているギターが目に入る。
タカヒロ、ギターに背を向け、目を閉じる。

◯兄の部屋 昼 しばらく後

タカヒロ、ギターを取り出す。ギターには埃が被っている。
ギターを置き、部屋を出る。
ベッドの上の携帯電話の着信音が鳴る。「エリ」からの着信。やがて切れてすぐに2度目の着信。それもしばらくして切れる。
タカヒロ、マスクをつけ、雑巾を手に戻ってくる。
タカヒロ、ギターの埃を丁寧に落としていく。
タカヒロ、掃除を終え、軽く弦を爪弾く。緩くなった弦。
タカヒロ、チューニングをする。
ベッドの上の携帯電話の着信音が鳴る。
タカヒロ、気にするそぶりもなくチューニングを続ける。
着信音が途絶える。
タカヒロ、ギターを手にCCFFのコード進行を弾く。

タカヒロ「・・・ありきたりすぎるな」

玄関のチャイムが鳴る。
タカヒロ、動かない。
再びチャイムが鳴る。

タカヒロ「母さん?」

チャイムが鳴る。

タカヒロ「誰もいないのか」

ギターを置き、部屋を出る。

◯兄の部屋 30秒後
エリ、ドアを開け、部屋に入る。
エリ「お邪魔しまーす」

タカヒロ、部屋に入る。

エリ「うわー、懐かしい、小学生ぶりかも、やっちゃんの部屋」
タカヒロ「あんま荒らすなよ」
エリ「荒らさねえし、アラサーの大人だし」

エリ、ベッドに腰掛ける。

タカヒロ「どうだか」
エリ「やっちゃんっぽいよね、本棚とか、ゲームとか、あんたと違って」
タカヒロ「うるせえな、相変わらず、30になっても」

タカヒロ、ギターを片付けようとする。

エリ「それあんたの?」
タカヒロ「いや、兄貴の」
エリ「それ弾いてなかった?高校?中学のとき?文化祭か何かで」
タカヒロ「忘れた」
エリ「年だな」

タカヒロ、ギターをしまい、距離を測りつつ、エリの隣に腰掛ける。
タカヒロ、それとなくエリを見る。

エリ「どうなの、最近」
タカヒロ「まあ、ぼちぼち」
エリ「音楽は?」
タカヒロ「うん、やってるよ」
エリ「そうなんだ」
タカヒロ「お前は?」

二人、目が合う。

エリ「ん?」

タカヒロ、目をそらして。

タカヒロ「どうなの、最近」
エリ「んー、サイコー?」
タカヒロ「嘘くせえ」
エリ「毎日仕事かな」
タカヒロ「へえ、楽しいの?」
エリ「フツー、たぶん」
タカヒロ「へえ」

エリ、ベッドから立ち上がり、棚の方へ。

エリ「あ、このゲーム3人でずっとやってたやつだ」

エリ、棚からゲームソフトを取り出す。
タカヒロ、彼女の横顔から目が離せない。

エリ「覚えてる?」
タカヒロ「・・・」
エリ「聞いてる?」
タカヒロ「忘れたよ。そんな大昔のこと」
エリ「そっか」

エリ、ベッドに腰掛ける。

タカヒロ「なんだよ」
エリ「残念」
タカヒロ「お前も覚えてないだろ」
エリ「覚えてるよ。私は覚えてるよ」
タカヒロ「・・・へえ」
エリ「あ、疑ってる?」
タカヒロ「別に」
エリ「3人でこの部屋でゲームしたこととか、あんたがぼろ負けして泣いてたこととか、しょうがないからやっちゃんと二人で手加減して負けてあげてたこととか」
タカヒロ「なんだよそれ」
エリ「中学入る前はあんたが私のことエリちゃんって呼んでくれてたこととか、全部覚えてるよ」
タカヒロ「はぁ?」
エリ「それが今ではお前だもんね、昔は可愛かったな」
タカヒロ「小学生の頃と一緒にするなよ」
エリ「あの頃が一番楽しかった、そう思う時ない?たっくん」
タカヒロ「・・・ない」
エリ「あっそ」
タカヒロ「・・・」
エリ「なんか弾いてよ、せっかくだから、昔のよしみで、ねえ、たっくん、」
タカヒロ「・・・そういうのやめろ」
エリ「おーおー、プロだから無料では弾けないのか?久しぶりに会った幼馴染だってのによー」
タカヒロ「そーゆうの好きじゃない」
エリ「あっそ」
タカヒロ「用が済んだら帰れよ」
エリ「なにそれ、怒った?」
タカヒロ「暇じゃないから」
エリ「せっかく会いに来てやったのに」
タカヒロ「余計なお世話」
エリ「またまた、私に会いたかったくせに」

エリ、タカヒロの頭をくしゃくしゃに撫でる。
タカヒロ、その手首を掴む。

エリ「・・・ねえ・・・ちょっと痛い」

タカヒロ、放す。

エリ「ごめん。悪かったよ」
タカヒロ「・・・」

エリ、タカヒロの顔を覗き込むように。

エリ「ごめん」

タカヒロ、立ち上がり、ギターを手に、ベッドから離れた椅子に腰掛け、ギターを弾く。

エリ「それ覚えてる。ずっと練習してたよね、中学の頃かな?」

タカヒロ、ギターを弾く手を止める。

タカヒロ「・・・」
エリ「・・・どした?」
タカヒロ「練習してたよ」
エリ「だよね、なんか聞き覚えあるもん」
タカヒロ「学校から帰って、毎日弾いてた。誰もいない家で。一人で」
エリ「そうだっけ、聴き覚えあるよ」
タカヒロ「この部屋なら聴こえるよ、隣だから」
エリ「え?」
タカヒロ「この部屋で聴いてたんだろ、兄貴と二人で、学校サボって」
エリ「あー、それは・・・」
タカヒロ「今更隠すなよ、なんとなく知ってたし」
エリ「・・・」
タカヒロ「兄貴が学校サボるのなんてよっぽどのことだったんだと思うよ」
エリ「ごめん」
タカヒロ「なんで謝るの?」
エリ「・・・」

携帯電話の着信音。

エリ「電話」
タカヒロ「・・・」
エリ「鳴ってるよ」
タカヒロ「知ってる」
エリ「・・・出なくていいの?」
タカヒロ「どうせわかってるから」
エリ「なにが?」
タカヒロ「内容。曲の催促だから」
エリ「仕事じゃん、出なよ」
タカヒロ「いいんだよ。もう分かりきってるんだから」

着信音が止む。

エリ「違うよね、そういうとこ。兄弟なのに。おんなじ顔して、おんなじ環境で、おんなじように育っても、全然違うよね。やっちゃんとは」
タカヒロ「几帳面で真面目で真っ当な社会人の兄貴とロクでもない弟」
エリ「そんなこと思ってな・・・」
タカヒロ「そんなこと言いに来たの?わざわざ」
エリ「言ってないでしょ」
タカヒロ「兄貴が死んだら、俺と付き合おうと思った?」
エリ「・・・やめてよ、そんなこと言うのやめてよ」
タカヒロ「俺、兄貴の代わりじゃないから」
エリ「最低」

エリ、立ち去ろうとする。

タカヒロ「どっちがだよ、勝手に押しかけてきて、人の気も知らないで」
エリ「そうだね」
タカヒロ「なんだよ」
エリ「安心して、もう二度と来ないから」
タカヒロ「ああ、よかったよ。安心した」
エリ「おめでとう」
タカヒロ「は?」
エリ「29歳最後の日、おめでとう」
タカヒロ「・・・」
エリ「サヨナラ」

エリ、ドアをピシャリと閉め出て行く。
タカヒロ、ドアに手を掛ける、しかし開けられない。
遠ざかって行く足音、玄関のドアが開き、閉まる音。

タカヒロ「なんだよ」

タカヒロ、ベッドに腰を下ろし、部屋を眺める。
ギター、整頓された本棚、もう二度とめくられることのないカレンダー。
タカヒロ、立ち上がり、カレンダーの前に立つ。
タカヒロ、3月のカレンダーをめくる。4月1日に◯がつけられ、兄が描いたバースデーケーキの落書きが書かれている。
タカヒロ、そっと落書きに触れる。

タカヒロ「さよなら29歳」

タカヒロ、ギターを手にCC7FFのコード進行を弾く。
着信音。
タカヒロ、ギターを弾く手を止める。
着信音は鳴り続ける。
タカヒロはゆっくり立ち上がり、携帯を手に取り、電話に出る。

タカヒロ「もしもし・・・はい・・・すみません。いえ・・・大丈夫です。もうすぐ出来ます。はい・・・ご心配おかけしてすみませんでした。・・・はい。・・・はい、失礼します」

タカヒロ、携帯電話を切るとベッドへ放り投げる。

タカヒロ「よろしく30歳」

タカヒロ、ギターを手に取る。

テーマ


劇作家。演劇、ミュージカル、オペラの台本作家です。