2021年東京オリンピック ドイツ男子の予選の演技
ベルリンの壁が崩壊したのは1989年。翌年の1990年に西と東に分断されていたドイツは統一されました。体操団体でドイツが最後にメダルを獲ったのはドイツが統一される前のドイツ民主共和国。通称東ドイツ時代に遡ります。
1988年のソウルオリンピックで銀メダルを獲得した東ドイツ。東西が統一されて以降、1992年バルセロナオリンピックからはドイツは団体のメダルには届いていません。
2010年~2013年までの4年間、世界選手権個人総合の表彰台では内村航平の横にドイツ選手がいました。
中でも、2012年ロンドンオリンピック個人総合で内村航平に次ぐ銀メダルを獲得したマルセル・ニューエンは、東京オリンピック出場を目指していましたが、怪我により代表から外れてしまいます。
世界の舞台で活躍してきたベテランの離脱で、チームを引っ張る長の役目はトバが引き受けます。五輪初出場ながら、長年世界選手権で経験を積んできた頼もしいチームメイトとともに、念願のメダルに向けて動き出します。
第1ローテーション:ゆか
▼フィリップ・ヘルダー(00:08:35~)
初めに①屈身ダブルから入ります。回転が大きく迫力のある実施です。
ひねり技の連続では着地を確実に決めています。
開脚旋回の⑥シュピンデルゴゴラーゼと⑦ゴゴラーゼを続けて実施して演技に盛り上がりを見せます。
一つひとつの技を着地まで確実に決める丁寧な演技。
終末の⑩3回ひねりは少々ひねり不足が見られて後ろに小さく跳ねました。
▼ニルス・ダンケル(00:11:15~)
初めの①前宙ダブルは足が開いている実施で高さがあまり出ていません。
②伸身前宙+③前方1回半、④後方1回半+⑤前方1回ひねりと、ひねり技の連続も実施していますが、双方の難度が低いので加点は付いていません。
全体的に慌ただしく、着地も安定していません。
終末の後方⑩2回半ひねりも着地で大きく動いてしまいます。
元々低いDスコアにEスコアを大きく落として13点を割ってしまいます。
▼アンドレアス・トバ(00:14:05~)
冒頭の➀前宙ダブルの着地で大きく前に歩いてしまい、ラインオーバーも科されてしまいます。
その後はひねりの連続も決めますが、所々で空中姿勢に脚割れが見えます。
旋回技の⑧フェドルチェンコ、力技の⑨十字倒立は静止も長く良い実施。
終末の⑩3回ひねりは胸の位置が低くなってしまいました。
初めの①前宙ダブルが演技全体に影響したのか、Eスコアは大きく減点されてしまいました。
▼ルーカス・ダウサー(00:16:55~)
こちらは➀屈身ダブルから入ります。ヘルダーのそれと比べると高さが出ていないように見えます。
②前方2回+③前方ハーフ、④後方2回半+⑤前方1回、⑥後方1回半+⑦前方1回半と、ひねり技の連続を3シリーズ続けて行います。空中姿勢も良好で着地もよくまとまっています。
旋回技の⑧フェドルチェンコはスピード感がありますね。
終末の⑩3回ひねりは着地をほぼ止めて演技全体を好印象で締めました。
冒頭に前方系の2回宙返り、ひねり技の連続を2つか3つ入れてグループⅠを挟み終末に向かう。4人ともがほぼほぼ似たような演技構成を行ってきました。その分良い部分と悪い部分が判りやすく現れています。
予選では上位3人分の点がチーム得点に反映されるため、チームで最も得点の低いトバの点はカットされます。
それでもダンケルの12点台がチーム得点に反映されるのは痛手となってしまいました。
第2ローテーション:あん馬
▼フィリップ・ヘルダー(00:35:30~)
➀セア倒立と②バックセア倒立の2つは足が下がらない良い実施。若干力を使って肘が曲がっているのが気になる程度です。
旋回は小気味よいテンポを崩すことなく③フロップ、④コンバインを続けます。
同じリズムを維持しながら⑥前移動からの⑦シバドを成功。⑩終末技は少し力を使いますが軽やかに倒立まで上げています。
▼アンドレアス・トバ(00:37:55~)
トバも➀バックセア倒立と②セア倒立の2つを実施しました。勢いのある振動を使ってバッチリ倒立にハメています。ゆっくりと上げた倒立から瓦解するように交差に下ろすこなしも特徴的で良いですね。
旋回技は④Dコンバインで若干失速しますが、安定化があって心地よい演技です。
⑥トンフェイなどの移動技でもバランスを崩すことなく旋回に繋げていてさすがですね。
リオ五輪では脚を怪我しながら強行して活躍したあん馬ですが、今回も完璧に通してみせました。
▼ニルス・ダンケル(00:40:35~)
ここはダンケルの稼ぎどころ。
淀みがなく流れるように次々と技を繰り出しています。
③フロップからの④トンフェイの流れが気持ちよく決まっていますね。
⑦ロスで脚割れがありましたが、終始無駄のない演技でEスコアも高く出ています。
得意種目で14点超えのスコアを出してしっかり役目を果たしました。
▼ルーカス・ダウサー(00:43:10~)
セア系の技は➀とびひねりセアから入ります。
初めの②フロップから旋回の不安定さが目立ちます。
④コンバインにも不安定さはありますが、なぜか落下する気配はありません。
後半は⑦トンフェイ、⑧馬端ロシアン、⑨ロスと下向き転向、D難度のロシアン系で攻めて⑩終末技も倒立ではなくロシアン系でおりました。
トバとダンケルが取るべき種目で点を取ってゆかでの失点を回収します。
目に見えるミスといえばダンケルの脚割れくらいでしょうか。
それでもダンケルはチームトップのEスコアと決定点を出しています。
全体通して良好な演技が続いて後に続く良い展開になりました。
後の3人に比べてヘルダーのEスコアがかなり落とされているなと感じます。
第3ローテーション:つり輪
▼フィリップ・ヘルダー(00:56:45~)
➀振り上がり中水平、②中水平は静止は良好ですが、輪の高さよりも少し高い位置になっています。⑥振り上がり開脚上水平は腰が曲がり、足先が下を向いているような実施。⑦翻転倒立で倒立からの逸脱が見られます。⑧後ろ振り倒立は腰が反っていて良い実施とは言えません。
終盤の⑨車輪には勢いがあります。終末の⑩新月面は勢いが良すぎたのか、後ろに大きく歩いてしまいました。
▼ニルス・ダンケル(00:59:25~)
初めの①中水平は手幅が広くて印象の良い姿勢です。②ナカヤマ十字では背面水平の局面で脚が下がってしまっています。③振り上がり中水平でも手幅の広い実施ですが、肩の位置が少し高いです。
ここからは振動技ですが、⑤ジョナサンでケーブルの揺れが発生してしまいました。⑥振り上がり十字も苦しそうな実施になっています。
⑦翻転倒立でも以前ケーブルは揺れたまま、⑧後ろ振り倒立で揺れを抑制することに成功しました。
終末は⑩伸身ムーンサルト。高さも着地もバッチリです。
▼アンドレアス・トバ(01:02:05~)
冒頭にF難度の①後転中水平、そこから②蹴上がり中水平と、最近プチ流行の流れを取り入れます。
③ナカヤマ十字では手を握らず開いてアピール。⑥振り上がり開脚上水平は腰がまっすぐ伸びていて素晴らしい実施です。
⑧⑨振動倒立系でもケーブルの揺れを起こすことなく終末の⑩伸身ムーンサルトをバッチリ決めました。
▼ルーカス・ダウサー(01:04:45~)
冒頭の➀振り上がり中水平は腰の反った実施。②振り上がり十字、③蹴上がり脚前挙と、難度の低い力技を丁寧にこなします。
前方宙がり系の3つの振動技、④ヤマワキ、⑤ジョナサンから⑥ホンマ支持で支持状態に上がり、そこから逆上がり十字⑦アザリアンに持っていきます。
⑦アザリアンでは手首を巻き込むことなく手首が反ったような理想的な十字懸垂の形を見せています。
⑩伸身ムーンサルトでは姿勢に乱れがありましたが着地はバッチに決めました。
Dスコアは高くはありませんが、Eスコアはチーム最高得点を出しています。
特別つり輪が得意という選手がいない中で、13点台後半の得点を揃えて乗り切りました。Dスコアの高いトバが14点台を狙いたかったところですが、Eスコアが伸びませんでした。チーム得点も40点に乗せてドイツとしてはまずまずの結果と言えそうです。
第4ローテーション:跳馬
▼ニルス・ダンケル(01:17:45~)
アカピアンを跳びました。高さも飛距離もあまりありません。着地の前に脚が大きく開いているのが気になります。着地は大きく後ろに1歩。Eスコアも9点には届きません。
▼ルーカス・ダウサー(01:19:25~)
同じくアカピアン。飛距離がなくこじんまりした跳躍にいなってしまいましたが、着地はピタリと止めました。しかし、ライン外に直接着地してしまったのでライン減点が科せられます。
▼フィリップ・ヘルダー(01:20:45~)
ダウサーの着ピタの流れに乗ってローチェの着地を止めました!
脚は開いていますが、高さも飛距離もあって素晴らしい跳躍です。ドイツの跳馬と言えばローチェというイメージが勝手にありましたが、それを体現する跳躍になりました。
▼アンドレアス・トバ(01:22:15~)
トバはドリッグス。着ピタの流れを続けたかったところですが、ここは大きく前に動いてしまいます。
高さはありませんが、ひねりの勢いがよく、しっかり2回半ひねり切っています。
ダウサーとヘルダーが素晴らしい跳躍を見せてチームが活気づきました。
後半種目に入ってこれから得意種目が続く中、ここで士気を上げられたことで勢いがついてきたのではないでしょうか。
第5ローテーション:平行棒
▼アンドレアス・トバ(01:39:50~)
➀棒下ひねり倒立、②棒下倒立はスムーズに、③バックカットから脚前挙で止めてメリハリを付けます。
後半にひねり技を畳みかけます。⑤ヒーリーからの⑥ディアミドフ1/4ひねり、⑦単棒横向き開脚倒立から⑧ディアミドフ、⑨ツイストと、演技に勢いがあります。
終末は⑩屈身ダブルで着地を止めました。Eスコアも高く出ています。
▼フィリップ・ヘルダー(01:42:10~)
②棒下ひねり倒立で脚が若干割れてしまいますが、演技には大きな影響はありません。⑤爆弾宙返りは開脚具合も大きく迫力があります。
⑥バブサーは滑らかに、⑦ティッペルトは堅実に。終末の⑩屈身ダブルは着地が大きく動きました。
Dスコアは6点台にのせて良い点が出ています。
▼ニルス・ダンケル(01:44:50~)
➀ホンマ、②棒下ひねり倒立、③棒下倒立と、ヘルダーと同じ流れを見せます。
その後に④車輪ディアミドフで個性を見せます。片腕支持を長く維持していてバランス感覚の優れた実施です。
終末は⑩前方ダブルハーフで前の2人との違いを見せます。
▼ルーカス・ダウサー(01:48:40~)
➀棒下ひねり倒立、②棒下倒立は、倒立に収める意識がきちんとなされていて良い実施。
その後は高難度の腕支持系の技を3連発。G難度のアームマクーツ、③ツォラキディスからアームディアミドフの④リチャード、⑤アームツイストと無駄のない綺麗な実施。特に③ツォラキディスでは軸手を変える際に停滞がなくスムーズな実施を見せます。
⑦ヒーリーも大きく見せて、先に腕支持から行っていた技を支持前振りから⑧ディアミドフ、⑨ツイストとぬかりなく続けて、終末はF難度の⑩前方ダブルハーフ。着地も小さく1歩に抑えています。
Dスコアは6.7と高く、Eスコアは9点台にのせて15.733というハイスコア。予選2位で種目別決勝に進みます。
スペシャリストのダウサーが爆発力を見せ、ヘルダー、ダンケルが着実に得点を稼ぎます。チーム得点は44点台にのせてドイツチーム全種目中最高得点をマークしますが、ほかの国も平行棒が得意な国が多いので差を詰めることはできません。跳馬の盛り上がりがダウサーの快演技に影響したでしょうか。
第6ローテーション:鉄棒
▼フィリップ・ヘルダー(02:02:00~)
➀ヤマワキから入って、②伸身トカチェフ、③トカチェフ、④リンチとテンポよく手離し技を成功させます。
⑧アドラーハーフでは体が横に傾きかけますが、こらえて修正しました。
⑩伸身新月面はひねり始めとひねり切りが早く、着地に向かう準備が見えますが、その際に腰が曲がってしまっているのが見て取れます。
着地は小さく1歩に抑えました。
▼ニルス・ダンケル(02:04:45~)
こちらも➀ヤマワキから入って手離し技は②トカチェフを問題なく決めます。
その後の③エンドー1回ひねり大逆手、片手車輪の⑤ツォ・リミンでも軸がぶれかけますが、卓越したバランス感覚ですぐに修正します。
エンドー系の技を連発し、終末技も小さく1歩。Eスコアは8点台にのせました。
▼ルーカス・ダウサー(02:08:10~)
こちらも➀ヤマワキから入る。手離し技は②コバチと③トカチェフ、それぞれ原型となる技を入れています。②コバチは足が閉じられていて詰まることなく実施しています。③トカチェフの滞空時間も長いです。
⑤アドラー1回ひねりはしっかり倒立にハマっていて良い実施。
片手車輪の技を⑥ツォ・リミンと⑧後方片手車輪の2つ入れてきました。
軸ブレもなく見栄えのする良い実施です。
終末は⑩伸身ムーンサルトで着地をピタリと止めました。
▼アンドレアス・トバ(02:11:10~)
最終演技者に御大の登場。
今年のヨーロッパ選手権で銀メダルを獲っているトバの鉄棒です。
冒頭は➀アドラー1回ひねりと②アドラーハーフのアドラー系をしっかり倒立に近い位置で決めました。
ここからは手離し技ブロック。まずは③カッシーナ、バーを掴む直前に脚が開いてしまいます。後処理の車輪でも一瞬片手がバーから離れる場面が見られます。続く④コールマンでも脚が離れる瞬間が見て取れます。
⑤伸身トカチェフは姿勢もまっすぐで⑥トカチェフ、⑦リンチは開脚具合が大きく、⑦リンチの後処理の車輪は完璧に決まっています。
クライマックスの車輪ひねり技も問題なく決め、終末の⑩伸身新月面は着地を完璧に止めました。
大きな技を持たないメンバーの中で、大将のトバがしっかり仕事をやってのけました。Eスコアがだいぶ引かれて種目別決勝へはいけませんでしたが、会心の演技を披露して笑顔で予選を終えることができました。
跳馬と同様、またもダウサーが快演技へと繋ぐ橋渡し役を担いました。
ドイツチームは予選6位で決勝に進出します。
ダウサーの平行棒以外は特筆する爆発力のないチームですが、チームワークの良さで好演技を繋げて決勝へ駒を進めました。
団体としての力は弱まっていても、なんだかんだオリンピックでは毎回決勝に進むのがドイツです。
個人総合にはダウサーとヘルダーが、種目別では平行棒でダウサーが予選を2位で通過して決勝に進出しました。リオ五輪で獲れなかったメダル獲得に向けて準備が整いました。