【FtM】日本人が台湾でホルモン注射打ってみた🇹🇼
前提
私は今年で30歳になったFtM(厳密にはノンバイナリーですがややこしいので今回は割愛)ですが、ワーキングホリデーでの台湾滞在が8月末から始まり、すでに前回のホルモン摂取から27日が経過してしまったので、昨日台湾のクリニックで注射を打ってきました。
その際の予約や診察の流れ、料金などについて忘れないうちに書き残しておきたいと思ます。
ホルモン注射は日本で4年半ほど打っている
テスチノン125mgを3週間に1回のペース
日本ではSRSと戸籍の性別変更が終わっているため、保健適応で1回につき600円程度(保険が効かなかった時は2,200円)
ホルモンによる大きな異常(高血圧や多血症など)は今のところなし
ネットでの病院探し
今回のワーキングホリデーの前半は台北に滞在する予定のため、ひとまず台北でホルモン注射を打ってくれる病院やクリニックがないか、渡航前にネットで探してみました。
台湾は同性婚が可能で、日本よりも性的少数者の保護が進んでいるイメージでしたが、留学エージェントの担当者さんに手伝ってもらいながら探してみると、なんと台北市が作成しているLGBT向けの情報ポータルを発見。
このサイトの「民間相關資源」の中にある「台灣同志諮詢熱線協會(以下熱線)」という団体のサイトの中に、「跨性別醫療資源」というページがあり、台湾でトランスジェンダー関連の診療ができる病院やクリニックのリストを見つけました。
「トランスについてまとまった情報が既に用意されているなんて、素晴らしい!」と感激して、とりあえずこの団体に連絡を取ればサポートしてもらえるだろうと鷹を括ってそれ以上調べることはしませんでした。
ですが、これが間違いだったとすぐ分かります。
そっけない返事
渡航後、熱線のお問い合わせフォームから、こんなメールを出してみました。
正直なところ、一番重要なのは後半の「直接事務所に伺って相談してもよろしいですか?」の部分なのですが、メールを送ったその日の夜に帰ってきた返事がコチラ。
なんと、一番重要な「事務所に伺っても良いですか?」に対する返事が、「私たちの事務所は現在改装中です」の一文で終わってしまいました。
これは大きな誤算で、顔と顔を合わせて話せば同情して親身になってくれるかと思いきや、まさかの会うことすら許されない上に、既に知っているURLだけ教えられておしまいという…。
いや、突然問い合わせたただの外国人が何をそんなに期待してるんだと言われれば終わりなのですが、一人で台湾に来て頼れる人もいない状態でこの返信は非常に心許無く、結局は全て自分でやらなければならないという状況に、急に不安になりました。
この日は夜寝つきが悪かったのもあって、不安でなかなか眠れませんでしたが、この時点ではまだ前回のホルモン注射から5日しか経っていなかったので、早いうちに色々調べておかなければと分かっているものの、結局ここから2週間ほど見てみぬふりを続けることになります…。
(言い訳をするとすれば、この病院探しの間にもアパートへの引越しや語学学校への入学手続きなどがあり、単純に忙しかったのは事実です)
国際医療センターって何?
台湾に到着してから3週間ほど経って生活にも慣れてきた頃、徐々にホル切れの症状がちらつくようになりました。(ホットフラッシュ、浮遊性の目眩、不安感など)
これ以上目を逸らし続けることはできないと、改めて熱線の「跨性別醫療資源」のページを見て、片っ端から病院の場所と受診の方法などを調べてみたところ、ここで一つ躓いたのが、特に大きい病院に共通している「国際医療センター」の存在でした。(名前は病院によって異なります)
要は、保険証がない外国人が病院を受診する際は、この施設を通しての診察になるよということなのですが、料金表を見たところ、概ね下記のような感じでした。
登録料:500NTD(2,250円くらい)
相談料:1200NTD(5,400円くらい)
登録料というのはいわゆる「掛號費」(初診料と訳される時もありますが、台湾は初診料がないのが普通らしいので、診察料というのが正しいでしょうか)だと思うのですが、その「相談料」って何…?
当然ここにホルモン注射の薬剤代金も入ってくるはずなので、注射を日本と同じ値段(2,200円)と想定したとしても、
登録料2,250円 + 相談料5,400円 + 注射代2,200円 = 9,850円
となり、日本でも保険無しの時2,200円だけで注射出来ていた身としては、そりゃもう目ん玉飛び出したわけです(大袈裟)。
これが1回打って終わりなら別に構わないのですが、3週間に1回、1万円近い出費をしなければならないのは、ワーキングホリデーに行くからと本業を休んでいる自分としてはかなり痛手なわけです。
ここでいよいよ焦り始めて、グローミンやセルノスジェルなどの軟膏でなんとか出来ないかなど調べてみたのですが、台湾ではあまり流通していないようで、唯一方法があるとすれば日本で買って台湾に送るなど面倒かつ時間がかかる方法しか見つからず、ああ、やっぱり海外で注射を受け続けるなんて簡単なことじゃなかったんだ…と改めて思い知らされ、また自分のリサーチ不足にも腹が立ちましたが、既に日付が変わる遅い時間になっていたため、陰鬱とした気持ちでこの日は床につきました。
差し込んだ一筋の光
翌日、半ば絶望した気持ちで引き続き病院やクリニック、ホルモンの軟膏について調べていたところ、セルノスジェルについて記事を書いている一軒の泌尿器科を発見。
こちらの「謝政興泌尿科診所」さんは、台北の市政府駅のすぐ近くにある泌尿器科のクリニックなのですが、サイトがなぜか日本語に対応していたり、LINEですぐに問い合わせができそうだったりと(日常会話くらいなら問題ないのですが、電話での問い合わせはまだハードルが高いです)、安心材料がいくつかあったので、サイトにはトランスジェンダーのトの字もありませんでしたが、日本ではSRS後のホルモン注射については泌尿器科がやってくれる場合も多いのでダメ元で問い合わせてみました。
その日のうちに返信が来て、値段も日本で打つ場合と変わらない値段だったので、すぐにネットで予約したら翌日の夕方の枠が取れました。
あとで分かったことなのですが、このLINEは先生が直接返信してくれていたようです。(安心感があってGOOD)
熱線のページにも特に記載がなく、また、クリニックの公式サイトにもトランスジェンダー向けの治療の記載は一切なかったのですが、案外あっさり引き受けてくれてとてもホッとしました。
いざ診察へ
予約した翌日、16時半の診察のため市政府駅へ降り立ちましたが、どこからクリニックがある階に行けばいいかわからず、15分くらい周りをうろうろしました。(早めに着いていてよかった…)
大きなビルの3階にある扉を潜ると、清潔感のある待合室と受付が見えたので、受付の看護師さんに予約があることを伝えると、まず掛號費の支払いを求められたので、ここで500NTD(2,250円くらい。保険ありだと200NTDらしい)をまず払ってから、初診表を記入しました。
初診表の内容は日本とあまり変わらないと思います。日本で泌尿器科に行ったことはないのですが、名前、身分証番号、電話番号、住所などの個人情報と、アレルギーや病気の有無について聞かれました。
初診表を渡すと、待合室で待つように言われたので待っていましたが、平日の夕方ということもあって人はあまりおらず、今診察している人と、会計を待っている人、自分の3人しか患者さんはいないようでした。
前の人の診察が終わってしばらくしてから、診察室に呼ばれました。
先生は50〜60歳ほどの男性で、物腰が柔らかく誠実そうな印象でした。
昨日私がLINEで送った内容を一緒に見つつ、時折英語も交えながら以下のような質問をされました。
いつ性別適合手術を受けたのか、どこの病院か
ホルモン注射を受けて体調を崩したことがあるか
血液検査はどれくらいのスパンで受けているか
パートナーはいるか
また、今回打つサステノンについては、テストステロンの含有量が少し多いから、1ヶ月に1回でいいと思うよ。その方がいつクリニックに来ればいいか覚えやすいしね!なんて言いながら、とても優しく、丁寧に説明をしてくれたので、ここでもう私の先生に対する信頼感はMAXになり、最後にどこに打つかを決めてから(いつもお尻に打ってるので今回もお尻にお願いしました)、一旦診察室を出てまた待合室で待っていました。
しばらくして看護師さんがホルモン注射の薬剤を持ってきて、700NTDですとのことだったので支払いを済ませ、処置室(といっても待合室の角のカーテンで区切られているだけの空間)で、注射を打ってもらいました。
狭い空間なので椅子しかなく横になることができなかったので、立った状態でお尻にホルモン注射を打ってもらいましたが、看護師さんが上手だったのか全然痛くありませんでした。
また、看護師さんが「中国語が上手ですね!」と褒めてくれたので、過去に留学していたことなど少し雑談をしてから、「打った場所は違和感があると思うので軽く揉んでくださいね」と(多分)言われたので、これ以上の支払いや処置がないことを確認して、クリニックを後にしました。
ビルの階段を降りながら、不安な状態から先生や看護師さんの誠実な対応に触れてホッとしたのもあり、少し泣きそうになって、改めて、思った以上に心細かったんだなと自覚しました。
先生や看護師さんの対応が良かったのもさることながら、変な相談料などを取られることもなく、掛號費500NTD + ホルモン代700NTD = 1200NTD(5,400円くらい)で済んだので、当初調べた国際医療センターを通す診察よりも半額くらいで注射を受けることができました。
良心的なクリニックが見つかって本当に良かったです。
まとめ
以上が、私が台北で実際にホルモン注射を受けるまでにやったことと、その感想でした。
同じような前例がなさそうだったので、もし、ワーホリなどで長期で海外に行きたいトランス男性がいたら参考になるかと思い書き始めましたが、事前のリサーチをしっかりして、かつ、早めに軟膏やパッチ、飲み薬など飛行機で持ち込めるものに切り替えるなどの対応をしていればもっとスムーズにいったと思うので、反面教師として活かしてもらえれば幸いです(泣)。
トランスジェンダーの医療に限らず、何か他の医療的処置が必要な場合でも、台湾の病院やクリニックはメールやLINEで問い合わせられるところが多いみたいなので、電話にハードルを感じる方はまず文面で問い合わせてみると良いのではないでしょうか。
ひとまず、台北ではこの泌尿器科に通えばOKということで、一安心です。
※ここに記した病院、団体の情報や、日本円=台湾ドルのレートは2024年9月20日時点のものです。