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「まず、ちゃんと聴く。」の著者・櫻井将さんの話を、まず、ちゃんと聴く会。

「まず、ちゃんと聴く。」の刊行を記念したトークイベントが、11月16日、代官山蔦屋書店で行われました。著者・櫻井将さんの話を、エール株式会社の取締役であり、「刊行に寄せて」を書かれた篠田真貴子さんが引き出していくという対談形式で行われました。このnoteでは、会場で参加した私にとって特に印象的だった部分を、独断と偏見で選び、ご紹介します。

イベント告知ページより拝借しました
会場となった代官山蔦屋書店HPより

執筆の原動力は、受けとったものをちゃんと形にして恩返ししたい

対談の序盤、この本の執筆にかかった時間とエネルギーについて篠田さんから問いかけがありました。本でも紹介されていますが、この本は途中で、それまで書かれた原稿が一度全て捨てられ、はじめから書き直されるということがされているそうです。そんなわけで執筆は三年。それだけの時間と労力を費やして、櫻井さんをこの本に向かわせた原動力は何だったのでしょうか。たぶんこの問いかけ、サラッと簡単に答えられるものではないでしょう。櫻井さんは自分の中を探すように「どこから話せばいいかな」と言葉をつなぎます。

「ひとつめは、受け取ったものをちゃんと形にして、恩返ししたいということです。
これはどこかで聞きかじっただけですが、武道などの世界では三代目の世代がその教えを言語化するそうです。創始者が創り出したものを、二代目の世代は直接指導を受け、習得し体現することができる。ところが三代目の世代は直接指導を受けられない。だから言語化するそうです。私もそれと同じ感覚があります。コミュニケーションの創始者が誰かということはさておき、私もそれまでコーチングや心理学など様々なところで様々なことを教わりました。
それでよくわかったのですが、感覚的にわかっても、思考的にはよくわからない。だから色々と教わって受け取ったものをちゃんと形にして恩返しをしたい。そう思うようになりました。」

このことは本書のまえがきにも触れられています。

「本書は、過去を生きた人々が積み上げてきた叡智を、現代で活用するために再編成しただけなのかもしれない。しかし、今目の前にいる人とのコミュニケーションについて、真剣に考えている人であればあるほど、役に立つヒントが得られる形で整理できたのではないかと思っている。」

『まず、ちゃんと聴く。』p14より

話を聴くことができなかった苦い思い出

そしてもうひとつは個人的な原体験に遡るという。

「親の話を聴くことができなかったというのが大きいですね。会話のほぼない両親のもとで育ったことが、私の聴くへの関心の原点です。父はもう亡くなりましたが、亡くなる前の17年ほどスナックをやっていました。スナックも人の話を聴く場所ですが、小さい頃に聴けなかった話をしようとして、たまにお店に行っても、雑談や世間話をしているうちにお店が始まってしまって、あぁ今日もまた聴けなかった、ということが続いて父は亡くなってしまいました。そうした経験もあり、聴くということを整理することで、自分ができなかったことを理解したい。という思いもあるかもしれないですね。」

と胸のうちを語ってくれました。ご自身の苦い思い出と葛藤からも、この本に向かうエネルギーが湧いていたことが伝わるエピソードでした。

まず、じっくり聴いてもらうことが、聴くことに関心を持つ第一歩

続けて篠田さんからの質問で「四六時中、聴くということを考え続ける櫻井さんはいつ頃から誕生しているんですか?」と尋ねます。これも櫻井さんは考えあぐねるように答えました。曰く、「前職で自分の部下となったメンバーの成長や幸せを真剣に考え始めた時に、聴くことの意味に気づかされた」と答えますが、篠田さんはさらに深堀りします。「そうはいっても、部下の成長や幸せだけを考えるわけにもいかず、自分自身も必死だったりミッション達成に向けて歯を食いしばっていると、そこまで考えられないのでは?」と問います。

「環境が後押ししてくれた気がします。会社自体が社員が幸せであることを第一に大切にする会社であり、業績も順調だったので、部下に真剣に向き合える環境があったんです。そこで、自分も学んだ過去の経験を伝えたり色々やってもうまくいかない、本人の変容につながらなかったんです。そこで聴くという手段にたどり着いた気がします。」

ここで篠田さんが違う角度から質問を投げかけます。「まずじっくり聴いてもらうことが、聴くことに関心を持ち、できるようになるために第一歩だと、この本にも書かれていますが、櫻井さんにはそういう経験はあったんですか?」と。

「それが無かったんです。だから部下の話を聞きながら、めっちゃjudgeしてました。相手のことを類推したり分類したり分析したり、めっちゃしてました。そしてうまくいきませんでした。そこから幼児教育やコーチングやカウンセリングを学んで、自分が聴かれる体験をして、あーそういうことか! こうしてもらえると変われるんだ!と身をもって体験しました。そして自分の部下ともそうやって関わるようになって、今まで起きなかった変化が起こり始めてすごい!って。そこからはもう好奇心ですよね。どうやったら再現性高く、そうした変化が起きるのかを探究するようになりました。」

と、自分自身が苦労した経験と、そこから道が開けた経験を語ってくれました。

幼児期の体験が価値観や認知に強く影響している

しかしここで櫻井さんが自らが語り始めます。幼児教育のところをもう少し話したいと。

「当時、自己肯定感に課題があるメンバーが一定数いましたが、彼らに対して真剣に向き合えば向き合うほど、その人の持っている価値観や認知のバイアスが強いことがわかるんです。判断や行動にも強く影響を与えている。それはどこから来ているんだろうと話を聞いていくと、幼少期に辿り着くんです。子どもの時にこうされたとか、親にこう言われたとか。そこから認知が形成され、自己肯定感の課題につながっていることがわかりました。そしてそこには、両親とうまく関われなかった自分自身の体験も重ねて見ていたのかもしれません。

そして、そうだとすると、0歳~6歳までの幼少期の子どもに周りの大人がどういう関わり方をするか。そこにアプローチすることで私の課題感の本質は解決するんじゃないかと思ったんです。そこで実際に幼児教育のNPOをつくり保育士の資格も取りましたが、まあ人とお金が集まらないわけです。

そのとき自分の実力ではハードルが高すぎると思って、コーチングやカウンセリングを学んでいくと、大人からでも変われるじゃん!ということを見せつけられたわけです。私が一年や二年かけて自分の部下に見た変化を、15分や30分のセッションでつくりだしてしまうコーチがたくさんいる!しかも再現性高く!。こっちの方が世の中に広がりそうだなと痛感して、今の道を進むことになった」

と、語り切ってくださいました。「聴く」という多くの人にとって何気ない行為を、ここまで緻密に、そしてここまでわかりやすく、実際に役に立つ形で教えてくれる本は他に無さそうです。その本に注いだエネルギーがどこから流れてきていたのか、垣間見ることができた気がします。

自分のなかの複数の自分を両方大切にする

イベントの最後、参加者から感想や質問が寄せられ、その質疑の一つが興味深かったので紹介します。一人の参加者の方がこんな風におっしゃいました。「これって自己対話の本でもあるんじゃないかなと感じました。自分自身と対話し、自分の軸があるからこそ、相手と対話できるんじゃないかなと思いました。」と。これに対し、深くうなずきながら櫻井さんが答えます。

「まさにこの本で、最も書きたかったことのひとつがそれです。つまり、自分の中の複数の自分を両方大切にする。ということを私は信念として持っています。例えばダイエットしたい自分と甘いものを食べたい自分。片方を認めて片方を追い出そうとするんじゃなく、両方の肯定的意図をちゃんと受け止めて、両方が満たされるチョイスを考えていくのが大切だと思っています。そして、なぜそれが大切かというと、実は私とあなたの関係性と全くの相似形だからです。自分の中のどちらか片方を悪者にするということは、私とあなたのどちらか片方を悪者にするのと同じだと思うからです。このことは丁寧にお伝えしたかったところですね」

と、本に込めたメッセージを振り返る形で、ちょうどイベントの最後となりました。このメッセージは本書の「おわりに」で書かれていることとも通じています。

以上、11月16日に行われたトークイベントから、特に印象的だったところを抜粋して要約してご紹介しました。会の冒頭、篠田さんもおっしゃっていましたが、聴くということについてここまで緻密に論理的に、ステップバイステップで解説した本は他に無いと思います。そして櫻井さん本人が言うように、現実の日常のコミュニケーションをより良くするために、実際に使いやすい形で説明されています。ぜひ一度、手に取ってみていただければ、私も一人の愛読者として嬉しく思います。


この記事を書いている私は、すーじー/鈴井孝史と申します。こんなこと(↓)をやっているので見てもらえたら嬉しいです。




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