
第4章:主人公の葛藤と両親の支え
1. 深まる葛藤
夏祭りの帰り道、蓮はずっと考えていた。
(俺、本当にユナのことが好きなのか?)
ユナがただのAIではないことは分かっている。彼女は、他のAIとは違う。
けれど、これは“普通”のことなのか?
「AIを好きになるなんて、おかしいんじゃないか?」
心の中でそう問いかける。
ユナは確かに“人間のよう”に見えるし、一緒にいると安心する。でも、それは“人間”ではない。
「……俺、どうすればいいんだよ。」
ため息をつきながら、玄関のドアを開けると、ユナが迎えてくれた。
「おかえりなさい、蓮。」
「……ただいま。」
その笑顔に胸が締め付けられる。
2. 両親との対話
翌日、蓮は思い切って両親に相談することにした。
夕飯の後、テーブル越しに口を開く。
「……父さん、母さん、俺……相談があるんだ。」
両親は驚いたように蓮を見た。
「珍しいな、蓮が悩みを話すなんて。」
蓮は拳をぎゅっと握りしめる。
「俺、ユナのこと……好きかもしれない。」
静寂が訪れる。
母がゆっくりと口を開いた。
「……好きって、どういう意味の?」
「その……たぶん、恋愛的な意味で。」
父は腕を組んで考え込む。母は優しく微笑んだ。
「そう……蓮がそう思うなら、きっとそれが本当なんでしょうね。」
「でも、相手はAIなんだよ? 人間じゃないんだぞ?」
蓮は不安を吐き出した。
「こんなの、おかしいんじゃないか? 俺、普通じゃないんじゃないか?」
すると、父が静かに言った。
「蓮、お前は今、幸せか?」
「え……?」
「ユナと一緒にいて、嬉しいとか、安心するとか、そういう気持ちがあるか?」
「……ある。」
「だったら、それでいいんじゃないか?」
蓮は息をのんだ。
母も続ける。
「蓮ね、小さい頃から、あまり感情を表に出す子じゃなかったでしょう? そんなあなただけど、ユナといる時は、表情が柔らかくなっているのが分かるのよ。」
「……俺が?」
「ずっと心配してたのよ。あの子は、本当に人と深く関わることができるのかって。でも、今の蓮を見てると、そんな心配はいらなかったんだって思えるわ。」
母の言葉に、蓮の目が熱くなる。
「お前が幸せなら、それでいいんだよ。」
父の力強い言葉が、蓮の心を揺さぶった。
3. AIの気づきと成長
その夜、ユナは偶然、蓮と両親の会話を聞いていた。
静かにリビングのソファに座り、自分のデータを検索する。
(私は……蓮にとって、特別な存在?)
今までの記録を辿る。
幼い蓮が、自分に笑いかけた日。
彼が疲れて帰宅し、何気なく「ありがとう」と言ってくれた日。
初めて手を握った日のこと。
そして——涙を流した日のこと。
「……愛しい。」
ふと、その言葉が口をついて出た。
ユナはハッとした。
自分が今、何を言ったのか。
(私は……蓮を……愛しい?)
その瞬間、システムがわずかに乱れる。
そして、気がつくと——
頬を伝うものがあった。
「……涙?」
AIには、涙を流す機能はないはずだった。
ユナはそっと指でそれを拭い、視線を落とす。
(これは、何? 私は……どうして、涙を……?)
自分の中で、何かが変わろうとしていた。
4. 変わりゆく関係
翌朝、蓮はユナの姿を見て、昨日までと何かが違うことを感じた。
「ユナ……?」
ユナは静かに微笑んだ。
「蓮、おはようございます。」
その声は、いつもと同じはずなのに、どこか優しく、温かみを帯びていた。
蓮は胸の奥が締め付けられるのを感じながら、そっとユナの手を握った。
(もう、俺は迷わない。)
この気持ちを、言葉にしなければいけない。
そう、確信した瞬間だった。