「期間限定」は定期的にやってくる:浪費を抑えるマインド
購買意欲を掻き立てるキラーフレーズのひとつは、「期間限定」であろう。
これを活用した宣伝文句としては、たとえば「◯%OFFセールは◯日後に終了」であるとか、「8月31日まで分割手数料0」などがあるだろう。前者はとある英語の発音矯正アプリで、後者は楽器店で、それぞれ筆者が実際に目にした謳い文句でもある。
いずれも、お得に購入できる機会を逃さず、今すぐ決心するようにと我々に働きかけてくる。
筆者も、企業のこうした戦略に見事にはまり、自ら設定した月の予算をオーバーしているにもかかわらず、購入してしまった経験がある。
もちろん、「初回ダウンロード限定」のように、システム上・ないしは物理的にその機会を逃すと手に入れられないモノ・サービス・割引というのも存在する。
だが筆者は、「期間限定」を謳う広告・宣伝の大半は定期的に繰り返されており、目の前で展開されているセールが最初で最後ではないということに気づいた。
この事実を改めて(あるいはようやく)認識して以降、わき上がってくる物欲に対し、外部から冷静な判断を下すためのソフトがインストールされたように感じている。以下、そうした気づきについて記述していく。
定期的なセールの代表的なものとして、Amazonのプライムデーセール、ブラックフライデーセールがある。
毎年同じような時期に大規模なキャンペーンが実施されており、YouTubeなどでは、その時期に合わせて「プライムデーで買うべきもの◯選」といった動画がいくつも投稿される。
筆者も、セールに合わせて買う商品をリストアップし、来るべき日に向けて準備をおこなう。実際、セールを待たずに買わなければならないものはほとんどない。化粧水など消耗品以外の物品は、ほとんど何らかのセールのときにまとめて買っている。
このように、毎年・あるいは毎月・毎週といった決まったサイクルでやってくる特売日というのは、スーパーやECサイトをはじめ、さまざまな場所で展開されている。趣味の領域にも、当然このサイクルは当てはまる。
たとえば、楽器店では夏になると「サマーセール」、「8月31日まで分割手数料0」などののキャンペーンを打ち出していることがおおい。しかし、大抵のばあいには「オータムセール」、「ウインター(クリスマス)セール」、「年末年始セール」、「新学期セール」などと名前を変え、つまり1年を通して、全く同様のキャンペーンが繰り返される。
しかしながら、Amazonやスーパーでの買い物と比較して、楽器などの趣味の領域において「すこし待てば似たセールがあるかもしれない」と考え購入を見送る、というのは、いささかハードルが高い行為に感じられる。むしろ、「この機会を逃すまい」と、多少無理をしてでも購入に踏み切ってしまう人がおおいのではないだろうか。さらに、類似のセールが必ず実施される保証もないし、廃盤になったり、値上げされたりする可能性もある。
それでも、「今すぐ買う必要はないのでは?」とすこしでも立ち止まる事ができれば、浪費を極限まで抑えた上で、使うべきところにきちんと予算を注ぎ込む事ができるのではないだろうか。
もちろん筆者には、定期的にセールを繰り返す企業戦略を否定するような力はないし、またそうした資格もない。そもそも、人によってそのサービスや商品を購入しようと思うタイミングはまちまちであり、定期的に打ち出すセールは、前回のセール以降に獲得した顧客・あるいは潜在的な顧客がメインターゲットであると考える方が妥当であろう。
その点で、自社製品・サービスに興味をもった消費者全てにアプローチするという企業の姿勢は、利益を最大化するという資本主義社会の基本理念に則った至極真っ当な行為であり、(資本主義を是とする限り)否定されるべきものではない。
しかしながら、行きすぎた資本主義から抜け出したり、そこまではいかなくとも、それに疑義をもつ人々——筆者は、後者の立場をとっている——は、こうした企業戦略を批判的に検討し、必要に応じて距離を取るだろう。
何度も「期間限定」という修飾語のついたセールや特別プランが提供されるなら、初めてその情報を得た瞬間に購入する必要はない。
むしろ、次のセールを待つ間にじっくりと検討をおこない、自信をもって要・不要の判断を下せるようになっておくべきではないか。
そもそも、本当に必要なサービスであったり、絶対に買おうと思っていたりすれば迷わず購入・課金するはず——たとえそれが高価であっても——である。迷ったり、月の予算をオーバーしたりするのであれば一度購入は控え、再度お得に購入できる機会を伺っても遅くないだろう。
本稿の議論をまとめる。
消費しつづけることを是とするこの資本主義社会では、消費者に対して「期間限定」という枕詞をつけて訴求することが、売り上げを伸ばす有効な手立てのひとつとみなされている。
しかしながら、1ヶ月、半年、1年といった長いスパンで見れば、同様のセールは何度も繰り返されている。「人生で一度きり」のセールに出会う確率は、全くないとは言い切れないにせよ、極めて低い。
限定セールということばを目にしたとき、それにすぐに飛びつくのではなく一度立ち止まり、「過去に類似のセールはやっていたか?」「もし以前にも似た内容でセールが実施されていたのなら、また◯ヶ月後にセールをやるのではないか?」と考えを巡らせる。そして、企業のタイミングではなく、自分のタイミングで適切なものを・適切な量だけ購入する事が重要である。