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NRAから見たM1ライフルvol.2

Ⅰ. 前回のまとめ

 American Riflemanの1939年9月号ではM1ライフルの命中精度が低いのではないかという疑問、およびジョンソンライフルの大活躍が述べられていた。
 今回は1940年3月号のNRA理事会、4月号の社説を見てみよう。

Ⅱ. NRA理事会と重要な疑問への議論~1940/3~

 要約するとNRA副会長であるReckord少将が軍のマークスマンシップへの関心低下を批判、晩餐会では武器局トップがM1ライフルの良さを訴えると共に精度に限界がある事も認め、選定した歩兵委員会の存在も指摘した。またNRAとしてはM1ライフルが軍の新しい主力小銃である事を認めるつもりがない事も示唆した。
 そんな感じだろうか。それでは本文をどうぞ。

 2月2日金曜日にワシントンのメイフラワーホテルで開催された全米ライフル協会の理事会の第69回年次総会と、翌日の執行委員会の会議では、銃の公益に影響を与える多くの議論と決議が行われた。アメリカのライフルとピストルの射撃競技、将来の国防問題、現在の世界情勢に見合った注目も集めました。理事39人と同数の関係者が理事会の運営会議に出席し、協会の副会長であるM.A. Reckord少将がM1906弾薬をM2弾薬という名称として再採用するという軍の逆行的措置と、新しい射撃資格コースは500ヤード以上を廃止して射撃数を減らすといった軍のマークスマンシップへの関心の低下に対して不服を申し立てた。
 その晩の年次役員晩餐会では陸軍次官補Louise Johnson氏、商務次官補J. Monroe氏、コロラド州の上院議員Edwin C. Johnson氏、ミネソタ州の上院議員Ernest Lundeen氏、大勢の下院議員、参謀総長のGeorge C. Marshall将軍を始めとする軍の将校達225人が出席した。
 武器局トップのWesson少将からは、600ヤード以上ではM1(ガーランド)ライフルの精度に限界がある一方でその性能の良さを指摘した。またガーランドライフルとM2弾薬の採用は武器局の責任ではない、武器局は戦闘部門の為の製造部門に過ぎないからと理解を求めた。小銃の種類、照準器、弾薬の形式は歩兵委員会が決定するものである事を指摘した。

(省略)(電撃戦や民間団体での射撃訓練についての話題)

 理事会は、2月1日の全米ライフル射撃競技推進委員会の会議でガーランドライフルによる団体競技1種目と個人競技3種目を含むナショナルマッチのプログラムが承認された事を知らされた。M1(ガーランド)ライフルの性能と有効性に関しての議論も行われた。『キャンプペリーでの試合を、ライフルと弾薬の性能と精度を比較する実験場として使い続けることが、アメリカにとって最善の利益になる』という協会の立場を改めて表明し、『現在のM1ライフルだけに条件を限定するのではなく、将来、あらゆる半自動ライフルについてさまざまなタイプの試合を適度に開催する』よう協会の役員に指示する決議を採択した。

(省略)(他競技の話題)

 執行委員会は、600ヤードを超えると精度が落ちる軍用ライフルと弾薬を容認するいかなる理論にも、また、ライフルで武装した人間に対する個々の射撃技術の適切な指導を軽視するマスケット訓練のいかなる理論にも、強力な異議を申し立てることを表明した。

Internet Archive, https://archive.org/details/sim_american-rifleman_1940-03_88_3/page/n13/mode/2up ,P12, 2023-01-03閲覧

Ⅲ. 社説:率直になる勇気~1940/4~

 これもオーバーに要約すると、私達(NRA)が聞いた話から想像するにM1ライフルは本当に主力小銃として適格なのか?開発関係者を責める訳ではないが国防の為にも考えて欲しい、という事であろう。
 それでは本文をどうぞ。

 素直さにはしばしば勇気が必要となります。M1(ガーランド)ライフルとM2弾薬の組み合わせが話題になっていますが、戦術の方針・生産問題などの要因が複雑に絡み合い、状況は混乱しやすく、全ての事実を把握する事は困難です。
 しかし今こそ率直で、友好的で、建設的な態度で事実と向き合う勇気が必要な時です。残念な事にプロパガンダや性急な意見、上層部へのおべっかが飛び交っており望むべき状態とは言えません。
 以下の事は公式の記録またはワシントンの各界で有名な事実です。
 1. 軍隊内では半自動小銃を採用する賢明さと、兵器としてのガーランドの実用性について意見が分かれている。
 2. 約10年前に歩兵委員会によって選択されたガーランドは.276弾薬用に設計された。
 3. 参謀総長が30口径の維持を主張した為、ガーランドの再設計が必要になった。
 4. .276ガーランドは徹底的な試験が実施されたが、.30口径ではそのような試験が行われなかった。
 5. 再設計が完了する前に製造が開始された。ガストラップが破棄されてガスポートに変更となった事が良い例です。修正品は5月1日まで出荷されない。
 6. 騎兵委員会はレシーバーに保護カバーを追加する事が賢明である事を示唆した。海兵隊はフロントサイトの改造に取り組んでいる。
 7. ガーランドの精度が低く、兵士の士気維持の為に射撃資格コースを刷新して判定レベルを低下させた。
 8. ガーランド配備予算は初めの予算枠を超えたが、議会に示された生産効率は予定の半分を僅かに超える程度と予想された。
 9. 製造に難があり、陸軍から入札を要請された時に1社しか手を挙げなかった。
 10. ナショナルマッチでは優れたM1弾薬を完全に中止され、1941年からはM2弾薬を使う事となった。
以上の事から次の論理的な疑問を提起させる。
 ・全軍にどんな半自動小銃でも支給することを保証できるほど供給体制と射撃統制の規律に十分な確信があるのか?
 ・ガーランドは戦時生産が可能か?
 ・武器局が述べているように武器局は製造部門に過ぎず、ガーランドとM2弾薬は主に歩兵委員会の要請で製造されているとすれば、M2弾薬や現状のガーランドに満足していない他の部門が使うスプリングフィールド、スペアパーツ、M1弾薬の製造を武器局が完全に中止することは国防上、最善の利益となるか?
 ・WW1で示されたニーズを満たすために開発されたM1弾薬を廃止し、再びM2に戻すことは国防上、最善の利益となるのでしょうか?
 全米ライフル協会は様々な公職に心から敬意を払い、親密な関係を築いている為、これらの疑問を公に提起しなければならない事が残念で仕方ありません。

 (省略)(国防は重要だ云々)

 また 個人または部局の威信が危機に瀕していると感じる必要はありません。というのは、これまで行われてきたことは全て正直かつ良心的に行われてきたのですから。
 アメリカのために、全ての将校、下士官、民間の射手、そして発言する資格のあるメーカーが、率直である勇気と、紳士とスポーツマンとしての良識を持っていることを祈ります。

Internet Archive, https://archive.org/details/sim_american-rifleman_1940-04_88_4/page/n5/mode/2up , P4, 2023-01-03閲覧

 以上となる。
 晩餐会で武器局トップが弁明した等、いきなり巨大台風になった感じである。そもそもNRAが言う筋合いがあるのかは分からないが、米国最大のロビー団体である事を再認識した次第である。
 ちなみにOrdnance dept.の和訳は武器局?兵器局?どっちが良いのだろうか……

 次回はNRAが行ったM1実射試験を読んでいきたい。

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