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体操の技を覚えよう【平行棒01】支持系の技
今回からは平行棒の技を覚えていきましょう。
平行棒の技の要素は他の種目に比べてはるかに多様で、複数の要素を組み合わせてひとつの技とするケースも多く、技数が豊富な種目です。
そんな特性があるに関わらず、近年では選手が実際に試合で使う技が限定されてきて、皆が似通った演技構成を持ってしまっているのが現状です。
そんな平行棒も例に漏れず4つの技グループに分けられています。
グループⅠ:腕支持系の技
グループⅡ:支持系の技
グループⅢ:超懸垂技、逆懸垂系の技
グループⅣ:終末技
技グループはこのように分けられていますが、平行棒の技は、終末技を除けば支持系・腕支持系・長懸垂系・逆懸垂系と4つの系統に分けることができます。
この4つの系統ですが、そもそもどのような動きなのか。
〇支持系
支持系というのは、2つの腕で2本の棒を握り、肘を伸ばして体を支持する形。この形から前後に振動させて繰り出す動きをひとくくりに支持系としています。
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〇腕支持系
腕支持系は支持系とは違い、腕を曲げて2本の棒の上に両肩を乗せて体を支持する形。この形から前後に振動させて繰り出す動きをひとくくりに腕支持系としています。
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〇長懸垂系
長懸垂系は2本のバーを握ったまま全身がバーの下に来るようにぶら下がる瞬間を経由する形。この形から前方向に振動させて繰り出す動きをひとくくりに長懸垂系としています。
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〇逆懸垂系
逆懸垂系は、顔が下を向き胴体が上を向いた状態でぶら下がる懸垂の瞬間を経由する形をいいます。
ほとんどの場合、画像のように体を屈めた姿勢になります。
この形から前方向に振り出したり上方向に振り出して倒立の形になったりする動きをひとくくりに逆懸垂系としています。
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今回はこれらの中からグループⅡに属する基本となる支持系の技を紹介します。
これから紹介する支持系の技の動きは多くの場合、ほかの系統の動きにも応用でき、それが平行棒の技の豊富さに繋がっているわけです。
それでは主要な技を見ていきましょう。
※これから紹介する技名は、必ずしも正式名称ではなく、一部わかりやすく書き換えているものもあります。
➀後ろ振り倒立【A難度】
平行棒では倒立が基本となります。
倒立から技が始まり、倒立に収める。これが平行棒の基本となる動きです。(例外もあります。)
直前の技で体を前に振り出したあと、後ろ方向へ振動させて勢いのまま倒立まで持っていき、静止。
ここでしっかり倒立を止められるかが技の印象を決めます。
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②後ろ振り倒立ひねり【A難度】
同じく前に振り出した体を後ろ方向に振動させた勢いのまま倒立まで持っていきながら体を半分ひねらせて逆方向を向いて倒立姿勢で静止。
足先を振り上げながら体を1/4ひねって単棒横向き倒立を経過、もう1/4ひねって体の向きを変えています。
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上の画像では、2本の棒の内側を向いた単棒横向き倒立を経過していますが、外側を向いた単棒横向き倒立を経過するパターンもあります。
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2パターンある倒立ひねりですが、どちらも同じ技として扱われます。
後ろ振り倒立もそうですが、オリンピックに出るような世界のトップ選手にとっては技と技のつなぎ目としてこの倒立ひねりを使いますが、競技初心者にとっては基本的な動きで価値点を稼げるありがたい技なのです。
二つの倒立ひねりの違いについて、横向き単棒倒立になる瞬間に体が平行棒の中を向いているか外を向いているかで判断できます。
〇内側を向いた単棒横向き倒立
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〇外側を向いた単棒横向き倒立
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また、振動を使わないで倒立静止から移行をしても同じ技として扱われます。
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③伸腕屈身力倒立〔シンピ〕【B難度】
ゆかやつり輪でも使われた、振動を使わずに力だけで支持から倒立まで持ち上げる技。〔シンピ倒立〕とも呼ばれる技ですね。
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④後方棒上伸身宙返り倒立【C難度】
倒立から前方向に振り出し、体を1回転させて再び倒立に収める技。見た目はカッコいい技ですが、C難度なのでトップ選手に使われることは少ないです。
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⑤前振りひねり倒立〔ツイスト倒立〕【C難度】
倒立から前方向に振り出し体を半分ひねらせて再び倒立に収める技。
こちらは平行棒が得意な選手から苦手な選手まで広く使われている技です。
この技は競技者の間、またテレビの実況解説でも〔ツイスト〕と呼ばれています。
平行棒で〔ツイスト〕と呼ばれているのはこの技のことです。
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⑥前振り1/4ひねり単棒倒立〔Dツイスト〕【D難度】
⑤ツイストと同じ動きですが、こちらは体を1/4だけひねらせて単棒横向き倒立に収めています。
ひねり数が少ないのに難度が高くなる、体操では極めて珍しい例です。
⑤ツイストがC難度なのに対し、D難度のツイストという事で〔Dツイスト〕と呼ばれます。
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⑦前振り開脚抜き倒立【B難度】
支持前振りから腕を脚の前に置き、開脚支持の形を取ってから力を使って倒立まで持っていく技。
このように、腕をバーから一度離して開脚でその下を通すような動きを「カット」と呼んだりします。
なので、カット倒立とか支持カットとか呼ぶこともあります。
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⑧前振り片腕支持1回ひねり倒立〔ディアミドフ〕【C難度】
倒立から前に振り出して足先が倒立へ向かいながら腕を片方だけバーから離し、片腕支持のまま体を1回ひねらせて再び倒立に収める技。
〔ディアミドフ〕と名前がついていて、競技者には〔ディアミ〕と短く呼ばれることも多いです。
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⑨ディアミドフ1/4ひねり【D難度】
⑧ディアミドフと同じように、支持前振りから1回と1/4だけひねって単棒横向き倒立に収める技。
⑧ディアミドフから1/4だけ多くひねっていますが、この1/4ひねりが多くなることで難度がひとつ上がってD難度になります。
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⑩ディアミドフ1/2ひねり【D難度】
同じくディアミドフで1/4ひねって単棒横向き倒立を経過したあとにもう1/4ひねって両棒倒立に戻る技です。⑨ディアミドフ1/4ひねりと同じくD難度。
こちらはディアミドフ1/2ひねり、〔ディアミハーフ〕とも呼ばれていて、⑨ディアミドフ1/4ひねりと同じ技として扱われます。
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⑪倒立から片腕支持1回ひねり〔ヒーリー〕【C難度】
倒立から前方向に脚を下ろしながら片腕を離して片腕支持のまま体を1回ひねらせて両腕を伸ばしたまま支持をする技。
この動きは〔ヒーリー〕と呼ばれ、平行棒では最も良く使われる技で、D難度になります。
⑧〔ディアミドフ〕の動きを逆再生するとこの〔ヒーリー〕の動きになるのです。
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上の画像のヒーリーはC難度ですが、支持ではなく腕支持で受けるA難度のヒーリーもあります。
下の画像のヒーリーはA難度の〔ヒーリー腕支持〕です。
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⑫単棒倒立になる振動技(B難度以上)からヒーリー支持〔単棒ヒーリー〕【D難度】
これまでに出てきた横向きの単棒倒立ではなく、両棒倒立と同じ体の向きのまま腕を前後にずらしてひとつの棒の上で倒立するのが単棒倒立。
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そこからヒーリーの動きをすると〔単棒ヒーリー〕としてD難度の技になります。
ただし、この技を仕掛ける直前の技がB難度以上で単棒倒立に収める技でないとD難度が取れないというややこしいルールになっています。
ですが、この技を使う選手はほぼ確実にD難度を取ってくるのでD難度の技だと思ってもらって構いません。
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〔単棒ヒーリー〕も、支持ではなく腕支持で受けると難度が下がってB難度になります。
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ちなみに両棒の外側を向いた横向きの単棒倒立からでも同じく〔単棒ヒーリー〕でD難度が取れます。
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⑬前振り片腕支持3/4ひねり単棒倒立経過、軸手を換えて3/4ひねり支持〔マクーツ〕【E難度】
長ったらしい技名ですね。
⑧ディアミドフと⑪ヒーリーを融合させたような技です。
⑧ディアミドフ、⑪ヒーリーともに片腕支持で1回ひねりをする技でしたが、この技は、ディアミドフの動きで3/4だけひねって内側を向いた単棒横向き倒立を経過したあとに、ディアミドフでひねった時の軸手とは反対の手を軸手としてヒーリーの動きで3/4だけひねって支持することでひとつの技とします。
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⑭前振り片腕支持3/4ひねり単棒倒立経過同軸手で3/4ひねり支持【C難度】
⑬マクーツのように、3/4ディアミドフで単棒横向き倒立を経過して3/4ヒーリーで支持する技ですが、⑬マクーツと違う点は、単棒横向き倒立を経過する前後で軸手が変わらないことです。
マクーツの難しいところは「軸手を換えて」の部分がポイントなんですね。
軸手が変わる関わらないかで二段階も難度が違ってくるのです。
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⑮マクーツ腕支持【C難度】
⑪ヒーリーと同様、⑬マクーツにも支持受けと腕支持受けがあります。
⑬マクーツはE難度でしたが、マクーツの動きで腕支持受けになるとC難度になります。
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⑯前振り片腕支持5/4ひねり単棒倒立経過、軸手を換えて片腕支持5/4ひねり支持〔ゾンダーランド〕【F難度】
長ったらしい名前ですね。
⑬マクーツをさらに発展させた技です。
⑬マクーツは3/4ディアミドフ~軸手を換えて3/4ヒーリーでしたが、この技は5/4ディアミドフ~軸手を換えて5/4ヒーリーという技。
単体でもD難度の⑨5/4ディアミドフと、単体でもD難度の⑫5/4ヒーリーを合体させた技になります。
F難度と高難度ですが、個人的にはもっと難度高くても良いと思うのですがねぇ…。
画像はゾンダーランドさん本人の実施。
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⑰ゾンダーランド腕支持【D難度】
⑯ゾンダーランドを支持ではなく腕支持で受けると難度が下がってD難度になります。
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⑱後ろとび1/2ひねり倒立【C難度】
②後ろ振りひねり倒立とは違い、前振りから倒立へと上げる局面にとびの要素を見せながらひねって倒立に収めることでC難度を得ることができます。
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⑲後ろとび3/4ひねり倒立【D難度】
⑱後ろとび1/2ひねり倒立にさらに1/4ひねりを加えて単棒横向き外向き倒立に収める技。1/2ひねりよりも難度が一つ上がってD難度が取れます。
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⑳後ろとび1回ひねり倒立〔ギャツスン〕【E難度】
⑧ディアミドフは前に振り出して片腕支持1回ひねりでしたが、こちらは後ろに振り出して倒立に上げながら片腕支持で1回ひねる技。
⑱後ろとび1/2ひねり倒立にさらに1/2ひねりを加えるこの技は二段階難度が上がってE難度が取れます。
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㉑後方棒上抱え込み2回宙返り腕支持〔モリスエ〕【E難度】
支持から前に振り出して抱え込み姿勢で後方2回宙返りをして腕支持で受ける技。
現代ではあまり使う選手はいませんが、5年~10年前までは主流だった技。
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㉒後方棒上屈身2回宙返り腕支持〔ファン・リーピン〕【F難度】
㉑モリスエの動きを屈身姿勢で行う技。
㉑モリスエよりもひとつ難度があがってF難度。
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㉓後方棒上抱え込み宙返り半ひねり腕支持〔スアレス〕【D難度】
支持から前に振り出して抱え込み姿勢で後方宙返りに半ひねりを加えて腕支持で受ける技。
平行棒の宙返りでひねるのはかなり難しいのですが、それを両棒の狭い幅の上で軸をずらさずにひねるのがより難しそうです。
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Casimiro Suarez - Parallel Bars - 1988 McDonald's American Cup - Finals
㉔後方棒上2回宙返り半ひねり腕支持〔クアビタ〕【G難度】
㉑モリスエに半分ひねりを加えたとも、㉓スアレスに1回宙返りを加えたともいえる技。㉓スアレスはお腹が下の姿勢で腕支持受けをしていましたが、〔クアビタ〕はお腹が上を向いた姿勢で腕支持受けをしています。
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㉕前方屈身宙返り支持【C難度】
支持から後ろに振り出す勢いを使って屈身姿勢で前方宙返りをして再び支持で受ける技。
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㉖前方宙返り開脚抜き腕支持【D難度】
支持から後ろに振り出す勢いを使って開脚で前方宙返りをしてお腹が下を向いた状態で腕支持受けをする技。
日本では〔爆弾宙返り〕とも呼ばれ、D難度になります。
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㉗前方宙返り開脚抜き懸垂〔ササキ〕【E難度】
通常の㉖爆弾宙返りは腕支持受けでしたが、こちらは懸垂受け。
腕で受けるのではなく、ぶら下がって技を処理することで難度があがってE難度になります。
この技には〔ササキ〕と名前がついていますが、日本人選手ではなくブラジル人選手の名前です。
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㉘前方宙返り開脚抜き屈腕支持【E難度】
今度は㉔爆弾宙返りを支持で受けるパターン。
⑪ヒーリーと同様、腕支持で受けるよりも支持で受ける方が難度が上がるんですね。
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㉙前方抱え込み2回宙返り腕支持【E難度】
㉑モリスエを前方宙返りバージョンで行う技。
こちらは抱え込みで前方2回宙返りをしてお腹が上を向いた状態で腕支持受けをすることでE難度が取れます。
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㉚前方屈身2回宙返り腕支持【F難度】
同じく、屈身で前方2回宙返りをしてお腹が上を向いた状態で腕支持受けをする技。屈身姿勢だとF難度が得られます。
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㉛前方伸身宙返り1回ひねり腕支持〔ウルジカ〕【E難度】
こちらは支持から後ろに振り出して伸身姿勢で前方宙返りをしながら1回ひねってお腹が上を向いた状態で腕支持受けをする技。
この技には〔ウルジカ〕と名前がついています。
画像はウルジカさんご本人の実施。
20年以上前に発表されていますが、現在まで誰ひとり実施しないレア技です。かなりカッコいい技なので見てみたいですね。
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今回はグループⅡに属する支持系の技を紹介しました。
ちょっと覚える数が多かったですね。それだけ平行棒の技の多様さが伝わったかと思います。
これでも抜粋しているのですべてではありません。
これらの支持から入る技たちが、ほかのグループに属する入りの要素が違うだけで技の印象がガラッと変わっていきます。
技を受ける要素としても、腕支持受け、支持受け、懸垂受けがあり、同じ動きでも受け方によってそれぞれ難度が違ってくることもわかりましたね。
次回はグループⅠに属する腕支持系の技を紹介します。
チャプター02 腕支持系の技
チャプター03 長懸垂系の技
チャプター04 逆懸垂系の技
チャプター05 終末技
画像出典
https://youtu.be/Qel-dXUsozw?si=PyNaxYhp27oX3Ect