中央と地方:ふるさと納税騒動から考える地方自治のあり方
はじめに
泉佐野市とふるさと納税は、長らく世間を騒がせており、自治体の立ち位置について、意義が大きい裁判例が多く出ている。
本Noteでは、特別地方交付税の額の決定取消請求事件(大阪地判令和4年3月10日)を取り上げる。控訴されているため最終的に確定はしていないが、この判決において原告の請求を認められ、ふるさと納税による多額の寄付金収入を理由に、特別交付税を大幅に減額した決定は違法であるとの判決が出ている。
具体的には、令和元年度における市町村に係る特別交付税の額の算定方法の特例を定めた、特別交付税に関する省令附則は、ふるさと納税寄附金に係る収入が多額であることをもって、特別交付税の額を減額するものであって、地方交付税法15条1項の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効であるということが示されているのである。
なお、泉佐野市のふるさと納税に関するやり方が適切だったかという点については様々な考えがあるため、本Noteでは触れない。
自治体の財源
さて、本判決の意義を理解するためには、自治体の財源に関する仕組みを理解する必要がある。かなり単純化して述べると、住民の数に応じて必要な財源額が計算され、その財源額から各自治体の税収等を除いた額が、地方交付税交付金として支給されるという仕組みである。すなわち、たとえ各自治体の税収等が減少したとしても、その分は地方交付税交付金の額が上がるため、自治体として使える額は変わらないのである。
しかし、現在の自治体の必要な財源額は、住民の数によってのみ左右されるわけではない。例えば、観光立国という言葉が掲げられて久しいが、観光客数の増加は自治体として必要な財源額の上昇を意味する。当然、観光客も自治体の様々なインフラを活用するのであり、それには費用がかかるからである。地方交付税交付金の仕組みは、自治体の視点から見ると、観光客の人数が増えたとしても、自治体として使える財源は変わらない一方で、支出は増えてしまう状況を作り出しているのである。
こうした状況に対し、自治体が試行錯誤して対応している。宿泊税をはじめとする法定外税はその一つの手段である。かかる税収は、地方交付税交付金の算定の基礎とはされないため、宿泊税収はそのまま自治体の新たな財源として活用できるのである。そして、ふるさと納税も同様の仕組みだったため、多くの自治体がふるさと納税に関して様々な取り組みを行い、財源確保に勤しんでいるわけである。
こうしたことが背景にあったため、総務省の特別交付税を大幅に減額した決定は自治体にとって大きな問題となった。
法の委任の範囲を逸脱したか否か
さて、本件のメイン争点は本件各特例規定(ふるさと納税寄附金に係る収入が一定額に及ぶことについて特別交付税の減額要因となる事情として定めること)が、地方交付税法15条1項の委任の範囲を逸脱したか否かという点である。省令とは各省大臣が発するものであるが、法律の委任の範囲内で制定可能という制限があるため問題となる。憲法において、そもそも国会が唯一の立法機関であり、法律の委任があって初めて政令や省令という形式で立法を行うことが可能となると定められている(憲法41条、73条6号参照)。
この点について、判決は委任の趣旨及び本件各特例規定の性質について、以下のように述べた上、結論として法の委任の範囲を逸脱していると判断している。
地方交付税法15条1項の委任の趣旨:
本件各特例規定の性質:
委任の趣旨については、一般的な内容を述べており、簡単に言ってしまえば、国会よりも行政に任せることが妥当なものは、行政に任せるべきということを述べている。そして、本件各特例規定は地方交付税の本質的事項に関するものであること、自治体への影響が重大であることを考慮して、政治的に解決すべきと述べている。
今後の影響
控訴されており、今後結論がひっくり返る可能性もあるが、本判決の意義は大きい。ふるさと納税については、既に法律レベルでさまざまな改正がなされており、この判決にかかわらず従前のような形で自治体がふるさと納税を集めることはできない。一方で、この判決は、自治体は決して中央に従うだけの存在ではなく、自身で様々な自己決定ができる存在であることを改めて示している。
今後、日本全体で一律に決めることができないことは多くなっていく。特にまちづくりでは、地域ごとにどのような将来像を目指すのか、どのようにその将来像に向かって進んでいくのかということが重要であり、必然的にそこには地域の独自性が現れる。技術的助言といった法的拘束力のない国の発信に盲目的に従うのでなく、自治体としては、しっかりと自身の責任で法令を解釈した上で、適切な解釈に従った自治を実践していくべきである。