「潰れるかも」から「100億調達」を実現するまで
国内初のダイレクトセカンダリーファンド、Kepple Liquidity 1号ファンドが2024年5月末に100億円でファイナルクローズとなりました。
信じてご出資いただきましたLP投資家の皆様、我々を株主として受け入れてくださった投資先の皆様、これまで売却のご相談をいただいた皆様、全力で頑張ってくれているケップルのメンバー、全関係者の皆様に感謝申し上げます。
最近会社としてのステージが変わってきている気がしており、ここで経営者として過去数年の自らの意思決定を振り返っておきたいと思います。
ケップルグループは、2024年2月より麻布台ヒルズの「Tokyo Venture Capital Hub」に入居しました。
それ以降、「調子いいですね」「儲かってますね」と何回言われたことか。100億円でファイナルクローズ!というニュースを出したらまたそれが加速しそうなので、ちょっとそれに釘を刺すnoteを書きます。笑
僕自身、生き残るために必死に毎日事業に向き合っていて、その各事業の産みの苦しみと、コロナ以降の難しい意思決定を続けてきた「スタートアップ経営(者)の現実」をここで伝えたいと思います。
ケップルさんっていろんなことやってますよね、と最近本当によく言われますが、ここまで来るに至った背景はこのnoteで少しは分かっていただけると思います。
投資は「断る仕事」。調達は「断られる仕事」。
僕は断られる仕事をケップルグループで主に担ってます。
どんな事業を始めるにも、ビジョンを語ってリソースを調達しなければ何も始まりません。産みの苦しみの現場を少し覗いてみてください。
12,000字を超える長文になってしまいましたが、ぜひご覧いただけましたら嬉しいです。これでも書ききった気がしないです。時間切れ。
「潰れるかも」初めて持った危機感
2020年春、コロナによるロックダウン。
外出を制限されたあの日。株価も大暴落しはじめた…
これはいよいよやばいんじゃ?
アベノミクスから10年近く経ち、マーケットが暴落のきっかけを探しているようにしか感じていなかった状況でのコロナ直撃。
いよいよマーケットは大きく変わるぞ。当時はそう信じて疑わなかった。(結果的には、その後むしろコロナバブルが来たわけですが…)
この時、ケップルはスタートアップ投資家向けVertical SaaSの「KEPPLE CRM(旧FUNDBOARD)」を運営。
1つのプロダクトしか持たない、いわゆる普通のSaaSスタートアップだった。
当時からエンジニア・デザイナーなどを中心に30名近いメンバーを抱え、毎月相当程度の投資をしていて、当然赤字だった。しかもそれなりに。
そんな中でのコロナ。
当時考えられたネガティブシナリオは、
スタートアップ投資部門のクローズによりユーザーの解約の続出
ファンド新規組成の減少による新規受注の減少
マーケットトレンドの変化により、自社の資金調達が厳しくなる
もしかして、うちもやばい?
ロックダウン中に「潰れるかも」と全く考えなかったと言ったら嘘になる。
スタートアップ業界は特に景気の影響を受けやすい業界であることは重々承知していたので、マクロ環境のネガティブな変化はケップルにとっても大きな打撃となるのは目に見えていた。
このままだといつ会社の資金がなくなるのか。とりあえず現状維持で計算してみるとランウェイは1年程度。短くはないが長くもない。
残り1年の間に、マーケット環境が激変する中でケップルをどう変化させていくのか。
SaaSスタートアップの経営者として、今後どう進めていくべきかの意思決定に迫られた。
目先の資金手当て
真っ先に取り組んだのは、まずは目先の資金的な手当て。
ケップルグループは創業当初からVCからではなく連携可能な事業会社からの調達を資本政策上は重要視しています。その方針は今でも変わりません。
ちなみにこの時点で前回ラウンドの2018年日経新聞との資本提携から、およそ2年は経っていました。
スタートアップ経営者ならわかるはず。前回ラウンドから2年、つまりそろそろ次のラウンドに動くタイミングであるということは。
しかも事業会社との資本提携だとVCと違って調達完了までとても時間がかかります。
なので当時もその方針はぶらさず、早々に事業連携できそうな各社と議論を重ね、約1年かけて三井住友信託銀行(CVC)がリードで4.7億円の資金調達を実現させました。
エクイティに加えて、コロナ融資や個人資産を担保に入れて銀行からフレキシブルな融資枠を確保するなど、この時やれる財務施策は最大限実行しました。
祖業のKepple会計事務所の売却もこのタイミングです。
振り返ってもあの1年でよくまぁ一人で色々と財務的な手を打ったなと。会計士の血が騒いだ1年でした。
変わる企業に対する評価軸
会社が生き延びたとして、赤字のSaaSスタートアップの評価は今後どうなるのか。
マーケットが赤字を許容しなくなる、利益・キャッシュフロー重視のマーケットになっていくであろうという仮説を早々に持った。
特に、より市場規模の大きいHorizontalで戦わないとSaaSスタートアップは厳しくなるのではと。僕らはVertical SaaSだったのでかなり厳しい環境になるだろうと覚悟した。
コロナが長引き自力でキャッシュフローを生み出せるようにならないと資金の出し手を失い、会社の存続が危ぶまれる事態に陥るかもしれない。
生き延びたとしても利益体質の企業がより評価されるマーケットになるならば、それに適応していかないといけない。
逆にキャッシュフローを生み出せるようなれば、比較的優位な立場で今後ビジネスをできるようになるかもしれない。
なので、
早期に黒字化、キャッシュフローを生み出していける会社に転換しよう。
と、このとき決断した。
想定できたいくつかの黒字化の方法
黒字化させようという意思決定自体は簡単だが、実際には実行に移すのは難しい。
コスト削減する?
とはいえ費用の大半が人件費で、その大半がプロダクトに関わるメンバー。
会計士としてDX化の必要性は誰よりも理解してたし、プロダクトへの投資こそが自分たちの大きな未来を創ると確信を持っていた自分は、プロダクトへの投資を緩める選択肢は絶対に取りたくなかった。
そして既にユーザーもたくさんいる。
なので人員削減して投資抑制という選択肢は最初から全く考えなかった。
となると会社として取れる選択肢は一つ。
他で稼いで、プロダクトに投資する。
これしかない、と腹を決めた自分は、これまで積み上げてきた会社の基盤を生かしてキャッシュフローを生み出せる新規事業を考え始めた。
つまり、これは結果的に「SaaSスタートアップ」という看板を下ろし、「コングロマリット」に事業展開する会社になる、ことを固めた意思決定になりました。
この意思決定により、「スタートアップエコシステムへの貢献」という軸足さえぶらさなければ、複数事業の同時立ち上げが良しとされる環境、むしろそれが当たり前だというカルチャーが一気に社内で形成されていきました。
今振り返れば、0→1に挑戦できる環境に身を置けるかは人の成長に直結するし、結果的に全員がオーナーシップをもって会社に関わってくれることになり、とてもよかったです。
唯一、撤退した事業
当時、KEPPLE CRMが主な事業でしたが、ケップルアカデミーというリアルイベントを中心とした教育・研修事業を少し始めていた。
まだまだスタートアップに関わる情報がブラックボックス化していると当時思っていて、その情報の透明性を高めるべく始めた当事業。
コロナ前はそこそこ評判も良くスポンサーもつき始めていた。オンライン化に伴い集客面では追い風になることもありましたが、一方でスポンサーがつきづらくなり、リアルイベントがいつ復活するかもわからないため、こちらは早々に撤退を決断。
当時、業界問わずかなり多くの方々に各回参加していただきました。
もし当時参加したことのある方で当記事ご覧になっている方がいらっしゃれば、この場で厚く御礼申し上げます。
仕掛け始めた新規事業
投資フェーズにあるSaaSを抱えている状況で、いかにプロダクトへの投資を止めずに持続可能な会社となるか。
意思決定した後は矢継ぎ早に新規事業を仕掛けていきました。記憶が正しければ、2020年夏明けくらいから。
KEPPLE FUND SUPPORTの開始
まずは、SaaS事業で積み上げてきたユーザー基盤、営業基盤、そしてSaaSを活かせる事業から始めようとは決めていた。
それで早速開始した事業が、KEPPLE FUND SUPPORT。
ファンドの経理や決算、LPレポーティングなど、投資以外のミドルバック支援を行う、ファンド向けBPO事業です。
実はずっとずっと前から、
神先さん会計士でしょ?ファンドの決算とかやってくれないの?
ってもう数えきれないほど多くの投資家さんから言われていました。。
当時はSaaSやりたいんで!と、過去に会計事務所の経営をしていたこともあり、労働集約ビジネスからの脱却に強い拘りを持っていたので頑なに対応していなかった。ただそんな拘りもコロナで一変。
ファンドのミドルバック業務は特殊な実務が多く、担えるミドルバックオフィスの人材がマーケットで極度に不足していたんですね。
そのせいでアウトソース先も限られており、価格も高いし、タイミングによっては引き受けてさえくれないことも。
・会計士としての経験が活かせる
・SaaSとの相性も良い
・そしてマーケットが明らかに求めている
ということでまず最初に取り組む新規事業として旗を立てました。
「SaaS×プロフェッショナルサービス」のモデルがグローバルでトレンドだと言われ始めましたが、僕らはその前に必要性に迫られて「SaaS×プロフェッショナルサービス」のビジネスモデルへの転換を図ったことになります。
最近だとBPaasという便利な言葉も出てきましたが、その路線です。
僕自身は一人目の会計士への業務引継ぎを行ってからは、情報統制の関係から早々にチームからは離れましたが、その後チームメンバーの努力の成果で教育体制が一気に整い、今では20名を超える一大チームとなりました。
当事業を始めてからは約3年ほど経ちますが、支援先ファンドは50ファンドを超え、取引先のAUM累計(総運用額)は現在1,500億円を超えているとのことです。
今は本当に多くの皆様にお世話になっています。お取引先の皆様、いつも本当にありがとうございます。
引き続きファンドも増えてますし(最近だとVCのみならずPEファンドや事業承継ファンドも)、機関投資家のために公正価値評価の対応も今後本格化することになると思います。
そのため今後もファンドのミドルバック業務の負荷は高まる一方かと思います。
ファンド業界のミドルバック人材の育成は業界としても急務だと思いますので、ケップルとして少しでも貢献できるように人材の採用・教育を引き続き頑張っていきたいと思います。
アドバイザリー事業の開始
KEPPLE CRMで接点を持っていた先はVCだけでなく、事業会社も数多くいました。
事業会社の皆さんからよく寄せられていた相談は、
・株価算定、DDをやってくれる先を探している
・いつも取引している先は「高すぎる」
・いつも取引している先は「スタートアップに詳しくない」
スタートアップ投資はM&Aなどと比較すると少額なので、そこまでDDコストはかけられなかったり、いつも付き合っている先はスタートアップに詳しくなくて不安、という声が多数。
そこでケップルで事業会社の皆さんがスタートアップ投資を行う際の株価算定やDDを少しずつサポートし始めました。
今ではKPMG FASの元シニアマネージャーが事業部長となりチームを率いてくれていて、スタートアップに詳しく、リーズナブルで、高品質なサービスを提供できるようになりました。
おかげさまで口コミで大企業の皆さんとの取引が日々拡大しており、最近は半数以上がリピーターとなっていただいています。ありがとうございます。
KEPPLE DBの開始
上述の通り、ケップルは2018年に日経新聞と資本提携していましたが、その大目的が「スタートアップデータベースの共同構築」にありました。
当時ケップルとしてはデータでマネタイズは本格的にしてなかったものの、日経テレコンで「ケップルスタートアップ企業情報」としてデータ販売をしていました。
スタートアップデータベースに関しても競合プロダクトが値上げを続けており、「高い」というユーザーの声が僕のところにも度々届いていました。
KEPPLE CRMの基盤上に、スタートアップデータベースを展開することで更にMRRを拡大させられる、かつターゲット層も拡大させられると判断して、スタートアップデータベースとしては業界最安値の月額6万円/3ユーザーという価格でKEPPLE DBを2022年4月にローンチしました。
価格が安いこともそうですが、類似企業の精度の高さなども評価され、情報の量および質を比較されても当社のKEPPLE DBを導入していただけることが増えてきました。
またKEPPLE DBの施策の一環で、スタートアップメディア「KEPPLE」を始めました。
これだけエコシステムが大きくなったのにスタートアップメディアが全然ないという課題感と使命感から始めました。
このメディアはスタートアップエコシステム、ケップルグループとの接点の「入り口」になるだろうと思い、サービス名は「KEPPLE」にしました。
今ではメディアの記事や取材したコンテンツがKEPPLE DBで1つの差別化ポイントになっています。
KEPPLE DBは、今ではおかげさまで大企業中心に様々なユーザー様に使っていただけるプロダクトに育ってきています。
僕はもう権限委譲しプロダクト開発には直接関わっていませんが、プロダクトチームが日々全力を尽くしています。
ユーザーの皆さんに喜んでいただけるようにまだまだ開発頑張ります。
株主総会クラウドの開始
コロナで出社できない。
そんな状況下でスタートアップに必要なサービスは何か。
そこで思いついたのが、株主総会の招集通知と委任状回収を電子化するサービス。
招集通知の印刷と発送が不要になるプロダクトを作ろう、ということで
株主総会クラウドをローンチしました。
今でも多くの企業の皆様に継続して使っていただいておりまして、コロナ期間は特に喜んでいただきました。いつもありがとうございます。
投資事業の開始
そして最後に投資事業。
いろんなご縁から今ではケップルグループでも複数のファンド運用を任せていただけるようになりました。
2024年現在、株式会社ケップルグループで運用中のファンドは
になっています。
特に、セカンダリーファンドであるKepple Liquidity Fundは新規事業の中でも僕自身が時間を投下して注力してきた取り組みです。こちらは下記で詳しく書くことにします。
セカンダリー事業のポテンシャルと、想定しうる複数のビジネスモデル
上述の通り、様々な新規事業を仕掛け始めました。それも同時並行に。
足元の業績改善という目的もあったわけですが、とはいえ僕らもスタートアップ。
今後の成長シナリオ、エクイティストーリーをどう作るかも引き続き問われます。
マーケットのトレンドが変わると仮説を立てていた中で、振り返るとこれまで仕掛けてきた事業のほとんどすべてがアップトレンドの時に成長する事業。
グループ全体でマーケットのアップダウンに対応するだけの事業ポートフォリオとする必要があり、かつ、今後の成長シナリオも示せる事業が必要だと。
そこで色々海外事例などを調べていくうちにたどり着いたのが、
セカンダリー
これだ!と思ったのが、2020年終わり頃。
当時はダウントレンドどころかコロナバブルでみんな熱狂している頃でした。
ただ僕は引き続きダウントレンドを見据えた新規事業の構築で頭がいっぱいでした。
今後ケップルは「セカンダリー」がエクイティストーリーを語る上での1つの柱になる。これはもうこの時点で見えてました。
市場規模とファンド満期問題
スタートアップとして狙うマーケットの市場の大きさは常に問われます。
スタートアップ業界におけるセカンダリーの市場規模をどう示すのか。
ざっくりですが、当時下記のような計算をしていました。
・スタートアップの資金調達額は約7,000-8,000億円/年
・Exitに至っていない株式はすべて売却ニーズがある
・Exitまでの時間軸は勝手な推測で平均7-8年(最近はそれ以上かも)
保守的に短く見積もってExitまで5年間として、単純に直近5年の調達金額を足し合わせてみると、約2.5兆円。
加えて上記はあくまで投資時点の株価が維持されている前提です。
調達後、アップラウンドしていれば株価は上がり、評価益も積み上がっているはず。
評価益を考慮すると少なくとも3兆円、4兆円は日本のあらゆる投資家のBSに未上場株式として計上されているだろうと容易に推測できました。
そして日本ではアベノミクス後の2013年からファンド組成が急速に増加しているデータもありました。
通常ファンドは10年満期ですので、2023年以降に満期を迎えるファンドが続々と出てくる。
誰がこの満期を迎えたスタートアップの株式を誰が引き受けるのか?これはチャンスどころか、業界の大きな課題になるのではと。
市場規模も十分だしタイミングも良いとその時確信を持ったのと、そしてそれ以上に僕らも日本にセカンダリーマーケットを根付かせていくことに貢献していかないといけない、と思っていました。
複数のビジネスモデル
ダウントレンドにも対応できる、市場規模も十分で、始めるタイミングも良さそう。そして業界にとっても意義もある。
次に考えるべきは、どういうアプローチでセカンダリー市場に参入するのかだった。
セカンダリーといっても、どんなビジネスモデルがあり得るのか?市場の立ち上がり方は?
色々調べて考えて、セカンダリー領域では下記のアプローチがあり得ると整理しました。
1.ファンド
2.仲介
3.マーケットプレイス
僕らはプロダクトチームを持つ会社でもあるので、3のマーケットプレイスでの参入が一般的には分かりやすく、かつそれが最も投資家の期待値が上がりやすいアプローチだろうとは思ってました。
アメリカだとユニコーンになったCartaが、CartaXというセカンダリープラットフォームを出したのもこの頃です。2021年頃、色々僕も考えていた矢先のニュースでした。
この時、日本ではセカンダリーを謳うプレイヤーはほとんどおらず、ファンドのLP持分を買うセカンダリーファンドが2つか3つか存在している程度でした。
僕は、ケップルアフリカベンチャーズというアフリカ特化VCも2018年から経営しています。こちらも100億円を超えるファンドを2号まで運用中で、アフリカの現地スタートアップに累計130社以上に投資をしています。
アフリカだと少しラウンドが進むと個人投資家やシードVCは普通にセカンダリーで売却してExitし始めます。
一方の日本では、もちろんセカンダリーが全くなかったわけではありませんが、特殊な事情がある場合を除きセカンダリーでの売買がアフリカほどは当たり前になっているような印象は持っていませんでした。
また海外だと数千億円を超えるような大型のセカンダリーファンドがごろごろ存在していました。それと比較すると日本では「セカンダリー」のプレイヤーがいなすぎる。
そんな背景から、セカンダリーマーケットの立ち上がり方として、
セカンダリーファンドが生まれセカンダリー取引の文化を醸成
ファンドが拾いきれない機会をエージェントが仲介
少額取引を中心にマーケットプレイスへ
ざっくりこんな仮説を立てました。
しばらく様子を見ていましたが、日本だとセカンダリーファンドが立ち上がる気配が全くなかったこともあり、まずは自分たちでセカンダリーファンドを作りセカンダリーの文化醸成から始めよう。
そう決意したのが2020年末から2021年にかけてでした。
Kepple Liquidity Fundが100億円になるまで
運命の出会い
そんな流れでセカンダリーファンドを作ろうと決意したわけですが、ファンドを組成するにも仲間が必要。
探さなきゃと思っていた矢先、その仲間はすぐに見つかりました。
2020年からケップル本体の資金調達の話を進める中で出会ったのが当時三菱UFJキャピタルに在籍していた堂前さん。
彼はフォーブスミダスリストで7位に入賞したこともある、日本アジア投資、三菱UFJキャピタルで20年近くキャピタリスト経験がある方です。
ケップルの今後の構想を少し共有する中で、セカンダリーファンドの話を少したらあっという間に意気投合。
出会って数週間後に堂前さんから、そのファンド自分やります、と連絡がありました。これは本当に運命的な出会いでした。
あともう一人、yenta経由で出会った方がおり、3人で立ち上げよう!と水面下でプロジェクトが進み始めたのが2021年春頃でした。
ファンドレイズ開始
二人が入社してくるまでに少しでも資金的な目途をつけておこうと、軽く資料などを準備して身近な投資家にサウンディングを開始。
まずは一番のサポーターでもある株主の皆さんに共有と相談。
これから絶対セカンダリー来ます!
と話をし始めたものの、結果、声掛けした全社撃沈。
みんな「良さそうだけどうちで今投資するのはたぶん社内的に厳しそうです」との回答。
とにかく日本でセカンダリーの文化を醸成したい、そのためにはファンドとしてとにかくできる限り集めてマーケットにできる限りの資金を供給しないといけない。
なので二人組合だろうとCVCだろうと何でも形は良かったんですが、結果的にパートナーは見つけられず、自力で資金を集める以外の選択肢はありませんでした。
そんなこんなであっという間に2021年10月。いろんな人に話をしていたのですが1円も集められていない状況のまま迎えた堂前さんの入社日。
それでも堂前さんは飛び込んできてくれました。
振り返ってもよくあの状況で飛び込んできてくれたなと。堂前さんはリスクを取れる、アントレプレナーシップを持つ素晴らしいキャピタリストです。ちなみにもう一人の方は、残念ながらご縁が無くなってしまいました泣
ただそんな状況が大きく変わってきたのが、堂前さん入社直後のこと。
2021年末頃からFRBの利上げ観測などの影響で大きくマーケットが動き始めて、グロース銘柄を中心に株価が軟調になりIPOの延期が相次ぎます。
年が明けても株価は戻らず、徐々に「セカンダリー」の波が押し寄せます。
僕らはその後も諦めずに色々声掛けをしている中で、兼ねてから交流のあったとあるファミリーオフィスが「これからセカンダリーは来ると思っていて自分たちもやりたかった」と超速で3億円のコミットをしてくれました。
これが2022年春頃。
僕がひとりで声掛けを始めてから一年越しで、ようやく、やっと、ついに、1社目のLPを見つけられました。
そしてその後もう1社もコミットをいただきました。
この一番最初にリスク取って信じて意思決定いただいた2社のLPにはもう一生ぼくは頭が上がりません。
本当はもっと資金を集めてファーストクローズで大きくローンチしたかったのですが他に集められる目途も無く、まずはとにかく表に出そう。そしたら流れも変わるかもしれない。
そんな思いで本当に小さい規模でしたが、2022年6月1日にファンド設立のリリースを出しました。
そしていざリリースを出してみると、想像以上の反応が!
Xでたくさんシェアされ、HP経由で問い合わせも来て、知り合いからのDMもたくさん来ました。売却の相談をしたいという話もそうですが、それ以上にセカンダリーファンドは日本に必要だと思っていた!という応援コメントを沢山いただくことができました。
本当にこの時はこの1年半の自分の努力が報われた気持ちでした。
今振り返れば投資家に断られまくって削れていた自分のメンタルも、これで少し復活し、また背中を押された気がします。
どんなプロジェクトもやっぱりとにかく出してみるものだなと痛感した瞬間でした。
ついにファイナルクローズ
そこからさらに1年、貴重な資金を投資しながら調達活動を継続し続けました。
その最中で、僕が起業してから新しいことをするたびに相談に伺うなど個人的に親交の深かった元アイフルのCVC、AGキャピタルの元社長の鮫島さんにパートナーに就任いただきました。
ただその後も何回断られたことか。
「1号ファンドは出せない」
「セカンダリーで良い銘柄が本当に買えるのか」
「もう投資予算がない」
正直、もうこの頃には何を言われても何も感じなくなってました。自信があったので、なんで投資しないんだろう?という気持ちの方が強かった。
その後、なんとか産業革新投資機構(JIC)にアンカーLPとなっていただき、それに加えて複数の金融機関やファミリーオフィスの参画も決まり、当初リリース時に掲げた2023年夏に50億円という目標を達成できました。
組成までの苦しかった時期を振り返ると、正直自分にとってはこの時ですでに信じられない規模感でした。
ただ産業革新投資機構の皆様からは、国内セカンダリーマーケットの必要性から当社セカンダリーファンドへ強い期待をいただいていました。
そして当初想定以上の投資機会もあると感じていた我々は、当初目標の50億円を超える100億円を目指す方向で固め、そしてJICの皆様からも背中を押していただき、我々も調達活動を継続することを決めました。
その後は2023年中に100億円とするべく頑張っていたのですが年末までには目標額は集まらず、セカンドクローズからさらに約1年弱の2024年5月末に100億円でようやくファイナルクローズとなりました。
50億円から100億円にするまでも想像以上に大変でした。正直、僕一人では恐らく100億円なんて到底集められなかったと思います。
全ては
僕らセカンダリーファンドを応援いただいた本当に色んな方から数珠つなぎのように人をご紹介頂けたこと
そして
1号ファンドでトラックレコードもない僕らへの出資を、強く社内で押し通してくれた各担当者の皆様の熱意のおかげ
です。
何を始めるにも、社会性、存在意義、ビジョン、そして目標を達成するんだという強い執念を持っていないと、どんな事業も立ち上がらない。
そう強く感じたファイナルクローズまでの数年間でした。
お預けいただいた資金は責任をもって運用し、皆様へのご恩はリターンと、スタートアップマーケットの長期発展、という形で今後お返ししていきたいと思います。
ケップルの今後について
まずは日本でスタートアップのセカンダリーマーケットを立ち上げていくという大きなミッションに対して、100億円で1号ファンドを組成でき、日本のセカンダリーマーケットの立ち上げに少しは直接的に貢献できる状況になれたのをとても嬉しく思っています。
とはいえ国内未上場株のセカンダリーマーケットはまだまだこれからです。
最近だとスタートアップ五カ年計画でセカンダリーについて言及されたり、
https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/index.html
金融庁が1種ライセンスの要件を緩和したりの動きもあります。
これからセカンダリーファンドを立ち上げるプレイヤーや、1種ライセンスを取得して仲介やマーケットプレイスを立ち上げてくるプレイヤーも出てくるでしょう。
市場規模も大きいですし、セカンダリーマーケットが作られることでプライマリーのマーケットが更に活況になり業界がよりサスティナブルになると思いますので、市場参入者が増えることはとても歓迎すべきことだと思います。
その中で、まずは僕らがこの資金を使ってセカンダリーマーケットの火付け役になれると思うととても嬉しく、今後も国内セカンダリーの文化醸成に貢献し国内でもセカンダリー取引が当たり前になるように、皆さんと切磋琢磨しながら頑張っていきたいと思っています。
またセカンダリー以外にも、まだまだ国内スタートアップ業界の課題は様々あると思っています。
三井住友信託銀行が実施しているスタートアップサーベイを見ると、スタートアップの人材面での課題は大きいままです。
そこでケップルグループでは、スタートアップへの人材供給支援のため、ストックオプション求人をご紹介するミドル・ハイレイヤー向けの転職支援サービスを始めています。
コロナ以降は少し守りに入りながら攻めていましたが、今後はグループ全体でまた少し攻めモードに切り替えて頑張っていきたいと思います。
今後のケップルグループのキーワードは
「セカンダリー」
「地方」
「グローバル」
になります。
上述の背景からケップルグループの事業ポートフォリオは一気に拡大しましたが、スタートアップエコシステムへの貢献という軸足は一切ぶれていません。
僕らは、社会課題解決のためにリスクを取って立ち上がり挑戦する起業家と投資家が社会をより良い方向に変えていく、と信じて疑わないからです。
引き続きケップルグループは「Create New Industries」のミッションと「Be a Global Innovation Platform」のビジョンを実現すべく、頑張っていきます。
成功することも失敗することも、サービス立ち上げ期には騒がしくすることもあるかと思いますが、これからもケップルの挑戦を暖かく見守っていただけましたら幸いです。
長文でしたが、以上になります。
「100億円」のニュースだけ見ると順調そうに見えるかもしれませんが、構想してから立ち上げるまでは全然簡単ではなかったですし、これからもきっと簡単な道はないと思っています。
それを少しでも分かって頂きたくてnoteを書きました。
引き続き気を引き締めて、チーム一丸となって頑張ります。これからもケップルグループをよろしくお願いいたします。
最後に、会社の方向性が大きく変わる中でその変化を受け入れ、局面によっては辛いこともあったかと思いますが、常に前向きに激動の数年を共に戦ってくれたケップルグループの全ての仲間たちに感謝します。
今後も共に頑張ろう!!こっからだね!