技は教わるものではない。盗むもの
日本には、職人や芸能などの世界で、弟子入りする、という素晴らしい制度がある。しかし、昨今では弟子入りすることは大変だからと敬遠され、弟子の数は減少しているらしい。
「技を盗め」とは、芸の達人たちが口を揃えていう言葉である。ある噺家の人が弟子に対して、こう苦言を発していた。
「弟子入りする子たちは、まず師匠の身の回りの世話をすることから始まる。弟子たちは、みな師匠から教えてほしいと口を揃えて訴える。でも、私は滅多なことでは教えない。
私が高座に上がるとき、いかに自分の体調が悪かろうが、高いお金を払って見てきてくださっているお客さまに、精一杯楽しんでもらおうと、いつも全身全霊で噺をしている。
でも袖裏で、弟子たちはそんな師匠の姿を見ることもなしに、仲間同士でお喋りをしている。
もし、師匠の技を得たいと考えるならば、師匠の噺家としての姿を、後ろから真剣に見ようとする筈。でも、師匠の技を盗もうと思っている弟子は滅多にいない」
また、すきやばし次郎を経営する小野二郎さんも同じようなことを言われていた。
「技は教わろうとするものではありません。技は盗むものです。なぜなら、教わったことはすぐに忘れるからです。苦労して、先輩や師匠から盗んだ技は、自分の中に蓄積されていって、忘れることはありません」
昨今は、セミナーなど、誰もがお金と時間さえ費やせば、容易に知識やノウハウを得られる世の中になっている。それはそれで素晴らしいことだと思う。
しかし、セミナーでいろいろと教わっても、その場限りで、しばらくすると忘れてしまうことが多いのではないか。私自身の経験からも、自戒を込めて、そうだと感じている。
セミナーは、単に知識を得て物知りになるためではない。そのような受け身の姿勢では、自分の身にはつかないだろう。
「得られた知識を自分の中に取り入れて、それを自分の成長のために、どう活かそうか」と前向きに取り組む。そして、それを具体的な行動につなげることがとても大事だと思う。
そういう意味では、セミナーを受けるにせよ、最終的には、自分で工夫し、試行錯誤する「独学」を行うことが欠かせないと考える。
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