5ヶ月間の戦い

今年の4月に異動になり、3月下旬に辞令を伝えられた瞬間から通関士資格を取らないといけないということだけは分かっていた。もろ必要な部署だったので。
4月はまず仕事自体に慣れることから始まった。そしてその月末、つまりGWが始まる頃からチャレンジが始まった。

まず考えたのは

どこで勉強しよう?

40年生きてれば自分がどんな人間かはだいたい分かる。
基本的に家では勉強しないのだ。
手を伸ばせばテレビのリモコン、スマホがある。ライブが無ければ基本的に引きこもっているような自堕落な生活をどれだけ続けてきたか、それは自分が一番よく分かっている。

GW最初の日、自宅から歩いて10分くらいのところにある図書館に向かった。が、書籍の閲覧スペース(椅子やソファー)しか無く、コロナ対策もあり、滞在時間は限られていたため、即断念。試しに家で勉強してみるものの、めちゃくちゃ集中して2〜3時間が限度…。
それから他に勉強する場所を片っ端から必死にググったところ、箱崎宮近くの県立図書館に自習スペースがあることを知り、早速翌日向かった。
ところが、考えることは皆一緒。
昼前に行ったら全て席は埋まっていた。完全に早い者勝ちのストロングスタイル…。
そこで更に翌日オープンする9時前に行った。そこでも10人ほどの行列ができていた。それでも、ようやくこの日初めて自習スペースを確保して、ようやく試験勉強が本格的にスタートした。
無料で日中利用できるなら、そこまでの交通費なんか屁でもない。少なくともお金の出費すらないと勉強しないズボラなのだから。

会社から問題集は配られていたものの、課題として提出が義務づけられているテキストがあったので、それから始めた。
条文をまとめた教材テキストは講習なんかで多少読んではいたものの、いきなり解けるほど甘い試験でもなく、講師からも「最初は調べながらやりなさい」という言葉通り教材とにらめっこしながら問題を解く。
教材のどこを調べていいかも分からないまま、とりあえず自分なりに解答をして課題は早々に提出した。後日採点が返ってきたのだけれど、調べながらやっても全体の半分も正解していない…。
これが最初の壁だった。

調べても大半解けてないという現実。
心が折れる一歩手前だった。

ただ、折れるわけにはいかなかった。
上司の期待もある。
今の部署に必要とされたからにはその期待に応えたい。
古巣の部署にもあっと言わせてやりたい。
そして何より、今の会社に入って十数年、結果という結果を残せていないまま、無能なサラリーマンを続けてきた自分にも復讐しないといけない時期が来たのではないかと思うこともあった。

とあるドラマのサラリーマンの言葉を借りるなら

感謝と恩返し

それだけは忘れないように努めた。

GWのほとんどを、その後の週末もそのほとんどを図書館での自習に費やした。

5月にB'zのライブがあった。
すげぇ最高のライブを見た帰り道、大木さんの7月のプラネタリウムライブのチケットが取れて、
「よし、これが試験前最後のライブだな」と、この日にプラネタリウムライブ以降のライブ、夏フェスは行かないと決心した。

それからは時々福岡市科学館のプラネタリウムを見たりしたことはあったものの、図書館通いを続けた。

6月に入ってからは徐々に教材を見ずに分からないなりにも解答する形に切り替えて、間違ったり勘で解いた問題は片っ端から条文とかを書き写して後で見返すようにしていった。

ところが、7月に入って大木さんのコロナ罹患でプラネタリウムライブがキャンセルになると一報が…。この時ばかりは愕然とした。
勝手なことだとは百も承知だったけど、今年の夏にモチベーションを上げる唯一のチャンスだと思っていたライブの中止に数日勉強に身が入らなかった。

ただ、この頃から少しずつ、ようやく結果の芽が出てき始めた。相変わらずボーダーラインには全く届かないものの、教材を見ずに解ける問題が少しずつ増えてきた。
また、本来3科目受験しなければならないのだが、一定の条件をクリアした一部の対象者として、一番難しいとされる3科目目の免除が確定したこともあり、希望が高まったことが仇となる。

要するに、分かりやすく調子に乗り出す。

「何とかなるんじゃね?」

当初ほど図書館に行かず、土日のどちらかを家でダラダラし始めた。

だけど、何をきっかけかは忘れてしまったけど、何故か(?)今回はどこかのタイミングでモチベーションが持ち直した。
初心忘れるべからずとはよく言ったもので、結果を出す!というシンプルかつ強烈な目標意識が徐々に戻ってきて、また図書館に足がちゃんと向かうようになっていた。

モチベーションが持ち直したのはSAIもあったことが大きかったと思う。
今年最大のビッグイベントでもあり、何よりも胸を張って楽しみたい、そう考えていた。

ただ、世の中良いことばかりは続かないお約束通り、ある日、お盆図書館に一枚の張り紙が。

「空調故障のため、8〜9月末まで自習室を閉鎖します」

マジかよ…!!!

今年の酷暑を考えればクーラーのない自習室なんて、ただの地獄だ。
ということで、別の勉強場所を急遽探すことになった。
最初ググっていた頃に目に入っていたのだが、博多駅近くに有料の自習室があるとのこと。ただ、月極めの契約プランがあり、その契約者が優先でそれ以外の個別利用者は都度予約をして空き状況次第で利用できるというものだった。
背に腹はかえられぬ…。
8月からはその有料自習室を使える限り利用することにした。
実際、有料自習室にして正解だった。空いていれば1日どれだけ利用しても一律500円。しかも一蘭スタイルで机ごとにカーテンと仕切りもあるし、冷房はこれほどか!というほど効いているし、歩こうと思えば歩いても通える。(真夏の時期は無理だったけど)

自習室通いを1ヶ月弱続けると、受付の人に顔と名前を覚えられた(照)
予約の時も、「ああ!〇〇さんですか!いつもありがとうございます。」なんて言われるように。

8月中旬ガチの模試を受けた。
結果は合格ボーダーライン上なので、より得点できるように、というC判定。
模試の判定なんて高校受験以来だったし、何よりも受験そのものが高校受験以来という、40のおっさんには老体に鞭しか打ってない状態…。
ただ、その結果は純粋に嬉しかった。
数ヶ月の努力が実ってるんだと、この時初めて実感することができたから。
ただ、この中途半端な結果に満足した自分に再度慢心が起こる。

「やっぱり、イケるんじゃね?」

ゴールまでもうひと踏ん張りがいかに難しいかを今になると痛感する。

追い討ちをかけるようにスランプも発生。以前解けていた問題もチラホラ間違いが目立つように。
頭がこんがらがっているのが自覚できるようにすらなっていた。
でも、今回は「これでダメだったら仕方ないと思えるところまで頑張ろう」と思っていたこと、初心を忘れないことだけを糧に試験前日まで勉強した。

最後の方、9月の末はノートの書き写しをし過ぎて、肩コリが限界を通り越してついに時々腕や指が痺れるようになった。
そりゃそうだ。
25年ぶりにガチで筆記試験受けるんだ。
おっさんがノートに書き写すだけの超オールドスタイルの勉強法してるんだから。

2週間に一回くらいのペースでマッサージに行くようにもなり、リフレッシュに欠かせなくなった。
それと、GW、お盆の時に地元の友達とそれぞれ1日だけ酒を酌み交わせたのも大きかった。
結果論だけど、7月のプラネタリウムライブは延期になって良かったんだと思う。
「お前、どうせまた調子こいてライブ行き始めるだろ?」という神様の思し召しだったのかもしれない。

迎えた試験当日、早朝から起きて箱崎宮に願掛けのお祈りをして会場に向かった。
試験直前までノートとテキストを最後に確認する。
1科目免除だけの受験生がいる部屋だったので、ガチで受験しに来たと思われる人だらけ。めちゃくちゃ勉強してきた感のある人ばっか。
いかん!誰かと比べてる場合じゃない!
ずっとノートだけを読んで試験開始。

約3時間後、2科目まで全ての試験が終わった。

終わった瞬間…


純度100%の絶望。
手応えなんて皆無。

明日上司に何て報告しよう…。
そんな思いばかりが巡っていた。

その日の夜、通信教育大手の会社が解答速報を出した。
どうせダメなんだから、見るまでもない…。本気でそう思った。

どうせ明日上司にダメだったって報告するんだから、どういう結果だったかは知っておいた方がいい。覚悟を決めて速報を見た。

ん?結構、正解できてる…のか…?

速報なので法的解釈の兼ね合いから一部解答が出せない問題もあったものの、それを差し引いても、例年の最低限の合格基準を満たす点数だった。

あれ?もしかして……イケた?

試験の2日後、他の通信教育の会社や関係団体からの速報も出揃い、総合的に判断しても、合格は間違いない正答率なのを確認して、ようやく実感が湧いた。

あぁ、ようやく試験勉強から解放される…。
来年は勉強しなくて済むのか。
何より最初に思ったのはそれだった。

今になって思うと、受験生って本当にすごい。いろいろ大学によってボーダーラインは違えど、1月の共通テストまで4月からカウントすれば10ヶ月くらいある。今回自分が勉強した倍の期間勉強するなんて考えられない。若さというアドバンテージがあるとしても、受験勉強の大変さが身に染みた。

自己採点以降、自分から合格の2文字は自分からは口に出さないように努めた。最終結果はまだ出ていない。公式な発表を見るまで何が起きるかわからない。
発表前日は自分でも不思議なくらいドキドキしていた。脳内では浜ちゃんの「結果発表〜〜〜!」のシーンが無限ループ。職場でも「合格してるでしょ!」とイジられたけど、やっぱり解答用紙でやらかしてないかという一抹の不安が拭えなかった。

発表当日、自分の受験番号を見てようやく本当に合格した実感が沸いた。(当たり前か)

大学は推薦で通ったので、高校受験から25年、この5ヶ月間が人生で一番勉強した!という自負はある。
人間、ケツに火が着いたら結構頑張れるもんだ。
ただ、仕事上は今回の合格はスタートラインでしかない。今後はより圧倒的に専門的な実務経験が求められることになるのだから、一切気は抜けない。

受験生より一足早く春が来たけれど、まだ道半ばなんだということを肝に銘じてやっていくしかない。

できっこないをやらなくちゃ。


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