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体操の技を覚えよう【跳馬05】グループ分け

跳馬はほかの種目と違い、ひとつの技のみで得点が決まる特殊な性質を持ちます。

しかし、他の種目と同様、技グループの概念は存在し、他の種目と同様、4つの技グループに分けられています。

このグループ分けが跳馬において効力を発揮するのが、種目別です。

個人総合を戦う選手は6種目を演技する中で跳馬は1つの跳躍技のみ演技します。
しかし、種目別跳馬を戦う選手は2本の跳躍技を揃えなければなりません。
種目別跳馬は2本の跳躍技の得点の平均を決定点として争われるためです。

この2本の跳躍は、なにも好き勝手に2本選んで良いわけではありません。
ここで跳ばれる2本の技は、それぞれが異なる技グループに属する技でなければなりません。
もしも1本目でグループⅠの技を跳んだら、2本目に跳ぶ技はグループⅠ以外の技でなければならないのです。

では跳馬の技はどのようにグループ分けされているのか。
それを理解するために、まずは従来のグループ分けから説明します。


▼従来(2021年まで)のグループ分け

体操のルールは4年に一度、オリンピックが開催された翌年から変更されます。
コロナで東京オリンピックが延期となった影響で、現行ルールは2022年から施行されています。
東京オリンピック(2021年)までのルールにおける跳馬のグループ分けは至極単純なものでした。

グループⅠ→前転とび
グループⅡ→側転とび
グループⅢ→ユルチェンコとび
グループⅣ→ロンダートひねり前転とびシェルボとび

このように、第一局面の着手の仕方によってグループが分けられていたのです。
わかりやすいですね。

跳馬を2本跳ぶ際、2本ともが同じグループになってはいけないため、

例えば
ドラグレスク(前転とび)とヨー2(前転とび)
ロペス(側転とび)とリ・セグァン(側転とび)
シューフェルト(ユルチェンコとび)とヤン・ウェイ(ユルチェンコとび)

このような組み合わせでの実施は認められませんでした。

さらに第二局面、跳馬から手が離れてから空中で技をかけ着地するまでの局面を、2本とも同じ動きをしてはならないというルールもありました。

例えば
○第二局面が前方伸身宙返り2回半ひねりであるヨー2(前転とび)とリ・シャオペン(ロンダートひねり前転とび)
○第二局面が後方屈身2回宙返りであるル・ユーフ(側転とび)とヤン・ウェイ(ユルチェンコとび)

そしてアカピアンなどの側転とびのひねり技は前方と後方どちらの要素も持つとされていたため、

○第二局面が前方伸身宙返り2回半ひねりであるロペス(側転とび)とヨー2(前転とび)
○第二局面が後方伸身宙返り2回半ひねりであるドリッグス(側転とび)とシューフェルト(ユルチェンコとび)

これらの組み合わせで2本の技を揃えることはできませんでした。
(実際には2本揃えること自体は可能ですが、それをした場合ペナルティで減点が与えられていました。)


▼現在(2022〜2024年ルール)のグループ分け

これが現行のパリ五輪期のルールになると、このように変更されました。

グループⅠ→前転とび・側転とびで1回宙返りかつ1回以上のひねり技

グループⅡ→前転とび、前転とびで半ひねりを伴うまたは伴わない1回宙返り技とすべての2回宙返り技

グループⅢ→側転とび、側転とびで1回以内のひねりを伴うまたは伴わない1回宙返り技と全ての2回宙返り技

グループⅣ→ロンダートから入る跳躍技


なんのこっちゃですよね。わかります。


〇グループⅠ:前転とび・側転とびで1回宙返りかつ1回以上のひねり技

これはつまり、姿勢に関わらず前転とび前方宙返りでの1回以上ひねり、側転とびからの宙返り1回半以上ひねりがそれにあたります。
以下のような技です。

前転とび前方抱え込み宙返り1回ひねり
ロウユン(前転とび前方伸身宙返り1回半ひねり)
前転とび前方伸身宙返り2回ひねり
ヨー2(前転とび前方伸身宙返り2回半ひねり)
アカピアン(側転とび1/4ひねり前方伸身宙返り1回半ひねり)
ドリッグス(側転とび1/4ひねり前方伸身宙返り2回ひねり)
ロペス(側転とび1/4ひねり前方伸身宙返り2回半ひねり)
ヨネクラ(側転とび1/4ひねり前方伸身宙返り3回ひねり)


〇グループⅡ:前転とび、前転とびで半ひねりを伴うまたは伴わない1回宙返り技とすべての2回宙返り技

そのまんまなんですが、早い話がグループⅠに属さない前転とびの技のことです。
よく見るのは2回宙返り、ローチェ系の技ですね。

前転とび
転回前宙
伸身クエルボ
ローチェ(前転とび前方抱え込み2回宙返り)
ドラグレスク(前転とび前方抱え込み2回宙返り半ひねり)
ブラニク(前転とび前方屈身2回宙返り)
リ・セグァン2(前転とび前方屈身2回宙返り半ひねり)


〇グループⅢ:側転とび、側転とびで1回以内のひねりを伴うまたは伴わない1回宙返り技と全ての2回宙返り技

そのまんまなんですが、早い話がグループⅠに属さない側転とびの技のことです。

伸身カサマツ(側転とび1/4ひねり前方伸身宙返り半ひねり)
ヨー(側転とび1/4ひねり後方抱え込み2回宙返り)
ル・ユーフ(側転とび1/4ひねり後方屈身2回宙返り)
リ・セグァン(側転とび1/4ひねり前方抱え込み宙返り半ひねり後方抱え込み宙返り)


〇グループⅣ:ロンダートから入る跳躍技

チャプター04で紹介した「ロンダートから入る技」すべてがこれに当たります。
ここではひねり数や宙返り数に関わらずすべてが同じグループに括られています。

ロンダート後転とび後方伸身宙返り2回ひねり
シューフェルト(ロンダート後転とび後方伸身宙返り2回半ひねり)
シライ/キム・ヒフン(ロンダート後転とび後方伸身宙返り3回ひねり)
ヤン・ウェイ(ロンダート後転とび後方屈身2回宙返り)
ロンダート、半ひねり前転とび前方伸身宙返り2回ひねり
リ・シャオペン(ロンダート、半ひねり前転とび前方伸身宙返り2回半ひねり)
ロンダート、1回ひねり後転とび後方伸身宙返り1回ひねり
シライ3(ロンダート、1回ひねり後転とび後方伸身宙返り2回ひねり)


このようなグループ分けになっています。
ワケが分かりませんね。


従来のルールでは、前転とび・側転とびのひねり技で2本揃える選手がかなり多かったこと、ユルチェンコのようなロンダートから入る技を使う選手がかなり少なかったことから、パリ五輪期のルールでは、技の多様性が要求されるようになりました。

ただし、従来のルールにあった、第ニ局面の要素被りの縛りは撤廃されています。これにより従来には見られなかった、同系統の技を2本を揃える選手も増え、跳馬の戦い方がガラッと変わりました。

従来のルールでは不可能で、新しいルールで可能になった組み合わせを挙げてみると、
ドリッグスシューフェルト
ヨー2ドラグレスク
リ・セグァンロペス/ヨネクラ
ヨー2リ・シャオペン
ル・ユーフヤン・ウェイ
アカピアン伸身カサマツなどがあります。

実際にこれらの組み合わせを実施する選手も既に現れています。

2022年世界選手権種目別跳馬金メダリストのアルトゥール・ダフチャンは、もともと前転とびのヨー2が得意な選手でした。
世界と戦うために新しくこれまた前転とびのドラグレスクを覚えたことで、従来のルールでは同じ前転とびのヨー2ドラグレスクのどちらかを使えなくなり、ヨー2の替わりに側転とびのロペスを跳んでいました。
しかし、ルール改正により、ヨー2ドラグレスクを2本揃えることが可能になり、得意な2本を跳べるとあって今や無双状態です。

反対に、ヨー2ドリッグスシューフェルトロンダートひねり前転とび前方伸身宙返り2回ひねりといった組み合わせは同グループ同士の技になってしまいまい、使うことができなくなってしまいました。

これにより、ひねり技を得意とする選手、特に日本・韓国・中国といった国の選手の多くは、ユルチェンコ系ローチェを新しく取り入れることになりました。

このルールが公開されてからユルチェンコ系ローチェをやり始めた選手も多く、未完成なまま試合で使うような選手もいました。

ルール変更にすぐ対応できる選手ほど、多様な技を持っていることが示された例だと思います。

東京→パリのルール改正によって最も様変わりしたのは男子跳馬なのではないでしょうか。


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