藤田桜の感想@第二回遼遠小説大賞
利便性のため、第二回遼遠小説大賞の参加作品に対する私の感想ツイートをまとめました。
随時更新していきます。
目指せ全作読破! 味わい尽くせ、遼遠を!
辰井圭斗『彼岸』
おわあ、凄まじかったです。■の目まぐるしさには圧倒されました。スピード感の緩急と言うか、世界の見え方の操作と言うか。あと、作家の歩みってちゃんと作品に出るんだなあって傍から勝手に思ったり。
全体的に、道具立てとか話題の一貫性とかが整然としていて、すごく精密に書かれた小説だなあって印象を受けたんですけど、じゃあ狭苦しいかっていうと全然そんなことはなくてゆるやかな繋がりのなかで筋をばらばらにするような開放感のある作品だったように感じました。
私辰井さんの小説って、研ぎ澄ましたかのような鋭さ真っ直ぐさのある作品が多いなあって勝手に思ってるんですが、そういう意味で辰井さんらしさのある素敵な作品だったなあと読後の余韻を噛みしめています 混沌とした世界に触れようとしている小説なんですけど、あくまで質感は透徹しているんですよね。
サトウ・レン『空音』
この前読んだばかりなのですが、すごい土台がしっかりしていてかっこよかったです。ちゃんと足場がしっかりしているからこと大きく羽ばたける、みたいな。世界が瞬く間に崩れていくような終盤の勢いのある書きようも素敵で。面白かったー!
功琉偉 つばさ『光の園』
いいな~!透明感がすごい。地の文が極限まで絞られていて、会話文中心で進められていく形式なんですけど、とても洗練された筆で書かれている。若書きめいた瑞々しさと書き慣れた人の作品めいた小綺麗さが両立している。めちゃくちゃ強い。いいなぁ~っ!
藤泉都理『あだばな』
感情的なモノローグの巧みさよ。言葉にならない激情が行空けと短いセンテンスによって鮮烈に刻み付けられる。
横たわる素朴な引用は「俺を殺した男」が頼ろうとしたものの頼りなさを感じさせる。
二人が混ざり合うようなラストの盛り上がりが凄まじい。
南沼『雨上がりに匂いたつ』
魔法の絵筆のような文体だ。すっと線を引くごとに情景が浮かび上がる。
集金人の男の存在がいい。遠い異国の地だけでなく、日常にさえ対岸からの存在がいる。
落ち着いた筆致の短編のようで、その実ずっと驚かされっぱなしだった。
七兎参ゆき『陽だまりのにゃんこ ~勘違いも甚だしぃ~』
極めて人工的な「にゃんこ」と「人間」の文体。一見単なるライトノベル的技法のようなそれは、猫を擬人化し関係性をラブコメ的にする。
閉ざされた場所での男女の駆け引きだというのに、どこまでも牧歌的なのはにゃんこゆえか。
面白かったです。
黒石廉『胡蝶』
1話や8話の断片から成る滲むような輪郭によって、物語は茫漠とした世界に接続される。 黒石さんらしいユーモラスな語り口もあって、一切狭さを感じさせないのが凄い。 筆力の高さゆえか、読むと脳内に直接体験を注入されるような眩暈を感じられる。
「色鮮やかな鳥、まだ名前を記録していない鳥が細く高い声をあげながら、巣に帰っていく」 ここすき
なんでこの結末なのだろう、と思わされる魔力がある。読んでいると、確かに彼は翅を捥がれるだろうものを内に抱えているという納得だけがひしひしと。 汲めども汲めども尽きぬ小説だなあ……。
壱単位『交差点の』
上手い。なんだこの筆致は。脂ののった旨味がある。それがすれ違う交差点の一瞬のために注ぎ込まれているものですから、もう強い。
ほのかな喪失感と、それでもすれ違うことのできた喜びを感じられる一作でした。
作品世界がめちゃくちゃ確固。凄い。
楠木次郎『周回遅れのタイムトラベラー』
人間的な危うさを抱えた主人公が「向こう岸」に渡ることで解き放たれる。 円環の構造を取りながら、そのラストは前進力を失いません。螺旋的、と言うべきか。
清潔なカタルシスをもたらす、端正な幻想文学。
筆開紙閉『ハイパー・ハイブリッド・ニギリ』
固有名詞によるイメージの引用が楽しい。
トンチキの下ではジャックの地獄が静かに燃えている。
物凄い爆速で長編なみのストーリーが飛んでいくのが快い。
ぎりぎりのところで崩壊しない、綱渡りのような作品。
倉井さとり『剥がして食べなきゃいけないんだよ』
いいなあ。読み終わってからしばらく呆然としてた。
気を抜くと読者まで奈落に足を滑らしてしまいそうな危うさ、そして肉体的なおぞましさ。文体もそれにふさわしく、ときおり単語がぶつかり合ってぞっとする不協和音を立てる。
繕光橋 加『エイブクレイムス・スレイブズエイク』
腹の底で熱が渦巻くかのようなうねうねした文体が、語り手の興奮と共に噴火するようにリズムを変える。モノローグという狭く閉ざされた世界の底に、とんでもない熱量が蠢いていることを見せつけられた気分です。素敵でした。
杜松の実『ドキュメンタリー』
淡く、滲むような文体。
クラシカルな感性を現代的な語りで掬い上げたようにも、また逆のようにも見える。その混淆が、宝石の割れ目のように美しい。
杜松の実さん作品らしいカラーと同時に、真新しい清冽さを感じることができる短編。良かった。
真狩海斗『三位一体の実験』
壮大な野心! 実験小説として極めてクオリティが高い。上手すぎて呆然としました。精緻にしてパワフル。詩的な小説の多い遼遠で、質実な三人称の散文にがっつり向き合った上でこの飛距離。とにかく強い。
いいなぁ。
堕なの。『千五百秋』
うわー! 知らないギミックだ! なんだこれ、すごい。幻想ではないのに、現実の理屈で動いてるわけでもない。そして、主人公の関われないところで既に物語は動いている。なのに、ゆえに、面白い。広がりがある。 遼遠らしさのある作品だと思いました。
五三六P・二四三・渡『テレパスもどきと』
良かった~! ラストで読心が未来を祝福するために使われ、また「俺」もそれに唱和する。
警戒心が染み付いた倉橋と、大人とも子供ともつかない「俺」。組み合わせの妙だ。この二人だからこそ、この作品の「遠さ」はこんなに素晴らしいのだ。
石田くん『プラトニック・スウィサイド』
こういう形の破滅が題材になるの、恐ろしい時代だなあ。
世界の切り取り方が良い。「空気の層を引っ張りながら歪めて」落ちていくシーンなど特に。他にもキスシーンとかビルの屋上からみた夜景とか、鋭敏な感性が光る。
上手いなあ。
佐倉島こみかん『葵先生の『作り話』』
筆に無駄な力みもムラもない。
葵先生の話に救いや理想像を求めたり、何らかの反応を返そうとしたりする生徒がいる。積極的な関わり方だ。
彼らの行動が葵先生によってどう受け止められたのか、確かな正解は何一つない。それも興味深かった。
立談百景『ヤバき者』
yabai
maji
軽薄な単語のように見えて、音素だけを取り出してみれば案外雄壮です。叙事詩とかに出てきそう。
感想。ことばに力を与える作品だと思いました。混淆や過剰反復の技法によって、本来ないはずの聖性を与える。もしくは浮彫りにする。圧巻でした。
押田桧凪『からめて』
とつぜん悪夢のように現れる母親。けっきょく「私」の具体的な過去については謎が残るのだが、わざわざそれを二人の間で語る必要があるわけでもない。
だって今は「私」とタロウだけが繋がって駆け出してるのだから。
爽やかな解放感のある小説でした。
外清内ダク『Stayin' Alive in the Void』
ぐぬぬ、面白い。盛り上がりが凄くてテンション爆上がり。ひねくれ者のフォージだからこそ、逆説的に、真っ直ぐな光に対して希望を持つことができる。すごい熱量の作品でした。
眩しかったなあ。目が潤みました。
毛盗『川のある土地』
わー! 質感良(よ)!
巨大な金魚の挿し絵が、小説という文字の世界を侵食する。文章の交差も、平穏の底で不穏が渦巻いてることを感じさせてくれる。 だが「怖い」の一言で済ますには景色がうららかなのです。
魅惑的な作品でした。
尾八原ジュージ『迷子のなり方』
すげぇ。ラストの質感が素敵すぎる。世界がうねうね変質するような感覚。語り手が生理機能をなくしていくシーンは、足元がふわつくような不安感がある。こんな盛りだくさんでいいんですか。読み手まで世界から迷い込んだような気分。最高でした。
宮塚恵一『マキニス・モエキア』
「で良い」に支配された世界。
頑丈な文体。厚いゴムのようにがっしりとしていながら柔軟性がある。そんな彼だからあの質感のラストになったのだと思う。
そして「おまけ」で「人間の尊厳」は別の意味からも腑分けされる。
豊かな小説でした。
Pz5『蓮華泥中在水』
幾何学的~! 組み立てがめちゃくちゃしっかりしてる。
対句や押韻を織り交ぜているんだけど、どんなに昂揚しても理知的なリズムが残る。ソネットらしい端整さと小説らしい豊かさ。
移動できない彼だからこそ、花を咲かす方を選んだことがなおさら尊い。
高村 芳『同情』
シンプルに短編として上手過ぎる。ヤバい。
課長がちょっとピュアなせいで胸がきゅっとなる。でもそれは不能ゆえでもあって。性を取り戻してしまった彼はこれからどう生きるのだろう。心配してしまうくらいには彼を知ってしまった。
強い引力を持つ作品。
2121『褪せたインクと君の声』
うーん、上質な語りだ、これこそ二人称小説の醍醐味……なんて呑気に構えていたんですが、それどころじゃないですね。良い。どこまでも優しい祝福の小説だ。目が潤む。こんな作品があって良かった! 遼遠の層の厚さよ!
syu.『少女を林檎とするならば 』
自由詩めいてゆったりとしたリズムのなかに、ポップソングのような可憐で瑞々しい調子が挟み込まれる。読んでいて退屈しませんね。
青春のきらめきの影のような小説だと思いました。
素敵でしたねえ。
フカ『メロンパン日和』
流暢なのに、時々つんのめるような文章のリズムが切ない。描写も同様で、どこかずれたり、違う場所から物を見てるような感がある。
彼女と取り巻く色々が有機的に絡まって、そんな屈折した生でも潰れずに生きるための温もりを宿す。
素敵でした。
藤田桜『ハルピュイア』
拙作。また自作語りとか出せたらいいな。
第二回遼遠小説大賞で『ハルピュイア』がPz個人賞をいただきました/藤田桜の近況ノート - カクヨム (kakuyomu.jp)
出したよ。