サイゴノデート×ト×ジサツ
傾く太陽から注ぐ西陽が、生まれたてのこまい木枯らしを照らしていた。台東区立浅草小学校と書かれたキーホルダーをランドセルにぶら下げた裸足の少年と彼の手を力強く握る少女が目の前を横切った。
「信じらんない!」
少女は怒っているようにみえたが、きつく結んだ小さな手から「絶対離さないからね」という柔らかな意志を感じた。僕は彼女の丸っこい手に不恰好な愛情を感じた。
ただ、少年は彼女へ返す表情やら言葉を持ち合わせていないのか、息絶えた巨大カジキのように何処までも引かれていくだけだった。
少女は彼を何としてでも底から引っ張り上げなければならない。なぜなら、血の匂いを嗅ぎつけ、何処からかともなくやってくるティブロンに彼が食い潰されてしまうからだ。
彼女は大切をまだ理解していない。
少年は何に変えても底から這い上がって彼女を抱きとめなければいけない。なぜなら、そのままでは彼女を深く傷つけ、追い詰めることになってしまうからだ。
彼は大切がまだ分からない。
ちょうど一年前の今日だった。いちょう並木が金色に輝く季節にミナコは死んだ。僕の彼女は首を吊って死んだのだ。
これから長く険しい人生を頑張れます