体操の技を覚えよう【跳馬02】前転とび
前回の記事では、跳馬には助走から跳馬に手をつくまでを指す「第一局面」と、跳馬から手が離れてマットに着地するまでの「第ニ局面」の概念があることを伝えました。
第一局面、跳び方の種類が様々あることがわかったところで、今回はその跳び方のひとつである「前転跳び」に焦点を当てます。
体操競技におけるこれまでの種目は、価値をもつ技を最大10まで揃えて演技を構成し、その価値点・グループ点・組み合わせ加点の合計でDスコアが出される仕組みでした。
しかし、跳馬はひとつの技だけで完結する種目です。
ゆえに、技ひとつひとつにDスコアが設定されています。
ある技をひとつ跳ぶことで、その技に与えられたDスコアを獲得できるという単純なものです。
▼前転とび
跳馬における前転とびとは、
体が進行方向である前を向きながらロイター板を踏み切り、脚を振り上げ、体をひねらずに進行方向に背中を向けた倒立位で着手するとび方でしたね。
助走から着手まで体の向きを変えずに猛進するとび方です。
このとび方から繰り出される技の数々を見ていきましょう。
※これから紹介する技名は、必ずしも正式名称ではなく、一部わかりやすく書き換えているものもあります。
➀前転とび【D:1.6】
まずは基本的な前転とび。
倒立位で着手後ひねりを加えずにそのまま半回転して着地する技。
競技者の間では「転回」と呼ばれている技です。
②前転とび1回ひねり【D:2.0】
前転とびで着手後、第ニ局面で1回ひねりを加える技。
ひねりを加えることで、基本形の前転とびよりも高いDスコアを得ることができます。
現在(2024年)の男子ルールでは、宙返りを伴わない前転とびの場合、半分ひねりを加えるごとにDスコアが0.2点高くなる、という仕組みのようです。
つまり前転とび(D:1.6)から1回ひねっているこの技は前転とびよりも0.4だけDスコアが高くなり、D:2.0となります。
③前転とび1回半ひねり【D:2.2】
前転とびで着手後、第ニ局面で1回半ひねって着地する技。
④前転とび前方抱え込み宙返り【D:2.4】
前転とびで着手後に抱え込み姿勢で前方宙返りをして着地する技。
前転とびを転回と呼ぶことから「転回前宙」とも呼ばれます。
➀転回(D:1.6)よりも難度は上がってDスコアは2.4になります。
⑤前転とび前方抱え込み宙返り半ひねり【D:2.8】
前転とびで着手後、前方宙返りをしながら半分ひねって体を跳馬の方に向けて着地する技。
④転回前宙(D:2.4)から半分ひねりを加えているので難度は上がってDスコアは2.8になります。
これ以降の宙返りを伴う技は、姿勢に関わらず、半分ひねりを加えるごとに価値点(Dスコア)が0.4ずつ上がっていきます。
⑥前転とびひねり後方抱え込み宙返り〔クエルボ〕【D:2.8】
前転とびで着手後直ちに半分ひねり、足が下を向く瞬間までにひねりを完了させ、後方宙返りの形をとって着地する技。
この〔クエルボ〕という技、⑤前転とび前方抱え込み宙返り半ひねりとは宙返りの回数もひねりの回数も同じですが、ひねるタイミングが違うという技です。
ルールブック上は同じ技としていますが、後者にのみ〔クエルボ〕と名前がついています。
⑦前転とび前方抱え込み宙返り1回ひねり【D:3.2】
前転とびで着手後、前方宙返りをしながら1回ひねりをして着地する技。
表記上はそうなっていますが、実のところ着手してから直ちにひねりをかけているのでこれは「クエルボ+半分ひねり」と言えます。
⑧前転とび前方抱え込み宙返り1回半ひねり〔クロル〕【D:3.6】
前転とびで着手後、前方宙返りをしながら1回半ひねりをして着地する技。
こちらも着手から直ちにひねっているのでクエルボ+1回ひねりと言えます。
⑨前転とび前方屈身宙返り【D:2.8】
④前転とび前方抱え込み宙返りと同じ動きで姿勢を屈身にしたもの。
先ほど、跳馬の宙返りを伴う技は半分ひねりを加えるごとに価値点が0.4上がると述べましたが、抱え込み→屈身のように、姿勢を1段階アップグレードさせても同じように価値点が0.4上がります。
⑩前転とび前方屈身宙返りひねり【D:3.2】
前転とびで着手後、屈身姿勢で前方宙返りをしながら半分ひねりを加える技。
④転回前宙(D:2.4)と比べると、屈身姿勢になった事で+0.4、半分ひねりを加えている事で+0.4、計0.8点分価値点が上がり、この技のDスコアは3.2となります。
⑪前転とびひねり後方屈身宙返り〔屈身クエルボ〕【D3.2】
跳馬に着手後直ちに半ひねり、足が下を向いてひねりが完了した後に後方屈身宙返りで着地しています。
クエルボの屈身バージョン、〔屈身クエルボ〕と表現できます。
⑫前転とび前方伸身宙返り【D:3.6】
④転回前宙(D:2.4)と同じ動きで姿勢を伸身にしたもの。
抱え込み→屈身へのアップグレードでは+0.4されていましたが、屈身→伸身へのアップグレードは+0.8に設定されています。
つまり抱え込みの転回前宙(D:2.4)を伸身姿勢(+1.2)にしているのでこの技のDスコアは3.6となります。
⑬前転とび前方伸身宙返り半ひねり【D:4.0】
前転とびで着手後、伸身姿勢で前方宙返りをする技。
なので、④抱え込みの転回前宙(D:2.4)から伸身へのアップグレードで+1.2価値点が上がって、さらに半分ひねりを加えているので+0.4、この技のDスコアは4.0となります。
⑭前転とびひねり後方伸身宙返り〔伸身クエルボ〕【D4.0】
前転とびで着手後直ちに半分ひねり、足が下を向く局面までにひねりを完了させて、伸身姿勢で後方宙返りをして着地する技。
⑥〔クエルボ〕を伸身姿勢で実施した技になります。
⑮前転とび前方伸身宙返り1回半ひねり〔ロウ・ユン〕【D:4.8】
前転とびで着手後、伸身姿勢で前方宙返りをしながら1回半ひねりを加える技。
⑧〔クロル〕と同じ動きを伸身姿勢にしたこの技には、〔ロウユン〕と名前がついています。
⑯前転とび前方伸身宙返り2回ひねり【D:5.2】
前転とびで着手後、伸身姿勢で前方宙返りをしながら2回ひねる技。
⑰前転とび前方伸身宙返り2回半ひねり〔ヨー2〕【D:5.6】
前転とびで着手後、伸身姿勢で前方宙返りをしながら2回半ひねる技。
⑱前転とび前方伸身宙返り3回ひねり〔ヤン・ハクソン〕【D:6.0】
前転とびで着手後、伸身姿勢で前方宙返りをしながら3回ひねる技。
跳馬の最高Dスコア6.0の究極技です。
⑲前転とび前方抱え込み2回宙返り〔ローチェ〕【D:5.2】
前転跳びで着手後、抱え込み姿勢で前方に2回宙返りをして着地する技。
ひねりこそないものの、④転回前宙(D:2.4)と比べると従来の動きに縦回転を加えることでDスコアは5.2まで上がります。
⑳前転とび前方抱え込み2回宙返り半ひねり〔ドラグレスク〕【D:5.6】
前転とびで着手後、抱え込み姿勢で前方に2回宙返りをして半分ひねって着地する技。
⑲〔ローチェ〕に半ひねり(+0.4)を加えた技なので、Dスコアは5.6になります。
㉑前転とび前方抱え込み宙返り半ひねり後方抱え込み宙返り〔ジマーマン〕【D:5.6】
前転とびで着手後、抱え込み姿勢で前方に2回宙返りをして半分ひねって着地する技。
こちらも⑲〔ローチェ〕に半ひねりを加えており、前転とびで2回宙返り+半ひねりという要素は⑳〔ドラグレスク〕と同じで、同じ価値点を持つ技ですが、ひねりをかけるタイミングが違うことで〔ジマーマン〕という別の技になります。
⑳〔ドラグレスク〕は2回目の宙返りで半分ひねっているのに対し、ジマーマンは1回目の宙返りで半分ひねっており、2回目の宙返りは後方宙返りになります。
㉒前転とび前方屈身2回宙返り〔ブラニク〕【D:5.6】
前転とびで着手後、屈身姿勢で前方に2回宙返りをして着地する技。
⑲〔ローチェ〕を屈身姿勢にした技です。
⑲ローチェ(D:5.2)と同じ動きを屈身姿勢にすることで価値点が0.4上がり、ブラニクの価値点は5.6になります。
㉓前転とび前方屈身2回宙返り半ひねり〔リ・セグァン2〕【D:6.0】
前転とびで着手後、屈身姿勢で前方に2回宙返りをして半分ひねりを加えて着地する技。
㉑〔ドラグレスク〕を屈身姿勢で行う技です。
⑳〔ローチェ〕(D:5.2)の動きを屈身姿勢で行い(+0.4)、かつ半分ひねりを加える(+0.4)ことで〔リ・セグァン2〕は最高Dスコア6.0を持ちます。
現代の体操の跳馬における前転とびは、ほとんどが、伸身姿勢での前宙1回半以上のひねり技、もしくはローチェ系統が主に使われています。
現行のルールが施行されてからはローチェ、ドラグレスクを実施する(せざるを得ない)選手が増えてきました。
華のある縦回転系の実施が増えて、体操界全体では見応えのある種目になりました。
一方で、日本人選手は縦回転系を使う選手はもともと少なく、ルール改正の煽りで縦回転系を取り入れざるを得なくなった選手が、未完成のまま試合でローチェを使うような場面が多々見られるようになりました。
さて、次回は側転とびの跳躍技を紹介します。
画像出典
Artur DAVTYAN (ARM) - 2022 Artistic European silver medallist, vault