2023年12月1,2,3週の体操ニュース
年の瀬ですね。
今年はコロナの影響で延期になっていた大会が一気に開催されたこともあり、特に大きな大会が目白押しでした。
すっかりコロナの影響は消えつつありますが、一方でロシアの影響は未だ生き続けます。
そんな中で、来年はいよいよパリ五輪の開催年。
今月に入って、ロシアとオリンピックに関して新たな動きがありました。
▼IOCが、中立を示すロシア・ベラルーシ選手のパリ五輪参加を容認
IOC(国際オリンピック委員会)は12月8日の理事会で、ウクライナへの軍事侵攻に関して中立の立場であることを条件に、ロシア・ベラルーシ選手の2024年のパリ五輪への参加を認める発表をしました。
ただし、団体競技への参加は認められず、国や組織を代表しない個人としての参加になります。
NHK:IOC パリ五輪 ロシアとベラルーシ 参加容認「個人資格の選手」
IOCはこの決定まで、ロシア・ベラルーシ選手の五輪参加については「保留」として決定を遅らせてきましたが、五輪本番まで9か月というところでようやく結論が出ました。
IPC(国際パラリンピック委員会)は、IOCよりも前、9月には同じ決定をしています。
NHK:パリパラ ロシアとベラルーシ選手 中立の個人で出場認める IPC
パリ五輪組織委員会もこれらの決定に賛同しています。
この決定により、ロシアだから、ベラルーシだからという理由で選手たちが五輪出場の権利を奪われることはなくなりました。
五輪・パラを開催する立場・大会側の人間はこの決定を支持しています。
しかし、「国」「競技団体」にとっては話が違います。
まずは国。
この決定にウクライナを始めとするヨーロッパ各国はIOCを猛批判。
ロイター:パリ五輪、ロシアとベラルーシの中立参加容認 ウクライナ非難
ウクライナ要人は「ロシアのプロパガンダに使われる」として非難。
ラトビア、リトアニア、エストニア、ポーランド、さらにデンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンの五輪委員会もロシア・ベラルーシの参加に反対を表明。
かくいうロシアも「差別的だ」としてこの決定を非難しています。
競技団体の意見は様々。
柔道連盟は今年5月の世界選手権でのロシア・ベラルーシ選手の出場を認め、これに対しウクライナが大会をボイコット。
フェンシングは国際連盟が両国の出場を容認。これにヨーロッパ各国が猛反対。デンマーク、ドイツ、フランス、ポーランドがパリ五輪の予選を兼ねていたワールドカップを中止する事態に。
陸上は既にパリ五輪にロシア・ベラルーシの選手を除外することを決定しています。
ほかにも、卓球やレスリングは両国の参加を容認しています。
さて、体操はどの立場なのかというと…
FIG(国際体操連盟)の渡辺会長はかねてからIOCの考え方には肯定的な立場をとっています。
◆7/19 FIGの声明でロシア・ベラルーシ選手の条件付きの参加が認められる
FIG:国際大会へのロシアおよびベラルーシ選手の参加に関するFIGの決定
この時点の両国の参加条件として、以下の項目が挙げられています。
・国や組織を代表しない「中立な個人」としての参加のみ認められる。
・大会に出たい選手はFIGに申請し、条件が満たされたと判断されれば、
2024年1月1日以降FIG公認の大会への出場が可能。
この声明により、ロシアとベラルーシの選手が中立の立場という条件のもとであれば、戦時下でも国際大会に復帰することが可能であることが示されました。
◆11/9 FIGがロシア・ベラルーシ選手の参加条件を公開
FIGが、ロシア・ベラルーシ国籍の選手がFIG公認の国際大会にするための条件を公開しました。
この内容をざっとまとめると以下の通り。
・2024年1月1日より復帰が可能。
・団体での出場権は得ることはできない。
ここで得られる資格は個人資格のみ。
・この決定の対象になるのはFIG公認の大会のみ。
・国、五輪連盟、体操連盟など、いかなる組織を代表することもできない。
コーチ、スタッフも同様。
資格を得るための条件
1)軍・安保機関とのつながりがない
2)ロシア・ベラルーシに関する発信をしない。
インタビューなど公開メディアでの発言、SNSも同様。
3)ウクライナでの戦争を支持しない。
デモへの参加、戦争を支持するシンボル、例えば「Z」を身に着ける事は
支持する行為とみなす。
資格を得るための行程
・参加資格を得るには指定の申請書に必要事項を記載し申請料を支払い、
FIGが申請書を受理次第、当該選手が中立であることを確認するために
検証を行う。
・資格を得た後で違反が発覚した場合は剥奪。
・FIGは資格を得た選手のリストを公開する。
資格獲得後
・ドーピング検査は必ず行う
・国コードはAIN(=Athletes of individual Neutral)とする。
・国旗の代わりに水色一色の旗、
観客もロシア・ベラルーシの国旗を使うことはできない
・ユニフォームは水色単色のものを着用
これらの事項が記載されています。
条件として「戦争を支持するシンボル、例えば「Z」を身に着ける事は支持する行為とみなす。」といやに具体的な内容が出てきましたが、これはウクライナ侵攻後に大会に出場したロシア選手が実際に行い、謹慎処分となった事例を強調しています。しかもウクライナ選手の真隣で。
この事件は体操界以外にもスポーツ界全体に広まり、FIGはただの一度でもロシア選手を出場させた事に対して外野からも批判を浴びました。
パリ五輪の体操競技の出場枠はまだ埋まっていません。
団体としての出場は既に不可能ですが、個人としての出場枠は男子18、女子17枠残っています。
2024年から始まる種目別ワールドカップシリーズの男女各種目成績上位者2名ずつと、大陸枠としてヨーロッパ選手権で個人総合上位者になる事が出場権獲得に残された道。
しかし…
◆欧州体操連盟がFIGの決定を反故に ロシア・ベラルーシの競技参加を拒否
欧州体総連盟が12月の総会で、ロシア・ベラルーシ選手の参加に関するFIGの発表を受け、声明を出しました。
そこにはこのような記載が。
欧州体操連盟は、FIGのロシア・ベラルーシ選手の参加容認の決定を拒絶する旨の声明を出しました。
ロシア選手がストレートに五輪出場枠を得るにはW杯枠と大陸枠のみ。
欧州体操連盟が参加を拒否するとなると、ヨーロッパ選手権への参加だけでなく、ドイツやアゼルバイジャンで開催されるW杯への参加も不可能になり、実質この枠での五輪出場は不可能になります。
この枠が消滅するとなると、残る可能性はユニバーサリティ枠という、連盟の推薦で選ばれる枠がありますが、これでロシア選手が選ばれる可能性は99%ないでしょう。
残りの1%は選手の権利の平等を誇示するためにFIGならやりかねん…の1%です。
◆これに対しロシア側は…
ロシア国営タス通信にもこのFIGの決定と、欧州体操連盟の態度は報じられています。
ロシア体操連盟ワシリー・チトフ会長は欧州連盟に対して…
「FIGの決定に従わないのは良くない。この決定は受け入れなければならない。」とコメント。
ロシア代表ヘッドコーチのロディオネンコ氏は
「IOCの条件は屈辱的」とコメントしています。
タス通信:ロディオネンコ氏 ロシア人の五輪出場許可基準は屈辱的だ
また、ロディオネンコ氏の記事の末尾の文章から、種目別ワールドカップでパリ五輪の出場権を得る意志がある事がうかがえます。
IOCの条件とFIGの条件を見たうえで、僕はロシア選手が大会に参加する可能性は既に消滅していると考えてますが、ロシア側は出る気満々の様子。9か月後の五輪本番、どのような結果になっているのでしょうか。
▼2027年世界選手権開催地が中国・成都に決定
2027年の世界選手権が中国・成都で開催されることが決定しました。
成都は中国の内陸にある四川省の都市。
今年のユニバーシティゲームズも成都で開催されていました。
2024年パリ五輪のあとの世界選手権は…
2025年 (未定?)
2026年 ロッテルダム(オランダ)
2027年 成都(中国)
▼橋本大輝がパリ五輪代表に内定
今年の世界選手権で団体・個人総合・種目別鉄棒の3冠を達成した橋本大輝選手が来年パリ五輪の日本代表に内定しました。
これまでの成績を加味したうえでの決定だそうです。
早速日本代表第1号が決まりました。
パリ五輪代表の枠は男女とも5人。
男子は残り4人、女子は残り5人の枠を懸けて争います。
▼パリ五輪日本代表選考方法が公開
そのパリ五輪代表選考方法が体操協会から公開されました。
代表選考の対象となる大会は4月の全日本個人総合選手権と5月のNHK杯。
例年6月に開催されていた全日本種目別選手権は今年は秋の開催のため五輪選考には関わりません。
【男子代表選考基準】
まず出場資格が与えられた72名で争う全日本個人総合選手権の予選の結果により、橋本大輝選手を含む個人総合上位30名(橋本が辞退した場合、橋本を除く上位30名)と、それを除く各種目上位6名ずつが決勝に進出します。
NHK杯は1日目と2日目に分けられており、
1日目には、全日本個人総合選手権で個人総合・種目別で決勝に進んだ面々が出場、2日目には1日目の結果から橋本大輝選手を含む個人総合上位18名(橋本が辞退した場合、橋本を除く上位18名)と、チーム貢献得点が高い選手3名が出場します。
NHK杯の最終的な順位は、全日本個人総合の予選・決勝、NHK杯1日目・2日目の4試合分の合計点で決まります。
これらの結果により、橋本大輝選手を除くNHK杯上位2名がまず代表に決定、そして橋本大輝選手とNHK杯上位2名の3人でチーム得点を算出し、そのチームに上乗せする(貢献する)得点が最も高くなる組合せの選手2名が選ばれます。その2名の内1名はNHK杯10位以内、もう1名は順位の縛りなく選ばれます。
【女子代表選考基準】
まず出場資格が与えられた72名と各種目有資格者6名ずつが争う全日本個人総合選手権の予選の結果により、個人総合上位27名と、それを除く各種目上位3名ずつが決勝に進出します。
NHK杯は1日目と2日目に分けられており、
1日目には、全日本個人総合選手権の個人総合上位23名と、各種目別最上位1名ずつが出場。2日目は1日目と同じ面々が再び戦います。
NHK杯の順位は、全日本個人総合予選・決勝、NHK杯1日目・2日目の4試合分の合計点で決まります。
これらの結果により、NHK杯上位4名と、そのメンバーで団体を組んだ場合により貢献度が高い選手1名が日本代表に選ばれます。
個人総合での選出を狙う選手は、男子6種目×4回分=24演技、女子は4種目×4回分=16演技をそろえなければならないという厳しい戦いになります。
▼寺本明日香が「寺本明日香カップ」を開催へ
ロンドン五輪・リオ五輪代表の寺本明日香さんが、自身の名を冠した大会を新設するそうです。
読売:体操オリンピアンの寺本さん 「寺本明日香カップ」を開催へ
寺本さんが現在拠点を置く愛知県での開催。
体操は国内では4月から大会が始まるのが通例で、それまでの期間に演技を試すような場があればとの思いから、3月の開催を予定しています。
シーズンの初戦の位置づけとして、選手の強化と競技の普及を目的としています。
野球やサッカーのように試合数が多い競技ではないので、大会が増えて人の目に触れる機会が増えるのはとてもいいことですね。
寺本さんのような名のある方が積極的に動いてくれるのはありがたい事です。
2020年には内村航平さんも自身の名を冠した大会の創設を発表しましたが、新型コロナの影響で中止になっています。
画像出典
https://olympics.com/ja/
https://www.europeangymnastics.com/
https://www.gymnastics.sport/site/
https://www.youtube.com/watch?v=08GwG1lHFLo
https://www.instagram.com/p/C0xnxy9hkNf/?utm_source=ig_web_copy_link&igshid=ZTcxMWMzOWQ1OA==