ロマン主義を考える(12) 恋愛、それは人間と伝統の戦い。【『ゲーム制作のための文学』】
アメリカ独立とフランス革命は、革命家達の想像力が存分に発揮された新しい国家の創造でした。
ロマン主義により私たちは何が正しいのかを書物に求めるのではなく、経験と観察と想像力、両親に求めるようになりました。美術では、宗教画ではなく風景画が描かれるようになりました。
革命が戦争ではなくて革命であるのは、それが自由主義というイデオロギーのための戦いだからです。
ホメロスの時代、それぞれの国は自分達の神のために戦っていました。しかし正しい神は一人であり、そして正しい信仰も一つです。
二つの正義ではなく、絶対な善と絶対的な悪の戦いが、革命がただの二つの異なる正義の戦いではなく、善悪の戦いに変えます。
そして、何が本当の善であり何が本当の悪であるのかを決定するためには理論が必要です。この理論が自由主義の理論であり、そしてイデオロギーと呼ばれるものです。
このアメリカ独立やフランス革命のイデオロギーに対して、抵抗したのがイギリスのエドマンド・バークです。
正義の押しつけによる革命や独立ではなくて、今までの社会を成り立たせている伝統を大切にすることを主張しました。
そして、ロシアとイギリスは保守陣営としてナポレオンと戦い、そして自由主義陣営を倒してウィーン体制を築きました。
もちろん、歴史はここから始まります。
1856年、クリミア戦争でロシアが西側諸国に敗北すると、またヨーロッパで自由主義の活動が活発化します。
それだけでなく、クリミアの天使ナイチンゲールのような、科学と数学を武器にした強い女性達が活躍するようになります。
ドイツではワーグナーが英雄を称えるオペラ、『ニーベルングの指輪』を作曲して音楽はロマン主義の最盛期を迎えます。
保守陣営としてクリミア戦争で敗北したロシアは、自由主義や社会主義よりも伝統的キリスト教を重視するドストエフスキーやトルストイという作家を誕生させます。
そして、文学の世界では、遅れてきたロマン主義者であるブロンテ姉妹の小説群が評判になります。
ブロンテ姉妹の長女、シャーロット・ブロンテが代表作である『ジェイン・エア』を発表したのは1847年です。
そのため、彼女の作品はクリミア戦争終結前です。
『ジェイン・エア』この作品は、まさにクリミア戦争における西側諸国とロシアの戦いをそのまま擬人化したような恋愛小説です。
この小説の女主人公であるジェインは、まさにロマン主義を体現したような女性です。
物語を読むのが好きで、想像力に富んでおり、そして感性豊かで美しいものを見て美しいと思う女性です。
同時に、彼女は保守的なキリスト教に苦しめられる女性でもあります。
リベラルは独善的で保守こそが善。人間は苦しめれば苦しめるほど心が清らかになると主張する学校の先生に従順だったジェインの幼馴染みは、過酷な環境により命を落とします。
ジェインは神に与えられた命は、そして人生は大切にしなくてはならないとロマン主義的な、自由主義な悟りに至ります。
ジェインの前には二人の男性が現れます。
一人は、人生を楽しむ自由主義的な男性です。彼は貴族で堕落していますが自分の人生を大切にできる人です。
もう一人は保守的キリスト教徒です。
彼はジェインに言います。
私には夢がある。すべてがアジア人をキリスト教徒にするという夢が。全世界をイギリスの植民地にするという夢が。
ジェインは保守的男性、保守的な夢を語る男性に惹かれていきますが途中で彼を危険だと思い離れようとします。
保守的男性はジェインを精神的に追い詰めていきます。お前にはキリスト教的な神を愛する熱意がないのか、自己犠牲の精神はないのか。
女は男に従うことこそが喜びである。男の夢を共に追いかけるという保守精神はないのかとジェインを追い詰めます。
しかし、ジェインは自由主義的な男性を選びます。
彼女は男性に隷属してキリスト教の犠牲になるよりも、家庭を持ち、自分の人生を豊かにすることを選んだのです。
保守的男性は自らの保守精神を発揮して、インドにキリスト教を布教する戦いで命を落とします。
『ジェイン・エア』にはライバルとなる女性も登場します。この悪役令嬢は保守に育てられた保守的女性です。
教養よりも保守的女性らしさを叩き込まれており、そのため男性から魅力がないと思われて婚約破棄されます。
ロマン派詩人が活躍していたアメリカ独立、フランス革命の時代は理性と感性による新しい世界が描かれていました。
そして、最終的には、自由主義と保守の戦いとして、ロマン主義文学は完成していきます。
自由主義イデオロギーをいうと、まるで特定の価値観の押しつけのように思えますが、価値観を押しつけるのはイデオロギーではなく伝統です。常識や伝統が個人を押しつぶします。
ロマン主義のおける、保守とは何でしょう?
それは偽善者です。
保守は人間の感情を否定して、人間性を否定して、人間を苦しめることのみを目的に生きています。
なぜなら、他人が苦しむ姿を見るのが楽しいからです。
保守は他人が苦しむ姿を見るために、神を利用します。神を利用することにより自己犠牲と貧困を強制します。
人間は死ねば天国に行くのだからという理由で、保守は他人をいくらでも苦しめて殺すことができます。
だからこそ、自由主義者は保守と戦わなくてはなりません。
保守は邪悪な人間の伝統に汚染されており、そのために世界を創造した神を見失っているのです。
というのが、ロマン主義の世界観です。
文学史において、善悪の戦い、ロマン主義の時代が終わると、リアリズムの時代が来ます。
ロマン主義は文学運動としては衰退しますが、しかしロマン主義の物語構造は現代に至るまで途切れることなく続いています。
英雄や聖女は、保守という悪を倒すために戦います。
日本でもエンターテイメントの世界では、ロマン主義に基づき、自由主義と保守が戦い続けています。
今日で『ロマン主義を考える』を終えます。これまで、読んでいただきありがとうございました。
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