9章 可変的な日本連合 (1) したたかなチーム編成
ブリュッセルで殺傷事件に遭遇した杜 海斗が、日本に帰国して兄弟達に混じってトレーニングを再開したという小さな記事が伝えられる。
事件殺人犯との交戦時に刺された腹部は、体調的な影響としては軽微なものでしかなかったが、犯罪者とは言え、初めて人を殺やめた事で自身の精神面への負荷は尋常ではなかった。体を動かして、あまり事件を考えないようにする事だと医師に言われて、本人は一時帰国を決めた。
海斗を支えている周囲も様々なプランを提案して、本人が熱中したり、集中できるものを考える。6月と言う、女性が欲するタイミングに合わせてクラブのオーナーであるヴェロニカが結婚を勧め、ヴェロニカの夫で異母兄の太朗は航空ライセンスの取得を促す。 サッカー選手を引退した後の選択肢として、太朗と同じ月面基地の交代制の管理者のポジションを提案する。 とっさの判断力や自身が持っている責任感の強さは、事件に対峙した能力からも伺えるとJAXAと中南米軍のスタッフも判断したようだ。少なくとも、太朗に比べれば海斗の方が一回りも若く、体力面で心配する必要は無かった。
海斗が来日して練習を始めたと聞いた3人の姪っ子達は、筑波から柏まで叔父に面会に出掛ける。ブリュッセルの市民から英雄と称される海斗叔父は、家族にとっても誇りでもある。歩 叔父の収入には敵わないまでも、茜と遥の父親の火垂、圭吾叔父と従兄弟達の年収を有に越える額面を姪っ子3人は稼いでいた。世界中の至る所で開発した小麦や綿が栽培されるようになったからだが、3人で破格のプレゼントを用意していた。 フラウにとって、海斗と夫婦になるサンドラットは母の姪っ子であり、父の異母弟との婚姻となるので、非常に近い間柄となる。フラウがサンディーの愛称で呼んでいるサンドラットは、母親のセメント企業グループの一つ、食器製造会社で食器デザイナーをしている。
セメント企業グループの会長職でもあるフラウの母ヴェロニカが、自身が所有するサッカークラブの所属選手と、姪っ子デザイナーの間に入って交際をケシかけた節がある。サンディーの妹達や会社の部下を、海斗の弟達に繰り返し紹介しており、本人は「お見合いババア」を自称している。海斗とサンディーのカップルに至っては各国リーグでプレーしている新郎の兄弟達が、Jリーグでのレンタル終了前を狙って、挙式を済ます暴挙に打って出た。何を慌てているのか理解に苦しむ程、ツッコミどころは満載で、都内の教会を誰が押さえたのか、万全すぎるマスコミ対策を仕切ったのは一体誰なのかとか、議員のコネや警察に顔が利く人物が仕切らねければ実現しそうもないプランが、奇跡のように出来上がってゆく。妻の剣幕に押された副官房長官が、立場を利用して公安や警察や社会党のスタッフを私的な目的の為に使ったのではないか、と娘のフラウは疑っていた。当然ながら、元首相や首相も知っていながら、「身内の慶事」として職権乱用を黙認しているのだろう、と。 曲がりなりにも、清廉潔白を掲げている日本政府が、身内の結婚式の為に国内の公的機関を使っているのが露呈したなら、如何なものかとも思っていた。
しかし、「官房機密費」という敗戦後の日本政府特有の財布の存在をフラウが知る由もなかった。機密費は社会党政権になってから、株式を始めとする投資や高金利の預金管理で手堅く増やし続けている。 「官房機密費」自体の存在は戦後の政権がブラックボックス化し、唯一存続している制度、金庫でもある。
年間の利用総額だけは公表するが、使用目的や個々の利用額等の明細は一切公表しないのも「好都合」と解釈されて継続されている。
唯一の変更点が、社会党は公表していないが官房長官職は首相経験者が担うべきポストと位置づけている。実は中身は金森元首相であるモリ・ホタルが官房長官に就いているので、例外にはなっていない。首相経験者の裁量で如何様にでも使える資金が官房機密費と社会党政権ではなっていて、総理府と社会党の財テク部門が2部門で費用を分割して「成果」を競い合っている。各省庁の年度予算に関しても、各省庁と社会党の財テク部門で競い合ってカネを増やしているのだが公表していない。 偶然なのだが、杜 海斗と兄の火垂の2人の母は、歩、あゆみ、圭吾、陸、宙の兄弟同様にモリ・ホタル官房長官だと公の場では知られている。火垂と海斗が金森鮎の実子であるのは非公開にしているので、「公の場」と「偽装関係」が合致する、ややこしいながらも正しい状況になっている。それ故に、官房機密費を息子の婚姻行事に使っていたと仮に露呈したとしても、「要人の子息でもあり、警備上そのくらいは仕方がないのではないか」と許容されるかもしれない。
母が必要以上にテコ入れしている理由をフラウはアレコレ考える。新郎である海斗はさて置き、姪っ子の幸福だけをひたすら願っているようにしか見えなかった。親族が集まりやすいからという理由だけで、慌てて式を挙げる理由が今一つ分かリ兼ねていた。勝手に想像すると、昨今、ベネズエラが注目を浴びている影響もあり、大統領の子息や孫達を「モリ・ブランド」としてメディアが持て囃している状況にある。実際、叔父や従兄弟達をテレビCMで見ない日は無い。フラウの弟のハサウェイも含めて女性ファンが急増し、シーズン中はスタジアム内に黄色い歓声が溢れて、アイドルのコンサート会場か?と錯覚する事も度々ある。この「買い手市場」の状況を憂いた母が、早いこと世帯を構えさせて、海斗を対象から外してしまおうとしているのでは?と、フラウは勘ぐっていた。
母ヴェロニカの心象に対するフラウの推測は概ね正しいものだったのだが、実際は、海斗の母親である金森 鮎の政治的な判断が絡んでいたのは、リードオフマン役のヴェロニカも、籍を入れる当の本人達も知らなかった。海斗の兄の歩のケースで例に取り上げると、歩の外交官時代の時分に仕事上で接点があり、密かに交際していた英国の外交官が、英国MI5の日本分析班の構成員だった。サッカー選手に復帰してからは実業家としての顔を持つようになり、懇意になった中国人女優が、実は米国CIAが仕向けた人物だと判明した。共に本人が「本気では無い」と察した祖母と「組織」が、歩への接近を止めるように女性側に圧力を加えた経緯があった。組織に指図していた金森鮎が、娘モリ・ホタルの影武者となってからは、官房長官として「組織」に機密費を投入する様になる。歩だけでは無く、柳井前首相とモリとの間に生まれた既婚者である2人、太朗と、鮎の間のもう一人の子の火垂、そして独身の3人、歩、海斗、圭吾に群がる「各国の組織が何かしら介在している女性達」を監視し、必要とあらば適時排除していた。母であり祖母として、官房機密費を使って露払いし続けている格好だ。 日本人であれば、国内の実業家やどこぞの名家が、家の娘達をモリの子息達に引き合わせようと近づいてくるのだが、海外では必ずと言っていい程、各国の諜報機関が関与する女性が含まれているので、極めて厄介だった。お約束のように女優やモデルをあてがうので、一般の女性が頓に太刀打ち出来ないケースばかりとなる。子供たちも父親に似たのか、近づく女性を拒もうともせず受け入れてしまうので、せめて実子の海斗の身は手堅く固めて、とっとと安心したいのよね・・と、母親として願っていたようだ。
「しっかし、よくマスコミに伏せられたね・・。他の叔父様達の結婚時も、ここまで徹底するのかな?」 茜が内緒の話を公共の場で堂々と言うので、フラウが膝を叩いて人差し指を口に当てる。妹の遥も分かっていなかった。
「そりゃそうよ。杜 蛍と杜 あゆみの本物と影武者が一堂に会するのよ。そんなの撮られたら、それこそ騒ぎになる。お婆ちゃんは行方不明って事になってるんだし」
「そうだったね・・まぁ、首相も前首相に閣僚達も集まるんだろうし、仕方ないか」
常磐線の車両の中で左右の姉妹が放つ固有名詞や職業に反応する乗客も居るだろう。フラウは2人の膝を交互に叩き、静かにしなさいと警告し続けた。 ーーーー 「日本に滞在しているモリ・カイトが身を固めるらしい」という情報は、各国の諜報機関の知る所となり、海斗は当面の攻略対象から一時的に抹消され、モリ本人と柳井太朗と杜 火垂の「既婚者枠愛人路線」に、結婚2年後を目安に移行対象となる。
サッカー界で使われている「モリ家第一世代」の独身者は歩と圭吾の2人となり、第二世代の5人、陸・桃李・零・零司、一志、プラス、柳井ハサウェイの未成年者6人が、新たな攻略対象に加わろうとしていた。諜報機関を持つクラスの国にとって、大統領に本格復帰したモリとのパイプ作りが、各国にとっては急務であり必須条件だった。 各子息が嘗て「付き合いのあった」女性の人物分析を行い、身体的特徴や性格、各人の女性の好みを絞込み、「つつもたせ」「ハニートラップ」計画の実行犯候補となる女性を選別、買収してモリの子息と接触するよう策を講じてゆく。
警戒しているからなのか、モリ本人に近づく機会が極めて少なく、その為の子息狙いだった。ベネズエラはG7,G20などの先進国会議に参加しなくなり、各国の様々な状況を批判して、一線を画す動きを見せている。しかし、ベネズエラの資金や技術はどの国も喉から手が出るほど欲しい。その為なら、あらゆる手を尽くして接点を作ろうと・・していた。 ーーー モリの子の中でも、外交官資格を今でも所持を許されている歩は、カフェやレストラン等で女性と一緒にいる際に「同胞の監視者」と、どこの国なのかまでは分からないが「プロ」の存在に時折気付く。
「モリの子」という自身の立場がどのようなものなのかを、その都度 理解する場となる。
「欧州で女性と食事中に周囲に日本人が居たら、政府の関係者だと警戒すべき。それと、その場に他国の諜報員が居ると勘ぐった方がいい」などと、外交官マニュアルの様々な注意事項を含めて、兄弟達にアドバイスし続けていた。
「勿論、遊ぶのは各人の自由だが、2人っきりになる時は携帯電話は転送タイプのダミー機を持つようにしろ。絶対にマザー機は持ち歩くな」とクドイまでに何度も伝えていた。
歩 自身が、マザー機とクレジットカードをスキミングされて、連絡先が漏洩したり、金を失った過去が何度かあったからだ。ロストだけでなく「International Association」等の存在しない組織から訳の分からない金額が口座に振り込まれていて、驚いたのも一度や二度では無かったのだが、それに関しては黙っていた。
歩の4つ下の圭吾は自身の失敗談として、「どストライクの女性が目の前に現れると、先ずは疑うべきだ」と 弟達に伝える。美人が現れる確率がそう何度もある筈がないと、まだ成人を迎えていない弟達に指導してゆく。
「暫く付き合っている内に「ご両親に会ってみたい」「日本に行ってみたい」と言い出すのが関の山なんだ」と証すと、弟達が腹を抱えて笑い出す。火垂、歩、海斗の上の3人が苦笑いしているのを見て、「3人共、何かしら身に覚えがある」のが分かったからだ。
「ホタル兄、娘達にも伝えといた方がいいんじゃない?諜報機関に居るイケメンスパイを送り込む方が、各国はラクでしょう?」圭吾に言われて、そうだそうだと周りが笑う。誰も彼もが茜と遙よりもフラウを想像する。 誰もが、フラウ攻略に立候補するスパイが出るのではないか、と考える。
「零、凄腕のスパイのテクニックでフラウがメロメロに開発されちゃうかもしれないぞ」
一志が茶化すと、零が一志に掴みかかってゆくので周りが笑う。一志の指摘が的を射たものであり、話を振られた零の反応が小さな頃と同じだったからでもある。フラウに執着しているのは、幼少期から変わっていない。
「どうかなぁ、フラウが欧州のクラブチームに移ったら心配する必要があるんだろうけどさ。学生と研究者の二足の草鞋で手一杯で、プロ選手なんて考えてませんって本人が言ってるんだから、今んとこは日本の名家と言われてる男だけ 警戒しとけばいいんじゃないかな? 茜も遥もだけど」
冷静さを欠いた零を一志から引き剥がしながら,歩が発言すると、確かに日本国内で異国のイケメンスパイは目立つよな・・と兄弟の誰もが納得した。
ーーー 南太平洋・仏領ポリネシアからフランス海軍が撤退を始める。
フランスから遥々やって来た経費よりも、帰投する経費の方が高額になったのは、南アメリカ大陸最南端周りで大西洋に出るので、距離が倍近くになると議会でフランスの国防相が苦し紛れの答弁を続けていた。「何故、行きと同じ、カリブ海ルートとカナダ北極海ルートを使わないのだ?移動時間も少なく、燃料費が安く済むだろう」と野党が追求するのだが、「航路は事前に決められており、変更は出来ない。北極海やカリブ海を経由するルートが天候や紛争等で使えない可能性も想定して、往復のコースを変えている。あくまでも訓練の一環なのです」と強弁するが、誰も納得していなかった。 フランス政府が隠蔽していたのだが、タヒチに停泊していた艦隊の全ての艦艇部に、夥しい数の落書きが残されているのが、タヒチを出港する前の事前検査で発覚していた。ポリネシア滞在の22日間、漢字の「正」の字が22画数分書かれ、合わせて「参上!」「夜露死苦!」と言ったフランス人には意味不明の字体がビッシリと書かれていた。潜水ドローンが取った映像から、過去に存在した、日本の暴走族集団の落書きを真似たものだと判明するが、海軍の監視の目をすり抜けて、22日間もの間、湾内を我が物顔で忍び寄り、艦に触れていたという事実に幹部達は衝撃を受け、打ちのめされたような苦痛を味わっていた。落書き出来るのだから、爆薬の設置など朝飯前だと言っているようなものだ。
当然ながら、中南米軍の仕業だと誰もが疑う。だとすれば、パナマとエクアドルの中南米軍の基地に帰りも寄ることなど到底出来無かった。南米大陸を大きく迂回しながら、それでもチリやアルゼンチンに寄港せずに済むように海上での燃料補給を急遽組み込み、航海の途中で何回か給油作業を行うスケジュールを組んでゆく。
カリブ海に入った頃から南太平洋に向かうまで、中南米軍の潜水艦やモビルアーマーの練習台になっていたのだが、帰路では艦の下部に様々な色のサインを書き続けて、落書き帳のようになっていた。 「N'importe quand, n'importe où, submergé(何時でも、何処でも沈められました)」とフランス語で書かれているのが発覚し、軍関係者は更なる屈辱に震える。
フランス海軍の主力部隊の居なくなったポリネシアの沖合では中南米軍の潜水艦が浮上したり、モビルアーマーが海底で作業をしている姿が散見されるようになり、 フランスはタヒチ島から哨戒機を日々飛ばして、警戒するようになっていた。やがて中南米軍のフリゲート艦や護衛艦が隊列を組んで航行し、潜水空母が浮上して、無数の小型無人機を飛ばし、本格的な訓練するようになってゆく。
中南米軍が活発に動き始めたのは仏領ポリネシアだけではなかった。カナダの3州で4月から農作業に従事していた人型ロボットが、何故か武装した状態で3州と接する州の境界に、立ち並ぶようになっていた。武装した5mタイプのロボットも輸送機で次々と運ばれて来ると、3州の知事と中南米諸国に対して、カナダ政府がクレームを上げ始める。この頃のマスコミの世論調査で、独立を望む州民のパーセンテージが8割近くとなっていた。
この世論調査を受けて、カナダ政府が陸軍の3州への派遣を密かに考えていた矢先に、中南米軍のロボット配備となり、カナダ政府は動揺していた。
もう一箇所が、英国連邦と袂を分けたキプロス共和国だった。女王の崩御後、英連邦からの離脱を願ったのが、主に島の北部に居住する、島の人口の3割を占めるトルコ系住民だった。当時は民族間で統合した国家となり、トルコ系の政権だったが、近年はギリシャ系の政権が続き、英国連邦を回顧する動きが見られるようになっていた。EUに近いキプロス島で再び覇権を握る夢を持った英国は、ギリシャ系住民への融和姿勢を見せて接近してゆく。南太平洋でフランスが中南米諸国と対峙し、南沙諸島では中国と中南米軍が睨み合い、アメリカ東岸でアメリカを威嚇し続ける中南米軍の3箇所での対立構造が実現すると、キプロス島に軍を派遣して、トルコ人居住区の排斥運動を支える方針を掲げた。嘗てのギリシャ系住民と北部のトルコ系住民の対立構造を再燃させる、イギリスらしい卑怯な誘導策だった。予てから、イギリス諜報部が多数派のギリシャ系住民を取り込む活動を企てているのを、中南米諸国は察知していた。トルコに駐留している中南米軍の特殊部隊が、密かに増派している英国軍に妨害工作を始めてゆく。MI5やMI6の諜報員や構成員に飲んだくれを装おった中南米軍兵士がストリートファイトを挑み、病院送りにしてゆく。イギリス人にはギリシャ系住民と欧州系アルゼンチン人、ウルグアイ人との違いが全く分からない。
キプロス島の病院には何故か脚や腕を骨折し、顔の腫れ上がった英国のパスポートを持つ入院患者が急増してゆく。外国なので英国の保険が使える筈もなく、多額の請求が英国に舞い込むようになる。訓練している筈の諜報員が毎日の様に入院してゆくので、工作活動に支障を来たすと判断したイギリスは、キプロス兵の軍服を纏った英国兵を増派してゆく。「キプロス軍に活動の兆し有り」とキプロスのメディアが報じると、トルコ系住民の居住区に人型ロボットとサンドバギーが配置され、警備を始めてゆく。「万が一の住民同士の衝突に備えて、トルコ駐留のロボット部隊を派遣した。必要とあらば、ジャマイカ部隊とキューバ部隊を派遣してトルコ系住民の居住区をバリケードを築いて住民を保護する用意がある」とトルコ駐留の中南米軍ジャマイカ部隊のランニング少将がアナウンスすると、5mタイプの武装したロボット部隊が島の北部から上陸する。北部の沖合に浮上した5隻の潜水空母から放たれたレーダーに表示されないドローンと、全長2mほどのジェット無人機がキプロス島上空を縦横無尽に飛び回り、島の制空権を掌握してしまうと、その時点でチェックメイトとなる。
カナダもキプロス島もそしてポリネシアも「不測の事態を避けるために住民を保護する派遣だ」として、国連での討議を求めてきたカナダ、フランス、キプロスの3カ国にコロンビアの国連大使が返答する。各所の航空写真と衛星画像を議場に提示して、中南米諸国が国際世論に訴え続けていると、データを出しもしないで「侵略だ」と一方的に喚いている3カ国の国連大使の方が次第に分が悪くなってゆく。
韓国と南沙諸島での壮絶な軍事演習の模様が、動画編集されて各国で大量のアクセス数を誇っていた。Angle社の元社長が動画を編集しているのだから当たり前なのだが、映像としての仕上がりが群を抜いていた。 「3カ国の軍隊は、どう足掻いた所で中南米軍に勝てない」と世界中の誰もが認識している。しかも派遣されたロボット達が持っている装備はゴム弾の装填された兵器であり、弓や刀、薙刀、大槌などだった。殺傷を前提としていないPR活動も、事前に入念に行なう周到さだった。
3箇所への国連の監視団が派遣が決まると、慌てるのは英仏加の3カ国となる。病院に入院している多数の英国の諜報員と、落書きどころか、傷だらけの船底等の隠していた事実が露呈しかねない。3カ国が訴えを撤回して、国連がその先を問わなくなると、中南米軍は3箇所に増派目的の部隊を更に投入し、体制を固めてゆく。 国連に於ける作法を知る者達でベネズエラ政府が構成されている状況を指摘するメディアは・・残念ながら皆無だった。
ーーー 中南米諸国の関与を全てを表ざたに出来ないジレンマを抱える各国は、苦々しい顔をしてニュースを見ることになる。東アジアで活躍するプロ選手達の一部が、日本や北朝鮮でのレンタル契約期間満了が近づいた頃を見計らって、ブラジル、アルゼンチン、メキシコ、コロンビア、キューバ、プエルトリコ、チリ、ウルグアイ、パラグアイの大統領と外相が、モリと共に北朝鮮と台湾、日本の3カ国を表敬訪問に訪れていた。最初の訪問国、北朝鮮には日本の杜 里子外相も加わり、中南米各国の大統領を北朝鮮の首脳陣と一緒になって饗している。 北朝鮮の越山と櫻田にとっては、ベネズエラ大統領、外相として同僚だった人々ばかりなので、旧交を温めているかのような映像だった。モリと里子外相が、二人の養女であり長女でもある杜 杏大統領秘書官を間に挟んで、セットで北朝鮮スタッフのとして甲斐甲斐しく応じていた。Angle社元社長が養父の秘書官に就任していたのだと広く浸透してゆく。数日経つとベネズエラの「東アジア駐留大使」に任命されるのだが。
韓国とアメリカの同系宗教団体通しの抗争や、ポリネシア、カナダ、キプロスの中南米軍の配備などまるで無視したかのように、大統領と外相達がスタジアムでビールを飲んで、野球とサッカー観戦をしている。
平壌を去って、台北に移動する航空機に乗り込む前に、何かを思い出したかのように団長役のメキシコ大統領がマイクの前に移動すると「中南米諸国として10兆円の投資を北朝鮮と旧満州内で行い、中南米諸国の重要拠点としての立場を更に強化してゆく」と発言して、大統領達はガッツポーズをしたり、ハイタッチしながら機内に乗り込んでいった。台湾でも、日本でもそれぞれ10兆で、合わせて30兆円の大型投資となるというので、暫くニュースはそれ一色となり、隣の韓国で抗争中の宗教関係者で死傷者が出たとか、ロスアンゼルス郊外の宗教施設が爆弾で破壊されたとかいったものは、国際ニュースにすら取り上げられもしなかった。仏英加の3カ国に加えて、中国にとっても屈辱的なニュースだったのは言うまでもない。
(つづく)
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