選手引退後の3つの仕事 2.スポーツマーケティング
コーチはどんな仕事をしてるの? 教え子から2番目に多い質問です。
調達の次は、スポーツマーケティング。私が担当したスポーツマーケティングの仕事をなるべく分かりやすく説明し、その時に感じたスポーツを通じて身につけていた自分の強みについて話したいと思います。
一般企業のスポーツマーケティング
スポーツマーケティングと言っても、世の中には色んなスポーツマーケティングがあります。
スポーツのコアな団体や企業から順番に挙げると、
1.オリンピック委員会や競技団体のようなスポーツ団体
2.ガンバ大阪や読売ジャイアンツのようなクラブ・球団
3.電通やIMGのような広告代理店やスポーツエージェンシー
4.アシックスやNikeのようなスポーツ用品を取り扱う企業
5.Coca-ColaやP&Gのような一般企業
などなど…
パナソニックは、5つ目の一般企業のスポーツマーケティングで、スポンサーやパートナーと呼ばれるところにいます。
Coca-ColaやP&Gは、説明不要かと思いますが、一般消費財を取り扱う企業ですね。一般消費財マーケティングの分かりやすい例としては、〇〇を買ってオリンピックを観に行こう!と言ったキャンペーンです。
パナソニック は、Caca-ColaやP&Gとは違う点があります。それは、一般消費者向けのスポーツマーケティングだけではないところです。
まず、パナソニックの家電を買ってオリンピックを観に行こう!のキャンペーンです。
また、デジタルカメラ LUMIX バンクーバー2010オリンピックモデルの事例です。バンクーバーは初めてのオリンピックでもあり、私の宝物です。
加えて、パナソニック にはB2B事業もあります。オリンピックで言うと、GEやATOSのようなB2B企業がワールドワイドパートナーです。
B2Bマーケティングのわかりやすい例は、機器やサービス提供による競技大会運営支援の実績発信です。
リオオリンピック 競泳会場 選手入場口のパナソニック製スクリーン(大会前の設置完了時)
このように、パナソニックでは、一般消費者向けもB2Bビジネスも両方、オリンピックマーケティングを行なっています。
東京2020パートナー・スポンサーには多くの企業がいて、大会を支援しています。オリンピック大会スポンサーは多い方だと思いますが、競技団体毎やリーグ毎、大会毎にスポンサーがありますし、各選手のスポンサーもいらっしゃいます。
もし、学生の皆さんで、スポーツマーケティングがしたい、スポーツマーケティングが出来る企業に就職したい、とお考えなら、色んな選択肢があることを覚えておいて下さい。そして、どんな形で関わりたいのかも考えておいた方が良いと思います。
ただ、一般企業のように、スポーツのコアで事業をしている団体・企業から外れるほど、その企業でスポーツ(マーケティング)に関われる可能性が低くなりますので、忘れないように。
スポーツマーケティングの仕事
私の担当はオリンピックでしたが、私が配属された部署は、当時はF1、現在は、パナソニックオープンという男女ゴルフトーナメントなどのスポーツ・イベントのスポンサーシップを担当していました。
私が行ってた仕事を分かりやすく言うと、ブランド戦略に合わせて、パートナーシップ・スポンサーシップを選定・交渉し、獲得した権利を活用する仕事です。
仕事の内容を大きく3つに分解すると、
・権利を獲得する
・権利を守る
・権利を活用する
まず「権利を獲得する」ですが、ここが核となる活動です。ブランド戦略に合わせて、スポーツパートナーシップ・スポンサーシップを選び、獲得する。目利きが必要な仕事なので、調達と同じく、バイヤーとも言えます。仕事は、スポーツマーケティングの戦略企画や契約交渉など。
次に「権利を守る」は、社内・社外両方の話で、社内では当社の権利が正しく活用されているか?社外では、当社の権利が正しく守られているか?を確認する仕事。サッカーで言えばゴールキーパーの役割ですね。仕事は、社員への啓蒙活動やパートナーや専門家との意見交換など。
最後に「権利を活用する」ですが、業務量としては一番多く、権利活用に多くの人、モノ、金と時間を割きますので、ここから更に3つに分けますと、
・機器やサービス納入
・ホスピタリティ
・マーケティング
機器・サービス納入は、スポンサーカテゴリーの機器やサービスを大会運営などに実装する事で、商品やサービスのプロモーション、新商品・サービスの効果を証明する場などに繋げていきます。
ホスピタリティは、ホテルやチケットなどを組み合わせて、先に説明した一般消費者向けのオリンピックを観に行こうキャンペーンや、B2B顧客向けに商品・サービスの運用現場視察ツアーなどを企画・運営します。
マーケティングは、宣伝・広報・イベント・店頭プロモーション・デジタル・ソーシャルなど多種多彩な手法と組み合わせがありますので、私のお気に入り事例を紹介しますと、
コンシューマーマーケティング「ビューティフルジャパン」
特別企画イベント「SPORTSxMANGA」
ロンドンオリンピック「パナソニック ・パビリオン&現地プロモーション」
スポーツを通じて身につけていた自分の強みと情熱
スポーツを辞めて、自分に何が残るのか?私は野球を辞めた時に全て失ったと思いましたが、スポーツを続けてきたことで、スポーツの技術や知識以外にも色んなことを学び、身につけたと今は思えます。
前回のブログで、スポーツ選手が調達・営業・人事などの職能に向いていると思う理由として挙げましたが、スポーツ選手には、目標達成推進力、チームワーク、リーダーシップ、対人関係構築力、フェアプレー精神、忍耐力などのソフトスキルが叩き込まれているという強みがあります。
また、スポーツマーケティングには、スポーツスポンサーシップなど契約交渉が多い仕事になります。特に、グローバルスポンサーの場合は外国人が交渉相手です。
私は、欧米、ロシア、ブラジルでの契約交渉がありました。バンクーバーでは初めての英語での交渉、ロンドンではスポーツ弁護士との交渉、ロシアでは元軍人?かと思うパワー交渉と次々に苦しい場面に遭遇しました。
でも、そこで感じたスポーツをやってきた強みの1つが、外国人にも負けない体格。これは十分な強みです。交渉ごとなので戦う前から負けていては話になりません。
加えて、契約交渉時に、こちらの考えを相手に悟られないポーカーフェイスも強みです。野球の場合、対戦相手に何を考えているか悟られると、球種を読まれたり、打席では逆を突かれますので、ポーカーフェイスであることを練習しました。
契約交渉でも重要で、仕事での経験上、動揺や焦ることもありますが、ポーカーフェイスでいることで交渉を優位に進めることが出来ました。
そして、何より、スポーツに携われることへの感謝、スポーツに対する情熱です。オリンピックを担当してから1年半後に初めてバンクーバーオリンピックの現場に、映像撮影スタッフの一員として行きました。
オリンピックで最初に足を踏み入れた競技会場は、当時、パナソニックのCMに出演していた上村愛子選手が出場する女子スキー・モーグルでした。
下記の写真は選手村でたまたまお会いした時に一緒に撮った写真。パナソニックのスタッフジャケットを着てた私に、上村選手から「何されてるんですか?」「私、パナソニック のCMに出演させて貰ってるんですよ」と声を掛けてくれて、「なんて気さくで良い人なんだ」と思ったのを覚えています。
話を戻しますと、フィールドレベルで仕事をしていたので、野球を辞めてから5年ぶりに選手目線で試合本番の会場に立っている状況に、また真剣勝負のグラウンドに立ちたいという想いと共に、上村選手など世界のトップアスリートが活躍する舞台をパートナー企業の一人として支えられている事に誇りとやり甲斐を覚えたことは、いまだに忘れられません。
スポーツマーケティングは私にとって、スポーツ選手だった強みと情熱を活かせる仕事です。
みんなも、自分の情熱と強みを活かせる仕事を見つけて欲しいと思います。
スポーツが大好きな次世代のために