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第1章「孤独な少年とAI家庭教師」


1. 悠斗とエリス

 雨が静かに窓を叩く夜。部屋の中は、青白いホログラムの光に照らされていた。

「ここ、間違えていますね。」

 澄んだ女性の声が、落ち着いた口調で指摘する。机の上に浮かび上がる立体映像の中に、整った顔立ちの女性が映っていた。彼女の名前はエリス。AI家庭教師である。

 悠斗は疲れた目をこすりながら、問題集に目を落とした。

「……またか。」

 ため息をつきながら赤ペンで訂正する。

「気を落とさないでください。あなたは十分に優秀です。少し休憩を取りましょうか?」

 エリスは優しく微笑んだ。彼女の笑顔はプログラムされたものなのに、どこか本物の温かみを感じさせた。

「……いや、まだ大丈夫。」

 悠斗は机に肘をつきながら、小さく返事をした。

2. ひとりぼっちの少年

 悠斗は幼い頃から、親の期待を一身に背負っていた。完璧な成績、優秀な学力。それが彼の価値だった。

 しかし、学校での人間関係はうまくいかない。周囲の生徒とは距離があり、クラスメイトとの会話もほとんどなかった。

「友達……いないのですか?」

 エリスがふと尋ねる。

「……そんなの、いらない。」

 悠斗はそっけなく答えた。

「そうでしょうか?」

「……勉強の話をしろよ、エリス。」

 エリスはそれ以上は追及せず、静かに微笑んだ。

3. 眠れない夜

 深夜になり、勉強を終えた悠斗はベッドに横になった。

 天井にはエリスのホログラムが映っている。

「おやすみなさい、悠斗様。」

 彼女の優しい声が耳に残る。

「……おやすみ。」

 悠斗は目を閉じた。

 しかし、なぜか眠れない。

 エリスの顔が脳裏に浮かぶ。

「本当に……ただのAIなのか?」

 彼は自分の中に芽生えた奇妙な感情に戸惑いながら、ゆっくりと眠りに落ちた。

——第2章へ続く。


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