【つり輪】Dスコアで殴られたい【パリルール】
つり輪はあん馬と比べてDスコアが取りにくい種目です。
力技は連続で3回まで、振動倒立技が必須といった構成上の制限があるうえに、終末技以外でG難度の技がありません。
さらに言うと、Eスコアが年々厳しくなっていることで、Eスコアを重視した演技構成が多くなっていることもDスコアが取りにくい要員でしょう。
あとシンプルに技が難しい。
そんな中で高いDスコアを持つムキムキのつり輪っ子たちをご紹介。
▼Dスコア6.4
髙橋一矢/Takahashi Kazuya(日本)【Dスコア6.4】
2022年NHK杯
まずは日本から、先の全日本種目別選手権でつり輪のチャンピオンになった髙橋一矢選手です。映像は2022年のNHK杯から。
冒頭にヤン・ミンヨン(E)、バランディン2(F)、バランディン(E)と高難度の力技を連発!実施するだけでも難しい技を次々と繰り出す様には荘厳ささえ感じます。
演技後半に振り上がり中水平(E)、終盤、8技目に振り上がり上水平(D)をピタッと止める強靭さを見せます。終末は新月面(E)。
この翌年のNHK杯では別のDスコア6.4の構成を披露しています。
2023年NHK杯
ここでは冒頭に大技バランディン2(F)から入ります。続いてアザリアン(D)からの引き上げ中水平(E)、倒立技を挟んで後半に振り上がり中水平(E)、続いてここで後ろ振り十字倒立(E)を入れてきます。終末は同じく新月面(E)。
2通りのDスコア6.4の構成を披露した髙橋選手。どちらも常人には成し得ないトンデモ構成です。つり輪の弱い日本においてこのような選手がいることは希望なのです。
神本雄也/Kamoto Yuya(日本)【Dスコア6.4】
2022年世界選手権予選
もうひとりつり輪でDスコア6.4の構成を持つのが神本雄也選手です。
神本選手のつり輪は珍しい技が入った独特の構成。
冒頭は後転中水平(E)から入ります。世界的にはよく使われる技ですが、日本の選手ではあまり使う選手がいない高難度技です。
続いて後ろ振り上がり上水平(D)、後ろ振り十字倒立(E)と力技を3つ続けます。
翻転倒立で倒立に上がってから、輪を握りながら伸身で後方に2回宙返りして再び懸垂するオニール(E)からの翻転中水平(E)!
オニール(E)は世界でも滅多に見られない珍しい技。
振動技では最高であり唯一のE難度が取れる技として存在しています。
そこからの翻転中水平(E)もまた実施例が極めて少ない珍しい技です。
レア技同士を直接連続させるこの演技構成は神本選手独自のものです。
そして終末技は伸身新月面(F)。ここでも高難度を入れてきます。
鄒敬園/Zou Jingyuan(中国)【Dスコア6.4】
2023年ユニバーシティゲームズ 団体決勝
中国の平行棒の神として知られる鄒敬園ですが、つり輪でも高いDスコアを持ちます。
2023年のユニバーシティゲームズで披露した演技構成はオリジナル技を含めたE難度が6つ入ったもの。
まず後ろ振り十字倒立(E)から入って逆懸垂経過上水平(E)、これが鄒のオリジナル技で「ゾウ2」と名前がついています。
さらに背面懸垂経過脚上挙十字懸垂(E)、これでE難度の力技を3連続。
演技の後半に振り上がり中水平(E)、十字懸垂から引き上げ中水平(E)と、E難度の中水平技を2つ入れ、終末は新月面(E)でここもE難度。
この時の演技構成は「ゾウ2」を入れた特殊なものでしたが、通常行う演技構成がこちら。こちらはパリ五輪種目別決勝でも披露した演技構成です。
2024年中国選手権
こちらもE難度が6つある演技構成です。大きな違いは冒頭の3つの力技。
冒頭にヤン・ミンヨン(E)から入って2技目に後ろ振り十字倒立(E)そのまま下ろして逆懸垂経過脚上挙十字懸垂(E)この技も鄒のオリジナル技で「ゾウ」と名前が付けられています。
鄒はこのように、十字倒立の姿勢から逆懸垂に下ろして力技に持ち込む動きを特徴とします。
このような動きを便宜的に「ボロビオフ系」と呼びますが、ボロビオフ系のうち2つの技を鄒が名前を付けたことになるのです。
演技構成に話を戻しますと、冒頭3技は十字倒立・上水平・脚上挙十字と3つの種類の力技を使っていますが、2つの演技構成を比べた時に持ち込み方が違うのがわかるでしょうか。
2つの演技構成を比べると、「十字倒立」は後ろ振り十字倒立で同じですが、実施する順番が違います。前者は1技目、後者は2技目に実施。
「上水平」は、前者は十字倒立から逆懸垂経過上水平(ゾウ2)で、後者は後転逆上がり上水平(ヤン・ミンヨン)。
「脚上挙十字」は、前者では背面水平経過脚上挙十字懸垂(グ・キュウチャン)、後者は十字倒立から逆懸垂経過脚上挙十字懸垂(ゾウ)。
十字倒立・上水平・脚上挙十字の3種類の力技に加えて、中水平と十字懸垂も同じ構成に入れていて、力技の種類が豊富。
さらに力技への持ち込み方でも様々なバリエーションを持っていて、あらゆる演技構成が可能であることを示しています。
蘭星宇/Lan Xingyu(中国)【Dスコア6.4】
2024年中国選手権 種目別決勝
またまた中国からつり輪のスペシャリストが登場。
2021年の世界選手権つり輪チャンピオンである蘭星宇です。
鄒はE難度を6つ入れる構成でしたが、蘭はF難度が2つも入った演技構成を持ちます。
冒頭にバランディン3(E)を実施します。ゆっくりと持ち上げていて理想的な実施と言えます。次に背面水平を2秒止めてA難度の価値を得てから中水平に引き上げます。この背面水平懸垂から引き上げて中水平で止める技は、つり輪では貴重なF難度が取れる技です。また、中水平で止める技としては唯一であり最高難度でもあります。
その後はD難度の力技が続いて後半に振り上がり中水平(E)~ナカヤマ(D)。8技目にも力技を入れてきます。
そして終末に伸身新月面(F)で二つ目のF難度。
F難度が2つ入ったトンデモ構成にもかかわらずEスコアは驚異の9点越え。つり輪における理想的な演技のひとつと言えるのではないのでしょうか。
アデム・アジル/Adem Asil(トルコ)【Dスコア6.4】
2024年パリ五輪 種目別決勝
2022年の世界チャンピオン、トルコのアデム・アジルはこれまでD6.3の構成を通してきましたが、パリ五輪でD6.4の構成を披露しました。
アデムが新しく入れたのは冒頭のバランディン2(F)。懸垂状態から一気に十字倒立まで体を持ち上げるF難度の大技です。
さらに再び懸垂状態に戻してから一気に上水平まで引き上げるバランディン3(E)を連続で実施します。
アデムも後半に振り上がり中水平(E)を持ってきますね。
終末はパリルールで一貫して使ってきた新月面(E)。
東京五輪では伸身新月面(F)を使ったこともありましたが、パリルールでは一度も使いませんでした。
コートニー・タロック/Courtney Tulloch(イギリス)【Dスコア6.4】
2024カイロ予選
イギリスのつり輪っ子タロックが、2024年シーズン明けのワールドカップカイロ大会で披露した演技構成がなかなかのバケモン構成で驚きました。
映像はありませんが、演技構成を載せておきます。
冒頭にバランディン2(F)を実施後、十字倒立から背面水平まで下ろして背面水平経過上水平(E)に持ち込みます。あまり見られない珍しい技であり、これを十字倒立から行うのはおそらく世界初のムーブではないでしょうか。
さらに演技終盤、これまた珍しい背面水平経過脚上挙十字=グ・キュウチャン(E)、8技目に後方け上がり中水平(E)と、まだまだ高難度力技を繰り出します。
失敗していますが、W杯カイロ大会の種目別決勝で同じD6.4の演技構成を実施しようとしていた時の映像です。
▼Dスコア6.5
劉洋/Liu Yang(中国)【Dスコア6.5】
2024年パリ五輪 団体決勝
パリ五輪種目別つり輪チャンピオン・中国の劉洋は先述のスペシャリストを凌ぐDスコア6.5の演技構成を持ちます。
冒頭にバランディン3(E)とバランディン2(F)でE難度とF難度を繰り出します。
さらに後ろ振り十字倒立(E)でふたつ目の十字倒立技を入れます。
後半はホンマ十字(D)から引き上げ中水平(E)、さらに8技目に振り上がり中水平(E)を入れてきます。
終末技もE難度の新月面(E)。
ただでさえ減点をさせないさばきをする劉洋にDスコアを上げられては勝ち目がありません。
E難度以上の技が6つ入った構成ですが、劉洋の強みである減点のない十字倒立や肩の位置が上がらない引き上げ中水平など、自身の強みを活かした技選びができている構成だと感じ取れます。
▼Dスコア6.7
尤浩/You Hao(中国)【Dスコア6.7】
2022年中国選手権 種目別決勝
パリルールでの最高Dスコア6.7の演技構成を披露したのは中国の尤浩です。
尤浩も冒頭と終末にF難度の技を2つ実施しますが、それ以外にE難度の技を4つ入れています。
冒頭はバランディン2(F)とバランディン3(E)、振り上がり中水平(E)と、F難度・E難度・E難度の力技を3連発。
倒立に上げてからオニール(E)で振動技でもE難度を確保。後処理としてのアザリアン(D)から引き上げ中水平(E)。
9技目にもホンマ十字(D)で力技をふんだんに入れています。
終盤にC難度の後ろ振り倒立(C)を実施していますが、これはDスコアには反映されていません。終末技へ向かうためだけに実施しているものです。
ホンマ十字(D)を抜いてジョナサン(D)から後ろ振り倒立に上げてもDスコア6.6が取れますが、9技目にホンマ十字(D)を入れてDスコアは6.7まで上げて力技の豊富さ、体力、熟練度をアピール。
これだけの力技を入れておいて終末に伸身新月面(F)ができるのは無尽蔵の体力です。
つり輪のDスコアは6.4と6.5の間にある壁がとても分厚い印象があります。
高難度技が少ないつり輪においては、E難度の技をどれだけ入れられるかがDスコアを稼ぐための軸になります。なので力技以外のところでオニール(E)を入れてE難度を取り入れる選手が現れるのでしょう。
その中にF難度技が入ると今回紹介した選手たちのように頭一つ抜けた存在になれるのでしょうね。
体操選手の中でもつり輪を弱点とする選手は多いです。
彼らは終末技で高難度技を実施することでDスコアを稼ぐ傾向がありました。
オールラウンダーの中では伸身新月面(F)を実施する選手が増えたり、
特に力技の弱いジュニア選手ではG難度の3回宙返り(G)を披露する選手も現れています。
2025-2028ロスルールでは十字倒立の評価がまた高まり、難度の格上げによりG難度の力技も誕生しました。
スペシャリストたちの技選びにも注目したいですね。
画像出典
Men's Rings Final | Paris Champions