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広告制作者のリスクプレミアム

広告は制約を前提とする表現だ

広告はあらゆる表現のなかで最も「制約」が多いものだと思う。
広告主の意向や、広告対象商品・サービスそのもののスペック、それらに関連する法律や規制、媒体の特性や媒体社の表現考査、納期や予算、制作上の倫理などもガッツリ関与してくる。そんな縛りの中でパフォーマンスを発揮する広告を作るために、制作者は腕を振るう。

広告制作の責任者に求められるもの

しかし「制約のなかでベストを追求する」ためには制約―与件の整理が必要だ。どんな制約があり、何を求められていて、いつまでにどんな広告を創るのか。クリエイティブワークは前提条件をしっかり共有してから始めなければならない。だからこそ、広告制作の責任者には明確な与件を確立・共有することが求められる。制作が始まってからオーダーが揺らげば、クリエイティブは方向性が定まらずピントが合わないものになり、進行の遅れが生じて制作の詰めを甘くしてしまい、工数の増加はコストの上昇を招く。慎重に準備を行い、周到に条件を詰め、走り出したら揺るがない。それが広告プロデューサーに求められる姿勢ではないか。

制作環境を荒廃させるプロデューサー

しかし残念ながら、広告主(や商流の上位者)から充分に情報を獲得できず曖昧な与件で走り出し、具体的なクリエイティブが提出されてから「やっぱり◯◯な感じで」みたいな後出しのオーダーが噴出、挙げ句「クライアントが判断する時間を確保したいので、クリエイティブは2方向で作ってください」みたいなオーダーをしてくるプロデューサーがいる。じゃあ2つのクリエイティブに対するフィーが出るかというと「採用した分のみ」みたいな巫山戯た話になる。これは広告主のせいではない。広告のプロとして、与件整理ができていないプロデューサーの責任だ。制作工程の迷走は時間と予算の双方にダメージを与えるが、多くのダメプロデューサーはその双方にも責任を負わない(負うことができない)。結果、コストは変わらないのに工数が膨大に増加し、なのに納期は変わらないという地獄のような制作環境が出来上がる。

オーダーシートでの対策では不十分だった

弊社は広告代理業務も広告制作業務も両方やるので、やっちゃった側、やられた側双方で「曖昧な与件」に翻弄された経験は残念ながら豊富だ。そこで弊社では音声CMやサウンドロゴなど、サービスそれぞれに「オーダーシート」を作成し、それを受領することで受注とするルールを確立した。つもりだった。
しかし最近、そのオーダーシートが不十分な状態で発注される機会が増えていて、ちょっとまずいな……と思っているときに最悪の事態が発生した。与件追加によるコピー案の「おかわり」とそれによる納期への圧迫、時間をかけて選び、提案したBGM案が「これを使ってください」と後から出てきた指定楽曲で無意味化する、そしてコピーが決定し、制作を終え、検聴を依頼した段階で出てくる与件変更。途中、何度も超集中の作業で通常納期の軌道に押し戻したけれど、最後のオーダーでもう無理だと思い「作業はしますが納期は一週間延びます」とメールしたら、そこで初めて詫びの電話が入った。要は納期は変えないで、ということ。あまりにも酷い。
僕は喧嘩っ早いのでお客さんにもストレートに文句を言うけれど、その向こうにいらっしゃる広告主や、その製品に関わる人々のことを思えば広告計画を瓦解させることはできない。結果泣きながらリカバリー作業することになる。

リスクプレミアムの導入を検討

なので、今後広告制作業務にかかるリスクプレミアムの導入を検討している。トラブルを防ぐことと、発生したときにそれを受忍できる対応の両方をルール化しておくことも必要だろうと考えたのだ。どのような方法だと一番いいかな……と考えて、現時点では
「作業やその前提(工程/工数)に影響する与件の追加・変更は追加料金」という条件をオーダーシートに明記する形かなと考えている。
発注後でも与件or工程が変わるなら、コストは変動するのは当たり前……と思っているのは、実は制作者だけかもしれないもんね。
実際には、そのタイミングも明確にしないといけないから、充分に練れてからじゃないと導入はできないけれどね……。
広告制作者の皆さんはどのように対策していますか?
なにか良いお知恵がありましたら(可能な範囲で)教えてください!


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