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"蹴球3日"で遊んで育つ

■イタリアの少年サッカーは休みだらけ


イタリアの子どもたちは、どのような流れでシーズンを過ごしているのでしょうか。ここではフローリア2003に所属する、14歳の私の息子が過ごした2017-2018シーズンをサンプルに見ていきます。無名の街クラブも有名なプロクラブも基本的には同じスケジュールです。

■年間スケジュール――夏休みの3カ月は丸々オフ!

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まずは年間スケジュールから。イタリアではバカンスが明ける8月末から9月上旬に、新シーズンへ向けたプレシーズン・キャンプが行われます。期間は10日前後、もちろん参加不参加は任意です。

リーグ戦は、前述したようにセリエAとほぼ同じスケジュールで行われ、新学期が始まる9月15日の2日後、9月17日に開幕して翌年4月28日に終了。7カ月半で30試合を消化する長丁場でした。

もっとも、リーグ戦が終了しても活動は続きます。5月から6月上旬には、各クラブが主催する複数のミニトーナメントに参加。そして6月8日に学校が終業。ここから3か月にも及ぶバカンスが始まります。この間チームは活動を停止。練習は一切ありません。海水浴と砂浜のサッカーで散々遊んでぐっすり眠ると、成長が促進されるのか、夏を境に見違えるように大きくなる子どもも少なくありません。

このように、イタリアの少年チームが活動するのは1年のうち9か月だけ。真夏も練習を休まず、1年中活動している日本のチームと比べると、イタリアの子どもはかなり休んでいることがわかるでしょう。

■週間スケジュール――サッカークラブの活動は週3日

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次はシーズン中の週間スケジュールを見ていきます。

リーグ戦は土日のどちらかに行われ、日曜が試合の場合は、火曜と木曜の2日だけ練習が行われます。土曜が試合の場合は、月火木の3日間、練習が行われます。火曜の練習は自由参加です。

ちなみに街クラブの練習頻度は「週2日」が大多数。「週3日」はかなりの少数派です。これ以上の頻度で練習をしているチームは皆無に等しく、1週間のうちにオフが1日もないチームはありえません。

つまり、1年で9か月、週2日の練習と週末の試合が続く"蹴球3日"のイタリアの子どもたちは、年間110日から120日ほどしかチームで活動していない計算になります。これだけ練習日が少ないチームは、日本の中学や高校の部活ではほとんどないかもしれません。


■「休養」こそ最高の練習


ここまで、イタリアのサッカー少年のスケジュールを見てきました。この中には日本ではお馴染みの"あるもの"がありません。気づきましたか?

正解は「朝練」と「居残り練習」です。

さらに練習内容に目を向ければ、日本にあってイタリアにないものはほかにもあります。例えば、日本で日常的に行われている「走り込み」がありません。また監督の「説教」や「体罰」もなければ、「大勢の控え選手」や「上下関係」もありません。

イタリア人が長時間練習を行わないのは、「長くやれば上手くなる」という発想がないからです。彼らはむしろ「練習のやりすぎは良くない」と考えます。いわゆる"猛練習"は、さじ加減を間違えると「最悪の練習」になります。十分な睡眠を確保するという観点からも、朝練や居残り練習は見直されるべきでしょう。

休養は子どもの身体をケガから守るだけでなく、成長を促します。休養の中で最も重要な役割を担っているのが睡眠です。眠っている間に子どもは身体を修復し、成長していきます。イタリアの指導者の多くが「休養こそ最高の練習である」と口をそろえるのはそのためです。

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■プロクラブの練習量も控えめ

フィレンツェから西へ車で1時間ほどのところに位置する人口4万人の田舎町、エンポリに、育成で名高いエンポリFCというプロクラブがあります。このクラブでは、練習前の子どもたちにSNSで質問に答えることを義務づけています。質問とは次の4つです。

1.睡眠時間は?
2.よく眠れた?
3.筋肉や関節に痛みや違和感は? あるなら、その部位は?
4.前回の練習の疲れは完全になくなった?

「よく眠れなかった」「ふくらはぎに張りがある」といった回答があれば、その文面はドクターやフィジオセラピスト(理学療法士)に転送され、子どもはグラウンドではなく医務室へ行くことになります。そして必要な処置を受け、回復のために何をすべきか指示されます。「練習を休みなさい」という判断が下されることも珍しくありません。

エンポリFCでU-17を担当するフィジオセラピスト(理学療法士)のフランチェスコ・マリーノは言います。

「子どもたちは多少の痛みがあっても、絶対に休もうとしません。でも、彼らが抱える違和感を見抜けないようでは、プロとは言えない。一度故障があるとわかれば、あとはどのように選手を説得して休ませるか、そこが大事になるわけです。子どもたちも休みの大切さは理解していますが、それでもボールを蹴りたくて仕方がないので素直には休んでくれません。『ちょっとだけ蹴って状態を確かめます』などと言って、グラウンドに出ていこうとするのが4、5人はいますからね」

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エンポリU-17担当フィジオセラピストのフランチェスコ・マリーノ


マリーノは育成年代の適切なトレーニングの時間と負荷、さらには休息の取り方について次のように考えています。

「13歳から15歳までは練習は週3日、一度の練習は90分、長くても100分がリミットです。16歳、17歳では週4日、練習時間はこちらも90分、長くても100分が限度です。これに週末の試合が加わることを考えれば、これ以上増やすべきではありません。また適切な食事と十分な睡眠時間の確保も重要です。エンポリでは、選手たちに1日8時間の睡眠を義務づけています」

日本で一般的に行われている、「朝練」や夜遅くまでの「居残り練習」について、マリーノは厳しい目を向けます。

「なぜ、そのような練習をしなければならないのでしょう。それでは睡眠時間が確保できず、疲労を回復することができません。成長ホルモンは睡眠中に最も多く分泌されるわけですから、疲れた身体と心を休ませる大切さは、今さら語る必要はありません。成長期の子どもの身体が壊れやすいという事実、サッカーの厳しさは試合の中で自然と身につけられるということを、もっと大切にすべきかもしれないですね」■


次回は、のびのびとサッカーを楽しむ子どもたち以上に我が子のサッカーを楽しんでいるイタリアの親父たちの姿をお伝えします。



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