アメリカで人生初のファシリテーターデビュー
英語が苦手
日本にいたころ全く知らなかったアドベンチャー・プログラムやアドベンチャー・カウンセリングという世界にアメリカで出会い、いきなりBeverly YMCAの門を叩いて直談判し、とにかく教えてくれと偉そうに訴えたわけです。
次からどうすれば良いなんか考えていません。僕のダメなところでもあり強みでもあるのですが、『これや!』と感じたら後先考えずに即・行動に移って壁にぶち当たってもまた何とか違う方法を探したり工夫して前に進んでいこうとします。
失敗と挫折だらけの人生なんです。
さて、そんな僕は以前の記事でお伝えした通りファシリテーターの師匠達のアドバイス通りに彼らがプログラムをしているそばで長い期間shadowingを続けていました。
一番の壁は、英語です。
ファシリテーターと参加者がマサチューセッツ州独特の方言で話すボストン訛りの英語に付いていけずに、何を話しているのか理解できない部分がかなりあったわけです。
例えば、「フラフープを両手離さずにくぐってチョンマゲ〜」ってユーモアたっぷりにファシリテーターが言っているのも全部英語なんで、ユーモアもキャッチできませんでした。知らない単語も機関銃のように乱射されたら、もうお手上げですよ。
shadowingが終わるとみんなでディーブリーフィング(振り返り)を行うのですがそこで、ファシリテーターから細かなシーンごとの描写からどんな洞察をしたかという質問攻めにあう中で、一つひとつ分からない単語や言い回しをこっちも質問攻めし返してやります。彼らからの僕に対する無料英会話レッスンも繰り広げられるわけです。
だって彼らが何言っているかさっぱりなので、一つ一つの単語から言い回しから彼らが伝えたい内容も根気よく丁寧に説明してくれないとコミュニケーションが成立しないし、前に進まないわけです。
今振り返ると、お互いに良いトレーニングになっていたと思います。
ファシリテーターの師匠達にとったら忍耐力や根気が付いたでしょうし、自分にとってもどんなことがあってもコミュニケーションを放棄せず相手をしっかり理解するための姿勢が身についたと思います。
shadowingを通して記録も怠らず時系列に彼らが何を察知して次の言動に繋げているかを感じていくわけです。英語の壁も徐々に克服していきました。ファシリテーターによって表現する時に使う単語や言い回しにある一定のパターンが存在することにも気づきました。
ファシリテーターの癖も分かってきます。
アクティビティひとつとってもファシリテーターによって違う表現やインストラクションの仕方で参加者に紹介しているところも把握できるようになってきたり、逆にどのアクティビティのインストラクションでも表現方法は違えど共通するキーポイントも見えてきます。
ファシリテーターデビューのチャンスが!
長い期間shadowingばかりでしたが、ある日Beverly YMCAのディレクターから
「Tick Tack(ティックタック)来週、お前もアクティビティの一つか二つやってみるか?」。Tick Tackというのは私のニックネームです。
ディレクターの言葉が本当にありがたく嬉しすぎて何も考えずに「全部やりたいです!」と応えました。
「Tick Tack、それはまだダメだ。先ずは1・2個アクティビティをやってみなさい」
みなさんが想像できないほど長い期間shadowingだけしかさせてもらえなかった自分にチャンスが訪れて来たんです。
Shadowingをしている間はアシスタント・ファシリテーターでもなくただの見学者ですから、やっと認めてもらえた気分になり興奮が冷めません!
早速、僕は長期間蓄積したshadowingの記録を一つ一つ復習しながらどんなアクティビティをしたいかを選ぶ作業を開始しました。
超楽しいわけです。選んでいる最中、リード・ファシリテーターが誰になるかを想像したり参加者の顔を思い浮かべながら、わくわくしながら一つとっておきのアクティビティを抜粋するわけです。
無数にある優秀なアクティビティの中から一つ選ぶのにどれだけ悩むか。そして悩んで考えている時間がどれだけ楽しいか!まるで世界中からノミネートされたたくさんの優秀な美人から一人のミスユニバースを選ぶくらい難しい作業やと思いながら・・・けど楽しくって
わくわくドキドキ
悩みに悩んで選んだのが
ジャジャーン
『Triangle Tag(トライアングル・タッグ)』
練習あるのみ
みなさんなら英語でどうやって紹介しますか?そう、参加者の皆さんが本当に前向きな気持ちで取り組んでもらいたいと願っていました。
説明の途中でもし参加者の誰かに
「はあ?今何て言ったん?」「分からへん、もう一回説明して」
そんなこと言われたらどうしよう
若しくは、理解されずに参加者のみんなに白けられて空気がどよんでしまったらどうしよう
人生初のファシリテーターデビューであったし若かりし頃ということもあって、むっちゃ緊張しながら真面目に手を抜かないように練習しなければと必死でした。失敗したくないとかも強く思っていたと思います。
ファシリテーターの師匠達や大学内の先生やネイティブスピーカーのアメリカ出身の友達に聞きまくって台詞作りからスタートです。自分でプログラム当日をイメージしながら、最初に参加者のみんなが会場に到着した瞬間からどんな風に立ち振る舞い、最初に円になってもらうにしても英語で何て声かけて円になってもらおうか?
冗談なしに参加者が到着した瞬間から姿が見えなくなるまでの全てをイメージして幕が開いてから閉じるまでの演劇の台詞を全て細かく作るような作業をしました。
参加者と接する瞬間の台詞は
「Hi, everyone」にするか
「Thank you for coming, howdy?」がよりベターか?
「What’s up!」って言いながらハンドシェイクする方が良いか?
選んだアクティビティの説明もみんなにとって良い時間になるように一言一句台詞を考えます。
「じゃあ、みんな4人組になってください」
「4人組になったら一人余ったりするかなあ?」
「みんな4人組を作れる?」
全部英語の文章に直します。
「4人組になったねえ、ありがとう」
「じゃあ、次なんだけど」
「4人の中で大統領とスナイパーを決めてくれる?」
大統領(President)が良いか王様(King)が良いか、悩んだりしながら全部英語の台詞を考えて作ります。
一つのアクティビティをするために時間をかけていろんな人のアドバイスをもらいながら台詞を完成させるんです。時間はかかるのですが、当時はとても大切な作業と信じてやってました。適切な言葉を探します。そして完成した台詞を鏡の前で練習しました。
エンディコット大学の寮の自分の部屋の片隅にもたれかかっている全身映る縦長細い鏡の前で、自分の表情もチェックしながらスムースに詰まらないように、あたかも自然とその瞬間に出ている表現になるように練習します。
練習して練習して練習します。
参加者のことを思い浮かべながら、自分の前には参加者がいるとイメージして鏡の前で台詞をすらすらっと話せるようになるまで。
とにかく練習あるのみでした。
鏡とにらめっこの毎日です。
勿論相手は心と魂を持った人間ですから、台詞通りに物事が進むという保証はありませんが、基本を練習しないと応用も対応もできません。
今まで長期間shadowingを続けて、色々なファシリテーターの師匠達の姿を見学しながら学んできました。その師匠達の様々なスタイルを盗み表現方法も参考にしながら一生懸命参加者のことをイメージし作り上げた台詞。
デビュー本番
師匠のファシリテーターが参加者の心と体をほぐしてくれてから私にバトンタッチしていただき記念すべき初のファシリテーション〜『Triangle Tag(トライアングル・タッグ)』をさせていただきました。
練習した英語の台詞通りに参加者の皆さんにアクティビティを紹介して、彼らの目をちゃんと見て理解してくれているか確認しながら、練習した台詞と分からないようにあたかも自然に今その場で心から発する言葉として、なんとかコミュニケーションをとりました。
あれだけ練習したけどタジタジだったなあと思います。
参加者の一人が「Tick Tack、今なんて言ったの?」と自分の英語が通じなかったとき、他の参加者が「Tag 鬼ごっこ」って言ったと思うよとサポートしてくれました。そうして参加者のいろんな人たちが自分の説明を理解しようとして一生懸命になってくれたり、参加者同士でTick Tackが説明したことを分からない参加者に説明してくれて一緒にアクティビティを楽しもうと場づくりしてくれたんです。
大切なことを教えてもらった気がします。
参加者と師匠のおかげで、とても楽しい時間と空間になりました。この経験がとても大きかったです。参加者のみんなと場を作っていけばこんなに素敵な空間になっていくんだという思い出になったなあと思います。自分だけでやろうとしたり完璧やミスを恐れて隙を見せないように気張ったりしようとしてた自分を、当時の参加者たちがあんなに暖かくサポートしてくれたお陰で英会話をパーフェクトにすることよりも大切なことを教えてもらったかもしれません。
人生初のファシリテーションで小さな成功を重ねることができたから今の自分があるように思います。
あなたも小さな成功をかけがえのない宝物にしてください。