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AI ProductのXaaS開発におけるユースケースの作り方(実開発編:Webtoon制作AI支援プロダクト)
はじめに
AI技術の進歩によって、さまざまなプロダクト・サービスが登場しています。一方で、「せっかく開発したのに全然使われない」「導入してみたものの、効果が実感できない」といった声も少なくありません。特にクリエイティブ領域では、“AIがすごいことはわかるけれど現場に合わず、結局使われない”事例が後を絶たないのが現状です。
本記事では、Webtoon制作をAIで支援するプロダクト(弊社の実案件)を例に、ビジネス的・技術的観点から「使われるAI Product」を作るためのユースケース設計についてご紹介します。ポイントとなるのは、ユーザーの心理的ハードルを丁寧に解消しながら、潜在的な価値を洞察し、高速でイテレーションを回すこと。そして、そのためのには技術基盤をオープンソースで整えることです。
1. XaaS的xAIの開発とは
1-1. 継続的価値提供が求められる時代
AIプロダクトを「XaaS(~ as a Service)」として提供するメリットは、“作りっぱなし”で終わらず、使われ方に合わせて改善・更新を続けられる点にあります。開発初期に想定していたユースケースが、実際に使われる場面では微妙に異なることはよくあります。サブスクリプションや定期契約の形で提供するなら、常にユーザーとの対話を続けながら、サービス自体を育てることができるのです。
1-2. AI導入の“心理的障壁”に寄り添う
クリエイティブ領域には「AIに仕事を奪われるのでは?」「画一的な出力になるのでは?」という根強い不安があります。少しずつ使いながら納得してもらえる設計の工夫が重要です。まずは一部機能だけをトライアル導入し、手応えを得たら拡張していく――そうした段階的なアプローチが、「AIを全自動で使うのはなんだか抵抗がある」という心理的障壁を和らげます。
2. Webtoon制作のAI支援プロダクト:現状の仮説とアプローチ
2-1. 現場の痛みとAI導入のねらい
現場の痛み(ペイン)
大量のコマ割りや背景作画、色調整など、時間と手間が膨大
人材不足や高頻度連載により、クリエイターひとりひとりの負荷が大きい
「作っても修正が山ほど発生し、手戻りがかえって増える」という恐怖感
導入のねらい
部分的な自動化(例:背景生成、トーン調整、コマ割り提案)で生産性を高める
AIがあらゆるパターンを“高速で試す”ことで、クリエイターのアイデアの幅を広げる
最終的な仕上げは人間が行うことが原則。クリエイターの「こだわり」を損なわずに済む
2-2. ユースケース仮説:手触り感を重視
(仮説1)背景や色調を一瞬で切り替えられるインタラクティブツール
例)「昼のシーン→夜のシーン」への変換
クリエイターが2時間かけてレタッチするところをAIが2分で試作品を出す
仕上げは人間が微調整して最適な画作りを実現
(仮説2)コマ割り提案&レイアウトの即時変形
例)テキストベースの脚本を入力すると、5通りのコマ配置プランが出力される
“もう少しギュッと詰めて”“ここに余白を”といった微調整をドラッグ&ドロップで行う
修正が容易で、ネーム段階の試行錯誤が圧倒的にスピードアップ
(仮説3)キャラクターの衣装や装飾をAIで試着
例)同じポーズ・表情のキャラに別の服装や色味を瞬時に当てはめ、クリエイターがベストなデザインを選べる
ゼロから書き直す負荷が大きい“衣装デザイン”を複数案まとめてプレビューし、採用するものだけ手仕上げする
3. 高速イテレーションの要:オープンソース技術基盤
3-1. なぜオープンソースなのか?
高速に検証し、改良を積み重ねていくためには、オープンソース技術の活用が不可欠です。
既存のフレームワークが充実:PythonやPyTorch、TensorFlowなど、多くのライブラリがコミュニティ主導で進化している
最新モデルを即座に取り入れられる:Stable DiffusionやDALL·E関連のオープンリソースは日々更新されており、実装を素早く試せる
カスタマイズしやすい:現場のニーズに合わせて、部分的にモデルをファインチューニングできる
3-2. 運用上のポイント
バージョン管理とCI/CDの徹底
クリエイターが触るUIの変更や、推論モデルの更新を即時にデプロイしてフィードバックを得る
本番反映までのプロセスを自動化し、修正のサイクルを加速
API化・コンポーネント化
コマ割り、背景生成などのAI機能をマイクロサービス化しておくことで、要望やテストに応じて組み合わせを柔軟に変更できる
4. ユーザー心理と価値創造:どう根付かせるか?
4-1. 心理的障壁をどう解消するか
「全部AI任せ」ではなく、「AIアシスタント」的な定位
「最終的な表現を左右するのはクリエイター本人」というメッセージを前面に打ち出す
“AIは下描きやブレスト相手”として導入し、手仕上げを否定しない設計
小さな成功体験の積み上げ
まずは「背景1枚の昼夜差分をAIがやってみせる」といった、目に見える時短効果を体験してもらう
成果が見えたら次の工程や別チームにも拡大し、徐々に信頼感を獲得
4-2. 「潜在的に本当に価値ある部分」を探り当てる
定性×定量のヒアリング
“なぜこの工程で一番ストレスを感じるのか?”“修正が発生するときの心理状態は?”など、単なる工数削減だけでなく、クリエイターが苦痛や不安を抱える瞬間を具体的に掘り下げる
開発チームが現場に入り込む
クリエイターと実際の画面を見ながら「このレイヤー移動が面倒くさいんですね」「ここを自動化しても手戻り増えませんか?」と細かく対話
このプロセスを経ることで、AIが本当に欲しがられる機能を発見できる
5. 高速イテレーションを回す仕組み
5-1. 開発サイクルの小さなスプリント化
1週間以内にプロトタイプ→フィードバック→修正
「大規模リリースは月イチ」ではなく、細かなバージョンアップを繰り返しながら微調整を続ける
ユーザー参加型テスト
一部のクリエイターを「スプリントレビュー」に招待し、機能の評価や希望をダイレクトに吸い上げる
その声を次回の開発計画にすぐ反映
5-2. 評価指標の設定
定量指標:
“試作コマの生成数”、“背景自動変換の利用回数”、“修正回数の減少率”など
定性指標:
“クリエイターが感じるストレス低減”、“アイデアの出しやすさ”などのアンケートやインタビュー
ローンチ後も継続モニタリングし、指標の変化を分析。小さな学びを積み重ねていく。
6. まとめ:使われ続けるAIプロダクトを目指して
心理的障壁に寄り添う
AIが“魔法の杖”ではなく“アシスタント”として機能するように位置付ける
高速イテレーションを回す
オープンソース技術基盤×スプリント型開発で、ユーザーの声を即反映
潜在的価値を見つける
現場の微妙な痛みや不安を丁寧に拾い、どこから部分自動化すれば“本当に役立つか”を探る
Webtoon制作AI支援という事例から見ても、AI導入の成功要因は“AI技術の凄さ”だけではありません。ユーザーの現場に深く入り込み、手触り感のあるユースケースを素早く試してもらいながら進めることこそが、“実際に使われるサービス”への道筋です。XaaSモデルを活かしつつ、オープンソースで技術的イテレーションを加速させ、クリエイターの心理的ハードルを超えていく――。
これが、**「AIプロダクトは作って終わりではなく、継続的に使われる価値を生み出す」**ための大きなポイントと言えるでしょう。
今後の展望
他ジャンルへの拡張:
Webtoonに限らず、アニメやゲームCGなど、コンテンツ制作全般で部分自動化の可能性が広がる
コミュニティ構築:
オープンソースで開発を進めることで、ユーザーコミュニティから新たなアイデア・プラグインが生まれやすくなる
ビジネスモデル多角化:
サブスク型提供に加え、特定工程ごとの従量課金や成果報酬モデルなど、XaaSならではの展開も考えられる
使われないAIを量産するのではなく、クリエイターと共に価値を育てるAIへ。
そのためには、現場への丁寧なアプローチ、高速イテレーション、そしてオープンソースを組み合わせた柔軟な開発姿勢が不可欠となるでしょう。