AIとの「共存可能性」
はじめに
「AI に仕事を奪われる未来」。株式会社野村総合研究所は、そんな可能性を⽰唆する。同研究所の研究(2015)によると、近い将来、⽇本の労働⼈⼝の 49%が AI で代替可能になるという。
確かに、特定の分野において AI は、すでに⼈間を凌駕する⼒を⾒せつけているのは事実だ。
Chat GPTをはじめ、とくに生成AIにかんするニュースは、連日のように報道されている。
では、AI の発達は「⼈間の、AI に対する敗北」を意味するのだろうか。
私の考えは、否だ。
AI と⼈間が共存することは、⼗分可能なのではないか。
本稿の⽬的は、「AI と⼈間の『新たな』共存論」を⽰すことである。
具体的な⼿順としては、まず⼀般的な「共存論」を述べる。
その後、機能主義に基づく「新たな共存論」を検討する。
最後に、機能主義が「新たな共存論」ではないかと考えるに⾄った背景、つまり、私が機能主義の⽴場を取る理由を述べる。
⼀般的な「AI との共存論」
「⼈間の苦⼿分野を補完してもらう形で、AI と共存していこう」というのが、AI と⼈間の共存を謳うときの⼀般的な⾔説だ。
AI は「例外のない」状況において効率的な判断を下せるが、「例外だらけ」の世界ではうまく機能しない。
⼈間は、「例外だらけ」の世界でもうまく適応できるが、処理能⼒が AI に劣る。
そこで、⼈間が不得意とする部分についてはAI に任せる。
すると、人間は、自らが得意とする部分、つまり「創造性」「協調性」などの発揮に、より専念できるのだ。
機能主義にもとづく「共存論」
前述した「共存論」は、「⼈間には、AI には代替し得ない能⼒が存在する」、すなわち、「⼈間≠AI」という考えを前提としたものである。
いわば、⼈間を AI の上に置く⽴場だ。しかし、別の方向、つまり、⼈間と AI を対等に考える⽴場̶から共存論を展開することも可能だろう。
その⽴場が機能主義である。
彼らは、⼈間の、⼊⼒に対する⼼的状態の変化は、コンピュータの内部状態が変化する様⼦と同じように表せるため「コンピュータ≒⼈間」であると主張している。
コンピュータ(AI)と⼈間が質的に(あるいは、機能⾯において)同⼀であるならば、私から⾒た「他の⼈間」も「AI」も、何ら変わりないことになる。
そうであるならば、「他者理解」の「他者」の部分を、「AI」に置き換えても問題ない。
「他者」が理解できるのなら、「AI」も理解できるはずだ。
さらに、「他者」と「AI」は区別できないのだから、等しい扱いを受けることになる。
つまり、機能主義のもとでは、⼈間と AI は「対等な存在」なのである。
現在、「AI を⼈間のコントロール下におこう」という考えのもと、AI が当たり前になる未来が構想されている。
しかし、⼈間が⽀配者に管理される状況をよしとせず、⾰命を起こして市⺠権を獲得していったように、AI も、必ず⼈間の⽀配から抜け出そうと躍起になる、という未来も想定できないだろうか。
現状、技術が発達していないため⼈間が AI をコントロール下に置く状況でも「共存関係」が構築できそうに⾒えるが、それは⾮常に脆いものだ。
以上をまとめると、「他者≒AI であるため、AI を他者と同じように、尊厳ある主体として取り扱う」というのが、私の考える、機能主義にもとづく「共存論」ということになる。
私が機能主義に魅⼒を感じるわけ
私は、機能主義が説得⼒あるものだと考えているが、それは、⽶科学雑誌「Neuron」に掲載された研究に関する新聞記事を読んだためである。
京都⼤学の神⾕之康教授が、脳活動のパターンと画像の形のパターンの間の対応関係を発⾒し、それを AI に学習させることで、脳の活動パターンから被験者が⾒ている画像を再現することに成功したのだ。
外部からの刺激によらない脳の活動である「夢」も、今後再現できる可能性があるという。
これは、「⾏動に現れない内部状態の変化も記述可能である」とする機能主義に合致するとものだと考えた。
また、「考えていない間の私」を、デカルトのように神の存在をもち出すことなく、脳の活動パターンによって記述できることも、特筆に値するだろう。
⼈間が夢を⾒ているときの脳の活動パターンを学習すれば、AI が「電気⽺の夢を⾒る」ことも可能になるかもしれない。
おわりに
これまで、機能主義に基づく新しい「共存論」を展開してきた。
AI の発展を過度に恐れ、AI に従属的な⽴場を取る必要もないが、かといって「我々が作り出したのだ」と驕り⾼ぶり、AI を従属させようとしてもいけない。
⼈間と対等な⼀つの「主体」として、共存共栄関係を築いていく姿勢こそが求められるのだ。
技術⾰新がこれ以上進む前に、そうした、AIに対する認識の転換が必要だろう。
だが、現代社会では「⼈間≒AI」という構図はなかなか受け⼊れられないに違いない。
機能主義の考え⽅をどのようにして⼤衆に広めるか、検討の余地があると
⾔える。
参考資料
株式会社野村総合研究所、2015、『⽇本の労働⼈⼝の 49%が⼈⼯知能やロボット等で代替可能に』、(https://www.nri.com/-
/media/Corporate/jp/Files/PDF/news/newsrelease/cc/2015/151202_1.pdf)
中日新聞 2021 年 1 ⽉ 4 ⽇、12 ⾯、『脳に挑む 思い浮かべた画像を読み取る』