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【跳馬】Dスコアで殴られたい【パリルール】

種目別では2本の跳躍の平均点で競われ、同一グループから2本の跳躍を揃えることが出来ません。
パリルールの跳馬はそのグループ分けで大きな変更があり、前転とびと側転とびのひねり技がひとつのグループにまとめられました。
つまり従来多くの選手に使われていた類のひねり技を2本そろえることが不可能になったのです。

東京オリンピックまでの跳馬は前転とびのひねり技と側転とびのひねり技で2本の跳躍を揃える選手がスタンダードだったこともあって、多くの選手が「2本目」の跳躍技を変更せざるを得なくなりました。

その選択肢として、前転とびの2回宙返り系であるローチェの技や、側転とびの2回宙返り系であるリ・セグァン
もしくは、ひねりの得意な選手はユルチェンコ系の技を新たに習得するという流れが出来上がりました。

そんな跳馬環境下で価値点6.0を持つ技が5つあります。

ヤン・ハクソンヨネクラシライ2リ・セグァンリ・セグァン2

これらの技は最高価値点を持つ技として多くの選手に使われてきました。
中には、使い手の少ない技もありますが、これらの中から、2022-2024パリルール下で実施されてきた跳躍を見ていきましょう。




ヤン・ハクソン

韓国の元世界チャンピオン、ヤン・ハクソン選手によって発表された「前転とび前方伸身宙返り3回ひねり」には、彼の名前「ヤン・ハクソン」が付けられ、跳馬の最高価値を持つ技のひとつとして存在します。

遠藤幹斗/Endo Mikito(日本)【Dスコア6.0】

2023年全日本個人総合選手権

ヤン・ハクソンは使い手の少ない技ではありますが、日本の遠藤幹斗選手が使い手として知られています。
単純なひねり数の多さによる難しさもありながら、前向きに着地するという点でも難しさがあります。

遠藤選手の実施のように、宙返りの高さ故の滞空時間の長さとひねりの鋭さによってこの技を成功させています。
3回もひねっているので着地の準備が遅れてしまって着地が大きく反れてしまっています。
そうは言いますが、ひねり切って立つだけでも凄い技なので凄い映像なのは確かです。


ヨネクラ

ヤン・ハクソンは前転とびでしたが、ヨネクラは側転とびから1/4ひねってから3回ひねる技です。後方の3回半ひねりという解釈もできます。
前転とびのヤン・ハクソンと同価値の技ですが、ヤン・ハクソンよりもひねり数が1/4だけ多いのがこのヨネクラという技。
側転とびの方がひねりやすいと感じる選手が多いのか、側転とびを習得する選手が多いからなのか、ヤン・ハクソンとは違って使い手とする選手もチャレンジする選手も多い技です。

シン・ジェファン/Shin Jeahwan/신재환(韓国)【Dスコア6.0】

2024年ワールドカップバクー大会

韓国のシン・ジェファンは2021年の東京五輪でヨネクラを跳んで見事金メダルを掴みました。
パリルールになってから色々あり、競技に復帰してからはパリ五輪に出場すべくワールドカップ予選を転々として跳馬に出場、一貫してヨネクラを跳んでいましたがきれいに成功することはありませんでした。

映像はありませんが、ジェファンがヨネクラを跳び続けていたという事実を読者に知ってほしかったのです。
ジェファンは東京五輪の時も種目別ワールドカップの予選レースに参加し、日本の米倉選手と最後まで東京五輪の出場権を争った選手なのです。
そのレースを勝ち抜いて見事東京五輪に出場、五輪本番でもヨネクラを成功させて金メダルを獲得したのです。


ナザール・チェプルニィ/Nazar Chepurnyi/Назар Чепурний(ウクライナ)【Dスコア6.0】

2024年ワールドチャレンジカップ・ヴァルナ大会

跳馬の強いウクライナのスペシャリストであるチェプルニィですが、これまでロペスとドラグレスクの2本を揃えていました。
それが今年の5月のワールドカップでヨネクラにチャレンジしています。
パリ五輪に向けて実践で試したかったのでしょうか。
パリ五輪本番ではロペスを跳んで種目別決勝に進んでいます。


米倉英信/Yonekura Hidenobu(日本)【Dスコア6.0】

2023年NHK杯

「ヨネクラ」の技名の本家本元、世界で初めて成功させた米倉選手の跳躍。
徳洲会体操クラブ所属。2021年世界選手権では自信の名を冠するヨネクラを成功させて種目別跳馬で銀メダルを獲得しています。
着手時の脚閉じ、ひねりの鋭さ、ひねり切り、どれも素晴らしい実施です。


大谷直希/Otani Naoki(日本)【Dスコア6.0】

2023年全日本選手権

北翔大学を卒業し、現在ジュンスポーツ北海道に所属する大谷直希選手もヨネクラの使い手。
2023年の全日本選手権では個人総合と種目別を含む全出場者中トップのスコアを記録しています。



岩澤将英/Iwasawa Shoei(日本)【Dスコア6.0】

2024年NHK杯

レイズ体操クラブ所属の岩澤選手もヨネクラの使い手です。
この跳躍は2024年のNHK杯のもので、この日の全選手中トップのスコアを出しています。


三輪哲平/Miwa Teppei(日本)【Dスコア6.0】

2022年全日本団体選手権

セントラルスポーツ所属の三輪哲平選手が順天堂大学4年生時の2022年の全日本団体選手権でヨネクラを跳んでいます。
他とは頭一つ抜けた宙返りの高さで余裕のあるロペスを跳んでいましたが、ヨネクラでも余裕のある実施を見せました。
片足のラインオーバーはありますが着地は沈むことなくひねり切っています。


ジェイク・ジャーマン/Jake Jarman(イギリス)【Dスコア6.0】

2023年世界選手権個人総合決勝

今や体操界でヨネクラ使いといえばイギリスのジェイク・ジャーマンが挙げられます。
それを決定づける跳躍が2023年の世界選手権でした。
個人総合決勝で着地をビタ止めし本人もびっくりの跳躍を見せると、種目別決勝でも会心の跳躍を披露して種目別跳馬では金メダルに輝きました。
踏切から着手~着地まで一切脚が開かない伸身姿勢が素晴らしいです。
0.5もどこを減点しているのか理解しかねるくらい完璧な跳躍です。



リ・セグァン

2016年リオ五輪種目別跳馬チャンピオン、北朝鮮のリ・セグァン選手の名前が付けられた「リ・セグァン」は側転とびで着手してから2回宙返りをする間に1回ひねりを加えるという複雑な構造をする技です。
ヨネクラやヤン・ハクソンはひねり技が得意な傾向がある日本先週によく使われていますが、この技は地域を問わず世界中の選手に使われています。
跳馬の最高価値点6.0を持つ5つの技の中では最もよく使われている技ではないでしょうか。

アッシャー・ホン/Asher Hong(アメリカ)【Dスコア6.0】

2023年世界選手権団体決勝

跳馬を弱点とするオールラウンダーが中心のアメリカにとって、アッシャー・ホンの加入は起爆剤となりました。
代表入りするレベルの選手で跳馬で6.0が跳べる選手はアメリカにとっては貴重な存在です。
2023年の世界選手権では見事リ・セグァンを成功させて15点台を記録。アメリカの団体銅メダルに多大な貢献をしました。
その勢いのまま、2024年パリ五輪団体決勝でもリ・セグァンを決めてアメリカは団体銅メダルを獲得しました。


ドネル・ウィッテンバーグ/Donnell Whittenburg(アメリカ)【Dスコア6.0】

2024年全米選手権2日目

アメリカからもうひとり、2014年に初めて代表入りしたベテランです。
かつて世界選手権の種目別跳馬で銅メダルを獲得したこともあるウィッテンバーグもリ・セグァンを跳びます。
ウィッテンバーグのリ・セグァンは回転の勢いが強いにもかかわらず着地ではしっかりその勢いを受け止めているところに強さを感じます。


コートニー・タロック/Courtney Tulloch(イギリス)【Dスコア6.0】

2022年ヨーロッパ選手権予選

イギリスはゆかと跳馬で驚異的な強さを誇ります。特にゆかは、世界最高クラスのDスコアを持つ選手3人をパリ五輪団体メンバーに入れ、その3人がそれぞれ跳馬で価値点5.6、5.6、6.0の技を跳んでいます。
タロックはパリ五輪のメンバーからは外れましたが、跳馬で6.0を跳べるとあってイギリスのゆか跳馬の強さを物語る要素としては十分です。
成功率こそ低いですが、パリルール下では一貫してリ・セグァンを跳び続けています。


石偉雄/Shek Wai Hung(香港)【Dスコア6.0】

2024年ワールドカップバクー大会

香港の跳馬のスペシャリスト石も今年33歳のベテラン選手。ウィッテンバーグのようながっちり体系ではないですが、大技リ・セグァンを武器にパリ五輪の予選レースを勝ち抜き、パリ五輪の出場権を獲得しています。
側転とびは着手で脚が開いてしまう選手が多いのですが、リ・セグァンの着手では空中で抱え込み姿勢になることから脚が曲がったまま着手する選手が多いものです。
これほど脚が伸び切った着手での側転とびからリ・セグァンを跳べるのは何かこれまでの選手とは別の技術を感じます。


米倉英信/Yonekura Hidenobu(日本)【Dスコア6.0】

2022年全日本種目別選手権予選

またまた米倉選手です。
米倉選手のリ・セグァンの着手は脚が伸びているだけでなく、踏切から着手まで脚が閉じられたまま。
米倉選手はリ・セグァンとヨネクラの2本の6.0を揃えた世界で数少ない選手の1人です。


安里圭亮/Asato Keisuke(日本)【Dスコア6.0】

2022年全日本種目別選手権決勝

日本でリ・セグァンの使い手と言えば安里選手は外せません。
安里選手はただリ・セグァンを跳ぶだけではありません。ほかの選手よりも6mほど短い助走からスタートして超大技のリ・セグァンを成功してしまうのです。
世界選手権代表経験もあり、2022年の全日本種目別選手権種目別跳馬では優勝。2023年に引退しています。


陳治龍/Chen Zhilong(中国)【Dスコア6.0】

2024年中国選手権種目別決勝

これまでひねり技が中心だった中国選手も、パリルールになってから2回宙返り系の技を使う選手が増えました。
特にリ・セグァンを使う選手は複数現れていて、陳治龍もその1人。
着手からのひねりのかかりが早くて縦回転にもキレがあります。


何駆欽/He Quqin(中国)【Dスコア6.0】

2023年中国選手権種目別決勝

こちらは2023年の何駆欽の跳躍。
とても飛距離のあるリ・セグァンです。


呉建豪/Wu Jianhao(中国)【Dスコア6.0】

2022年中国選手権予選

こちらは2022年の呉建豪の跳躍。
超大技リ・セグァンの着地をピタリと止めています。



リ・セグァン2

リ・セグァンと同じ名前が付けられた技ですが、その動きと姿勢は異なります。
こちらは前転とびから屈身姿勢で前方に2回宙返りをして半分ひねって着地するという技。
パリ五輪の種目別決勝で多くの選手が使っていたドラグレスクを屈身姿勢にしたものです。
世界的にも使い手とする選手は数人しかいない希少な技です。

谷川航/Tanigawa Wataru(日本)【Dスコア6.0】

2023年アジア大会種目別決勝

この技の使い手として有名なのが日本の谷川航選手。
個人総合でもこの技を使う程の使い手で、着地を持ち味とする本来の強みが掛け合わさってインパクトの強い跳躍を見せてくれます。


アデム・アジル/Adem Asil(トルコ)【Dスコア6.0】

2022年ワールドチャレンジカップ・オシエク大会 種目別決勝

トルコのアデム・アジルもまたこの技の使い手。東京五輪でも種目別決勝に進む実力者です。
高さとひねる時の体の開きが見えることでこの技の熟練さが垣間見えます。


カルロス・ユーロ/Carlos Yulo(フィリピン)【Dスコア6.0】

2024年パリ五輪種目別決勝

最後はフィリピンのカルロス・ユーロ。パリ五輪の種目別跳馬金メダリストです。
カルロスの屈身姿勢の美しさは天下一品。
着地の直前まで膝が伸び切った美しい空中姿勢を見せて、着地が1歩動いてもEスコア9.433と高いスコアを得ています。



2025-2028ロスルールでの跳馬はまたすべての技の価値点が0.4ずつ下げられます。
減点も厳しくなってEスコア9点台を取るのも簡単ではなくなってきました。
比較的点が出やすいとされている跳馬でも年々点を取るのが難しくなっています。
これから6種目における跳馬の立ち位置はどうなるのでしょうか。


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