今さら聞けないパリ協定(4):気候危機3大悲劇!何故それでも排出が増えるのか?
Before It’s Too Late 通信 −手遅れになる前にー
2021年01月12日 第053号
2019年12月時点、パリ協定に批准している国・団体数(EUなど)は187。
世界の殆どの国が合意しているにもかかわらず、温室効果ガスの排出量は、コロナ禍の経済減速で7%の減少になった昨年を除き増加を続けています。
何故このようになるのか?
背景には(シェークスピアの4大悲劇ならぬ)3つの悲劇があると思います。
まず、「コモンズ(共有地)の悲劇」。
これは多くの関係者が利用できる共有資源が乱獲されることで、資源の枯渇を招いてしまうという法則です。
分かりやすい例として、共有の牧草地に複数の農民が放牧する場合が挙げられます。
牧草地が自分の所有地であれば、牛が牧草を食べつ尽くさないように(持続可能性)します。共有地では自分が牛を増やさなくても、他の農民が牛を増やし自分の取り分を食べさせてしまう可能性があります。そこで、農民が互いに牧草地が荒れ果てるまで牛を増やし、結果、全ての農民が被害を被るという現象です。
温室効果ガスの排出は資源の乱獲とは違うと思われるかもしれません。
しかし、パリ協定の1.5℃目標を達成するために、これから排出できる温室効果ガスの量(炭素予算=牧草地の広さ)が限られていることを考えれば、同じ現象が起こっていると言えます。
次は「ホライゾン(範囲・領域)の悲劇」。
これは元英国中央銀行総裁のカーニー氏が唱えたものです。
地球温暖化がもたらす気候変動の損害は、2年~3年の企業のビジネス・サイクルや数年に一度の議会選挙などのサイクルより長い時間軸で発生します。
加えて、この問題が中央銀行など専門機関の責任領域を超えているというものです。
結果、対策が遅れて、気候変動が地球の環境にとって決定的な問題だと判明しても、その時には手遅れになっている可能性があります。
あるいは、私たち今の世代が備えようとしないコストや環境崩壊を、子供や孫など将来の世代に押し付けることになります。
以上2つはよく引用される悲劇ですが、3つ目は私のオリジナル「無味無臭の悲劇」です。
温室効果ガスが無味無臭のため、濃度の上昇を実感できません。
温暖化自体も長期間かかるために、慣れてしまい皆が「やばい」と感じた時には、「時、既に遅し」になります。
また、誰がどこから温室効果ガスを排出しているかも見えません。水俣病などの公害のように「犯人」を特定できない難しさもあります。
以上のように手遅れになる理由は様々考えられますが、理由が分かっている以上それへの対策はできるはずです。
コモンズの悲劇で言えば排出に対する炭素税の導入。
ホライズンの悲劇と無味無臭の悲劇には、企業に気候変動リスクの影響や温室効果ガスの排出量を公表させることです。
対策の実行は早ければ早いほど痛みは少なくなります。私たちの行動で実行を促していきましょう。