体操の技を覚えよう【跳馬03】側転とび
前回は跳馬において数あるとび方のうち、基本となる前転とびを使った跳躍技を紹介しました。
今回はふたつ目のとび方、側転とびの技を紹介します。
側転とびとは、助走路を走ってロイター板を踏み切った後に体を1/4だけひねらせて横向きで跳馬に着手するとび方です。
正確なデータがあるわけではありませんが、現在の男子跳馬では最もよく使われているとび方といっても過言ではないでしょう。
そんな側転とびにも、前回紹介した前転跳びのように、「1回宙返りにひねりを加える技」、「2回宙返りの技」というふうに技を分けることができます。
順に見ていきましょう。
※これから紹介する技名は、必ずしも正式名称ではなく、一部わかりやすく書き換えているものもあります。
➀側転とび1/4ひねり後方伸身宙返り〔伸身ツカハラ〕【D:3.2】
「側転とび1/4ひねり」と書かれていますね。
「側転とび」というとび方が、踏切から1/4ひねって跳馬本体に横向きに着手するという特性を持ちます。
そこからさらに1/4ひねることで、脚が下を向く局面で体が跳馬の方を向いています。
よって、踏切から着手までに1/4ひねり、着手から脚が下を向くまでに1/4ひねり、計1/2ひねっています。
この技は、踏切から着手して脚が下を向くまでに半分ひねりを完了、そこから伸身姿勢で後方宙返りをするという技です。
この動きを抱え込み姿勢で行う技には〔ツカハラ〕という日本人選手の名前がついており、このとび方を総称して〔ツカハラとび〕と呼ばれます。
つまり画像の技は〔伸身ツカハラ〕という事になります。
②側転とび1/4ひねり前方伸身宙返り半ひねり〔伸身カサマツ〕【D:4.0】
➀〔伸身ツカハラ〕と同じく「側転とび1/4ひねり」という表記ですが、その後は「前方伸身宙返り」となっていますね。
側転とびから1/4ひねっているのなら〔ツカハラ〕と同じように後方宙返りになるのでは?と思うでしょうが、実はここでの1/4は〔ツカハラ〕とは反対方向にひねっているんです。
側転とびで馬体に横向きに着手後、側転とびで1/4ひねった方向と逆方向に1/4ひねることで、脚が下を向く瞬間に体は前方、つまり跳馬と反対を向くことになります。
ここでは、体が前方を向いた後に更に半分ひねっているので、踏切から1/4ひねって着手後、反対方向に3/4ひねって着地という技になります。
この動きを抱え込みで行う動きには〔カサマツ〕という日本人選手の名前が付けられていて、この跳び方を〔カサマツとび〕と呼んでいます。
ここでは、伸身姿勢で〔カサマツ〕をしているので〔伸身カサマツ〕という事になります。
この〔カサマツとび〕は、技名の表記のように前方宙返りとする解釈もありながら、上記の私の説明のように、側転とびから3/4ひねっているという事で後方宙返りという解釈もされるのです。
なので、この〔カサマツとび〕は前方宙返り半ひねりととらえても、後方宙返り1回ひねりととらえても大きな間違いではありません。
多くの場合(主に中継の実況解説)では後方系として説明されることが多いです。
パリ五輪を控える現行のルールでは、その解釈は特にルールに影響はしませんが、予備知識として覚えておくといいかもしれません。
現在男子跳馬で跳ばれているのは、この〔カサマツとび〕を発展させたものが大多数です。
前回の前転とびの記事で、宙返りを伴う技は半分ひねりが増えるごとにDスコアが0.4ずつ上がるという事を書きましたが、側転とびに置いてもそれは同じです。
〔伸身カサマツ〕は①〔伸身ツカハラ〕(D:3.2)に1回ひねりを加えたともいえるので、Dスコアは+0.8でD:4.0となります。
③側転とび1/4ひねり前方伸身宙返り1回ひねり【D:4.4】
②〔伸身カサマツ〕に半分ひねりを加えた技。
カサマツハーフとも呼ばれます。
技名は前方1回ひねりとなっていますが、後方1回半と言っても良いでしょう。
④側転とび1/4ひねり前方伸身宙返り1回半ひねり〔アカピアン〕【D:4.8】
②〔伸身カサマツ〕に1回ひねりを加えた技。側転とび2回ひねりと解釈しても良いでしょう。
画像の選手の実施は「側転とび1/4ひねり」の部分を長めに見せるさばきをしていて面白いです。
このさばき方だと前方のひねり技と解釈される理由もわかるような気がします。
⑤側転とび1/4ひねり前方伸身宙返り2回ひねり〔ドリッグス〕【D:5.2】
②〔伸身カサマツ〕に1回半ひねりを加えた技。側転とび2回半ひねりと解釈しても良いでしょう。
画像の選手の実施は、着手してから脚が下を向くまでに3/4ひねりを完了させて、宙返りで1回半ひねっているように見えます。
このさばき方だと後方のひねり技に見えますよね。
⑥側転とび1/4ひねり前方伸身宙返り2回半ひねり〔ロペス〕【D:5.6】
②〔伸身カサマツ〕に2回ひねりを加えた技。側転とび3回ひねりと解釈しても良いでしょう。
側転とびの大技で、跳馬が得意な世界のトップクラスの選手に多く使われている技です。
⑦側転とび1/4ひねり前方伸身宙返り3回ひねり〔ヨネクラ〕【D:6.0】
②〔伸身カサマツ〕に2回半ひねりを加えた技。側転とび3回半ひねりと解釈しても良いでしょう。
跳馬で種目別を戦うような、道を極めた選手がたどり着く技。
➀〔伸身ツカハラ〕(D:3.2)から3回半ひねりが増えたこの技は最高Dスコア6.0を持ちます。
⑧側転とび1/4ひねり後方抱え込み2回宙返り〔ヨー〕【D:5.2】
前転とびにおける〔ローチェ〕ポジションの技が側転とびにもあります。
➀〔ツカハラ〕のように側転とびから1/4ひねって体を跳馬の方に向けた後、抱え込み姿勢で後方に2回宙返りして着地する技。
抱え込みの〔ツカハラ〕に+1回宙返りで〔ヨー〕という技になります。
⑨側転とび1/4ひねり後方屈身2回宙返り〔ル・ユーフ〕【D:5.6】
⑧〔ヨー〕を屈身姿勢にした技です。
抱え込み⇒屈身の姿勢のアップグレードで⑧〔ヨー〕よりもDスコアは0.4上がります。
⑩側転とび1/4ひねり前方抱え込み宙返り半ひねり後方抱え込み宙返り〔リ・セグァン〕【D:6.0】
⑧〔ヨー〕がツカハラ+1回宙返りならば、この〔リ・セグァン〕はカサマツ+1回宙返りと言えるでしょう。
着手から1回目の宙返りで3/4ひねりを完了し、2回目の宙返りは後方宙返りで着地します。
〔ツカハラ〕⇒〔カサマツ〕でDスコアが0.8上がるように、
〔ヨー〕⇒〔リ・セグァン〕もおなじだけひねり数が増えているので、
〔ヨー〕(D:5.2)+0.8で〔リ・セグァン〕は最高Dスコア6.0を持ちます。
側転とびの技は現代では最もよく見るとび方となりましたが、ディテールを理解しようとするとかなり複雑な技なのです。
名前の付いた技も多いですが、特に東アジア、日本・中国・韓国・北朝鮮といった国の選手の名前が目立ちます。
次回はロンダートから入る3つのとび方の紹介です。
【画像出典】
Jake Jarman (GBR) - Vault - 2022 World Championships - Podium Training