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【ゆか】Dスコアで殴られたい【パリルール】

体操競技とは諸行無常です。

体操競技では年々、技の認定要件が厳しくなったり、実施に対する減点項目が増えたりと、選手の演技はより正確で美しいものが求められています。

男子体操には6つの種目があり、それぞれにスペシャリストと呼ばれる、その道を極めし者たちがいます。

それらのスペシャリストたちは様々な表現で己の強さを誇示するわけですが、Dスコアがその指標のひとつとなり得るのです。

ここからは2022-2024の「パリルール」における、種目別スペシャリストたちが見せる極限まで練り上げた世界最高峰のDスコアをもつ演技構成の数々を紹介します。


今回はゆかで高いDスコアをもつ選手たち。
ゆかは2017-2021の「東京ルール」から大きな変更がありました。
それが、組み合わせ加点の条件一部のひねり技の統一2回宙返り技の必須化です。

ひねりを伴う1回宙返り同士の組み合わせに課せられていた加点が廃止されたこと。
伸身前宙と伸身前宙半ひねり、前方伸身宙返り1回ひねりと1回半ひねり、後方伸身宙返り1回半ひねりと2回ひねりがそれぞれ同一枠の技となって併用できなくなったこと。
演技内に2回宙返り技を必ずひとつは入れなければならなくなったこと。
これらの変更の影響で、世界のほぼ全ての選手が演技構成を変更せざるを得なくなり、加えてDスコアを稼ぐのが難しくなったのです。

Dスコアを稼ぐには、より幅の広い高難度技を持ち、2回宙返り技を使った組み合わせ加点をいかに演技に組み込めるかがカギとなりました。

そのようなルール下において高いDスコアを持つ選手たちの演技を紹介しましょう。

▼Dスコア6.6

ジェイク・ジャーマン/Jake Jarman(イギリス)【Dスコア6.6】

2024年パリ五輪種目別決勝

イギリスのジェイク・ジャーマンがパリ五輪種目別決勝で披露したDスコア6.6の演技構成。
G難度の大技リ・ジョンソンとH難度の超大技シライ3を入れた構成。
ジェイクの強みである鋭いひねりの技術と体力のなせる業です。
今年から新しく取り入れた後方2回半ひねり()+前方ダブル()の組み合わせで縦回転系の技もできるところを見せ、技のバリエーションの豊富さをアピールします。

実はジェイクの演技構成はA難度の技がDスコアに反映されています。
終末技+9技で合計10の技を数えてDスコアを出すのが体操の基本的なルールですが、ジェイクのこの構成は、大きな技は終末を含め9つ、小技でA難度が反映されてDスコア6.6
改めてDスコアを計算してみると驚きの事実が見えてくるわけですね。

この演技でパリ五輪では見事種目別ゆかで銅メダルを獲得しました。


カルロス・ユーロ/Carlos Yulo(フィリピン)【Dスコア6.6】

2024年パリ五輪種目別決勝

パリ五輪種目別ゆか金メダリスト、カルロス・ユーロのゆかの演技構成は、組み合わせ加点のルールに対応したものです。
ジェイクのような飛び抜けた超高難度技はありません。D難度とE難度で構成されていますが、カルロスの場合は組み合わせ加点でDスコアを稼ぎます。

1コース目には世界で彼しかやっていない後方2回半ひねり()+前方屈身ダブル()の組み合わせ。
【D難度の宙返り技】+【D難度以上の2回宙返り技】の組み合わせは0.2の加点が得られます。
パリルールが実装された2022年のシーズン明けの試合からずっと使い続けている得意技です。

2コース目には前方2回ひねり()+前方ダブル()の組み合わせ。
これも【D難度の宙返り技】+【D難度以上の2回宙返り技】なので0.2の加点が得られます。
加点の条件が厳しくなったルール下に置いて0.2の加点を2つも入れられる選手は稀です。

演技の後半はほとんどジェイクと同じ演技構成。
トップクラスにいる選手はやることが似てくるんですね。


リュ・ソンヒョン/Ryu Sunghyun/류성현(韓国)【Dスコア6.6】

2024年パリ五輪予選

ゆか跳馬で強さを見せる韓国の若手エースオールラウンダーであり
2019年の第1回ジュニア世界選手権種目別ゆかチャンピオン。

動画は途中一部カットされていますがおそらく国内の試技会の様子です。
パリ五輪の予選でもDスコア6.6との記録があるのでおそらくこの構成をやったのだと思われます。
(カットされたところはフェドルチェンコをやっています。俺でなきゃ見逃しちゃうね。)

ソンヒョンはひねり技が主体で、前方3回ひねりを得意とした演技構成が特徴でした。
パリルールになってからビッグタンブリングに力を入れて、新しくG難度のリ・ジョンソンと前方ダブルを取り入れた演技構成を完成させました。


Dスコア6.6で紹介した3人には共通点があり、3人ともサイドラインでの後方3回ひねり()終末での後方3回半ひねり()を使っているのです。
パリルールになってからじわじわ増えていたこの2技の使い方ですが、
この流行を作ったのがソンヒョンなんです。
ソンヒョンはパリルールになる前からこの流れを使っていて、パリルールが実装されてからカルロスが取り入れて波及しました。


▼Dスコア6.7

南一輝/Minami Kazuki(日本)【Dスコア6.7】

2023年全日本種目別選手権 決勝

日本のゆか跳馬のスペシャリスト南一輝選手のゆかは唯一無二の構成を持ちます。
2023年の全日本種目別選手権で披露した演技構成は観衆の度肝を抜きました。

1コース目に新月面ハーフ()+前方2回ひねり()。後方のダブル系から前方のひねりに繋ぐ組み合わせは珍しいです。中でも新月面ハーフ()を使った組み合わせは世界でも南選手ただ1人。
2コース目はなんとG難度の前方3回半ひねり!1回宙返りでG難度が取れる唯一の技で、ゴシマと名前が付いています。
これまで日本の五島選手しか使い手がいなかったのですが、南選手が歴史上2人目の使い手となりました。
さらに3コース目にG難度のリ・ジョンソンを入れる体力オバケ。

演技の後半は予定していた演技構成からは外れ、結果的にDスコアは6.7になりましたが、本来はDスコア7.0の演技構成を予定していました。


▼Dスコア6.8

南一輝/Minami Kazuki(日本)【Dスコア6.8】

2022年全日本シニア選手権

Dスコア6.7(本来7.0を予定)で紹介した演技よりも前の2022年にやっていた演技構成です。
1コース目に新月面ハーフ()+前方2回ひねり()の組み合わせ。2コース目にリ・ジョンソン()。3コース目に前方3回ひねり「シライ2()
G難度ひとつ、F難度2つ、さらに0.2の加点。
ひとつ前のD6.7の構成よりはひねり数は少ないながらトンデモ構成。

今ではあまり使われなくなった後方3回半ひねり()からの組み合わせや、世界的に稀な後方2回半ひねり()前方2回半ひねり()の組み合わせも見せてくれます。楽しいです。


ハリー・ヘップワース/Harry Hepworth(イギリス)【Dスコア6.8】

2024年ワールドカップ・コトブス大会 種目別決勝

パリ五輪イギリス代表のハリー・ヘップワースが2024年コトブスW杯で披露した演技構成です。
彼の特徴はロンダートから後転とび(バック転)を経ずに直接大技を繰り出すところ。
冒頭にロンダート~リ・ジョンソン()
続いてロンダート~伸身新月面()
おもしろいムーブを連続で魅せてくれます。
サイドラインで後方3回半ひねり()という珍しい動きも見せて、演技後半に屈身ダブル()を使った組み合わせ、さらに演技終盤に新月面()
毎コース驚きを与えてくれる楽しい演技構成です。


▼Dスコア6.9

ルーク・ホワイトハウス/Luke Whitehouse(イギリス)【Dスコア6.9】

2023年ワールドカップ・パリ大会 種目別決勝

またまたパリ五輪イギリス代表から。ルーク・ホワイトハウスの演技構成はDスコア6.9と、パリルール下で実施された中では世界最高Dスコアを持ちます。

冒頭に彼の持ち味であるロンダート~リューキン()でインパクト抜群のツカミ。
もはやおなじみの前方2回ひねり()+前方ダブル()の組み合わせから3コース目にロンダート~リ・ジョンソン()!さらにサイドラインでの新月面()
ぼくのかんがえたさいきょうの演技構成を実現したような恐ろしい演技前半です。

これだけの大技を詰め込んだ後に屈身ダブル()をやる超人っぷり。
トンデモ技もりもりのトンデモ構成です。


Dスコア6.6以上の演技構成を持つ選手を集めてみると、イギリスの3選手が上位層に固まっていることが分かりました。
イギリスの3選手はパリ五輪の団体決勝でもゆかの演技を任された3人です。
イギリスはこの3人のほかにも、リ・ジョンソンの使い手がたくさんいて、
少なくとも私が確認できた中で4人はいました。
パリルールになってからイギリスはゆかと跳馬で急激に強くなり、団体ではゆか跳馬特化型パーティが出来上がるほどです。

いつも面白い演技、驚く演技で楽しませてくれた選手たちが次のルールでどんな構成で驚かせてくれるのか、楽しみです。



画像出典
Carlos Yulo wins men's floor gold!🥇🇵🇭 | Paris Champions

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