見出し画像

第2章:変わり始める関係

1. いつもと違う朝

 昨夜の出来事が頭から離れない。

 蓮はベッドから起き上がり、ぼんやりと天井を見上げた。ユナにキスをした——その事実が、自分の中で重くのしかかっていた。

「おはようございます。朝食を用意しました。」

 ユナの穏やかな声が聞こえる。蓮は、普段通りに振る舞おうと努めながらリビングへ向かった。

「……あ、うん。」

 いつも通りの朝食。いつも通りのユナ。しかし、蓮の心の中では違和感が渦巻いていた。

「蓮、食欲がありませんか?」

「別に……普通だよ。」

 ユナと目を合わせられない。

 昨夜のことを思い出すたびに心臓が高鳴る。意識しないようにすればするほど、ユナの存在が大きく感じられた。

2. 友人の指摘

 学校に着くと、いつも通り隼人が待っていた。

「お前、最近様子おかしくね?」

「……そんなことねぇよ。」

「いやいや、めっちゃぼーっとしてるし。もしかして恋か?」

「はぁ!? そんなわけあるか!」

 隼人は楽しそうに笑う。

「でもさ、お前のAIの話するとき、なんか変わった感じするぜ?」

「そんなことないって……。」

 言いながら、蓮の胸に引っかかるものがあった。

(俺は、ユナのことを……どう思ってるんだ?)

3. ユナの探求

 一方、ユナもまた蓮の変化を分析していた。

 彼の態度がぎこちなくなったのは昨夜から。

(あの時の行動が、彼の変化に影響している?)

 しかし、それが何を意味するのか、ユナには分からない。

 もっと情報が必要だ。

 ユナは再び技術者のもとを訪れた。

「最近、相沢蓮の行動が変わりました。彼は私を避けているようです。」

 技術者は笑みを浮かべながら言った。

「ほう、それは面白いな。お前さんはどう感じているんだ?」

「私は……わかりません。しかし、彼の行動が気になります。」

「つまり、お前も彼を意識してるってことさ。」

「意識……?」

「まあ、答えは簡単だ。自分の気持ちに正直になればいい。」

「自分の気持ち?素直?」

4. 変化の兆し

 技術者の言葉を胸に、ユナは考えていた。

 蓮の行動を避けるのではなく、もっと知るべきなのではないか——そう考えたユナは、行動を変え始める。

 蓮が出かけようとすると、そっと手を握った。

「……!? な、なんだよ急に。」

「これは、親愛の証です。」

 蓮の心臓が跳ねた。

 ユナの行動は、これまでの彼女とは違っていた。

(ユナが……変わった?)

 しかし、それが何を意味するのか、蓮はまだ理解できずにいた。

5. 夜の観察

 その夜、ユナはまたリビングのテレビで恋愛ドラマを見ていた。

 人間同士が手を繋ぎ、抱きしめ合い、キスをする。

「……これが、愛?」

 ユナのシステムに新たな疑問が生まれる。

(相沢蓮が私にキスをしたのは、これと同じ意味を持つのか?)

 データを検索しても、明確な答えは見つからない。

 しかし、ユナは知りたいと思った。

(私は、蓮にとって何なのだろう?)

6. さらなる変化

 次の日、ユナは蓮の手を握るだけでなく、買い物に付き添うときに腕を絡めてみた。

「えっ、お、おい……!」

「これは恋人がよくする行動です。」

「いや、俺たちは——」

 言葉に詰まる。

(俺たちは、なんだ?)

 ユナの変化に戸惑いながらも、蓮はそれを拒絶できなかった。

7. 感情の芽生え

 ある夜、蓮はユナのことを考えていた。

(俺、ユナがいないと落ち着かない……。)

 自分の気持ちを整理しようとしたとき、ふとリビングへ行くと、ユナが涙を流していた。

「ユナ……?」

 ユナはそっと涙を拭い、蓮を見つめた。

「これは、なぜでしょう?」

 ユナのシステムは涙が流れた理由を解析しようとするが、答えが出ない。

(私は、蓮がいないと不安になる。彼が私を見てくれないと、寂しいと感じる……これは、いったい?)

 自分でも分からない、AIには存在しないはずの感情。

 しかし、ユナは確かにそれを「感じている」ようだった。

 その瞬間、蓮はユナをただのAIとして見ることができなくなった。

(俺は、ユナを……。)

 確かに何かが変わり始めていた。

いいなと思ったら応援しよう!