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TRPG制作日記(75) 容姿7

私たちが豊かな人生を生きていくためには多くのものが必要です。衣食住教育医療という基本的なものは当然として、家族や恋人、友人たちと過ごす時間や文化活動に参加することも、私たちが私たちとして生きていくためには必要とされるものです。

そして、これらのものはすべて商品を必要とします。お金で買えない大切なものがある以上にお金で買える大切なものは多いのです。


昨日は恋愛小説について書きました。

私たちは大きく二つの能力を持ちます。一つは自分自身を他者の人生を豊かにする存在となす力、使用価値にする能力です。自分自身を一種の商品にする能力ということもできます。これが「技術」です。

そして、もう一つは他人から奉仕して貰う能力。相手の愛情と時間を奪う能力です。これは「権力」と呼ぶことができるかもしれません。

容姿とは後者に属する能力です。

それは本人が他人にどのような豊かさを与えるのかに関係なく、周りの人物を自分に奉仕させます。

美しさとは富を吸い上げる力なのです。

そして、恋愛小説とは、悪役令嬢の「容姿」や「地位」という邪悪な能力に汚染された男性たちを、お菓子を作ったり楽しい会話をしたりして、ヒロインが救済して結婚する物語です。


ヒロインの能力は使用価値として男性たちの前に現れます。

そして、私たちが他者の人生を豊かにする技術は、資本主義では商品として購入可能な対象になります。

今日は商品について書きたいと思います。


資本主義が支配する社会では、世界は商品の集まりとして現象します。

これは百貨店やスーパーマーケット、コンビニエンスストアなどで私たちが日々買い物をしているというのではなく、そもそも筆記用具や高層ビル、スマートフォンや部屋の天井など、私たちが生活のなかで見かけるすべてのものが誰かの技術によって生まれているということです。

私たちの生活で使用しているもので、誰かの技術により支えられていないものなどほとんどありません。水も、そして空気清浄機によりきれいになった室内の空気すらも技術者の力により生まれるのです。

さて、商品は購入します。購入するということは、商品には値段が付いています。

以前、300万円の絵画Aと1000万円の絵画Bでは、以下の等価交換方程式、

10A=3B

が成り立つことを指摘しました。一般化すると、あらゆる商品は

aA=bB

で結びつけられることになります。

等価交換方程式を説明するときに、絵画Aと絵画Bという値段が付いた具体例からスタートしましたが、実際はまさに値段こそが等価交換方程式により計算されます。

等価交換方程式で世界のすべてを結びつけると、

aA=bB=cC=dD=...

と無限に続きます。そして、基準となる商品のMを仮定することで、

A=(m/a)M

B=(m/b)M

C=(m/c)M

……

とあらゆる商品をMの倍数として表現できます。このあらゆる交換価値の基準となるMは貨幣で、日本では「円」が該当します。

このように等価交換方程式を利用することで、恐ろしいことに、私たちが見て感じることができるほとんどすべてのものは数値化されて、ランク付けされてしまいました。


等価交換方程式によりランク付けされる価値は、使用価値に基づくランクではありません。

これは交換価値によるランク付けです。

そのため、1000円の絵画Bのほうが、300万円の絵画Aよりも必ずしも他者を感動させたり他者の人生を豊かにできるわけではありません。

好きな絵は人それぞれであり、絵画Aが好きな人もいるはずです。

むしろ、1200円のライトノベルが300円で購入できる夏目漱石の小説よりも必ずしも人々の心を強く打つことがないと信じられるように、交換価値が低い方が使用価値が高いことは珍しくありません。

3万円の万円筆よりも、どこでも売られている300円のボールペンの方が社会に貢献して活躍しているものです。


この交換価値と使用価値が異なることは人間においても同様です。

私たちは技術や労働力という使用価値を保有する商品として労働市場で売買されていますが、そこでも等価交換方程式の力の影響下にあり、私たちは収入という交換価値でランク付けされます。

しかし、交換価値と使用価値は異なります。

よって、年収が低いからといって、それがその人たちの社会への貢献度が低いことにもなりませんし、また能力が低いことにもなりません。能力とは本来は使用価値によるものだからです。


恋愛小説が容姿で勝負する悪役令嬢と、使用価値で勝負するヒロインの戦いであるということは、資本主義でありがちな高価な商品は良い商品であるという価値観にたいする戦いでもあります。

ヒロインとは、存在への意識を交換価値から使用価値に変革することにより人類を救済する存在です。

この点でヒロインの究極の本質は「革命」です。

それは私たちの価値が社会から与えられるのではなく、まさに私たちの価値は私たちが他者の人生を豊かにすることにより決まるという理想社会に人々の目を向けるのです。



さて、300円のボールペンは3万円の万年筆よりも社会に貢献していることは間違いないと思いますが、実際に所有されたときに大切にされるのは3万円の万年筆です。なぜなら、購入するのに100倍のお金を払ったから。

容姿が愛情を奪う能力であるのと同様に、交換価値もそれ自体が愛情を奪う能力を持ちます。

魔法なくして、ヒロインは本当に資本主義による価値観を打ち破ることができるのでしょうか?


今日は以上です。最後まで読んでいただきありがとうございます。

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