「帰れない」この思いを忘れずに受け止める
年の瀬に毎年思いを馳せることがある。
社会人になって20年以上、大晦日や正月もあまり休まず出勤していた。ただしここ数年は職場や立場が変わったこともあり、仕事はあれども比較的ゆっくり過ごしている。
入所・入院施設やグループホームのような365日開所の事業所に勤めていると、誰かが大晦日も正月も勤務することになり、かつ誰かが職場で年を越すこととなる。私も何度も「年越し夜勤」をしたものだ。今年もその役割を担う支援員の方々には最大限のねぎらいを表したい。
晴れていれば確実に初日の出を見ることができるなど、年越し夜勤にはメリットもある。しかしそれ以上に、この世界に身を置く上で忘れてはならない大事なことを感じ取る日でもある。
施設にもよるかもしれないが、年末年始のような長期休みは、多くの利用者が家族のもとへ一時帰宅する。家族と離れて暮さなければならない利用者にとっては欠かせない時期だ。
たとえ短い期間だったとしても、家族と触れ合う時間を持つことは、とても大切なことである。それは、迎えに来られたご家族に対し、様々な表情で駆け寄る利用者の姿を見ると良くわかる。我々支援者は、どれほどクライエントと信頼関係を築いたとしても、家族との関係には勝てないし、また勝ってはいけないと思っている。
ただ、一方で忘れてはいけないのが、一部「帰れない」「帰るところがない」利用者も存在するということ。
彼らに対しては、特にこの季節にはある種特別な対応が必要になる。
諸事情ですでに家族との関係が消滅しているクライエントもいれば、そもそも赤子の頃から親の愛を知らないクライエントも多く存在する。
家族との関係を重視する一方で、家族がなく帰るところがないクライエント双方を平等にサポートするのがこの時期特有の関わり方となる。
決して欠かせない視点である。
筆者自身家族はなく、両親もだいぶ前に亡くしており、実家もない。
この時期にニュースなどで流れる、正月を親御さんの実家で過ごす家族や迎える祖父母の新幹線や空港などの映像はまるで別世界のような感覚を覚える。
これは私だけではなく、先述した「帰るところがない」クライエントや、この世の中で一人寂しく過ごす人たちも似たような感情を抱きやすい。
私はこれまでは積極的に年末年始は仕事を入れてきたが、ただ闇雲に正月返上で働くというのではなく、「帰るところがない」クライエントと、この大晦日お正月を一緒に過ごすことを大切にしたいひと時としていた。
彼らがダイレクトに寂しい思いを受け止めないよう、いつもよりも手厚く寄り添い、彼らのニーズを優先した年末年始の過ごし方を提供すること。これが、彼らが逆にこの時期を楽しみにしてくれるきっかけとなれば私も嬉しい。そんな思いで取り組んだものだ。
ちなみに、よく質問されるのが「年末年始は何をして利用者と過ごしますか?」
初詣やドライブなど、外出する機会を増やせば喜んでいただけるが、この時期は正月休暇を摂る支援員も多く、人手がかなり少ないため、毎日行うというわけにもいかない。
そのため、よくやったのが「新聞広告を見まくる」。この時期の新聞広告は確かに心躍る。取り合うように広告を見ていたこと、よく思い出す。
他にも、私が勤めていた施設ではこの時期だけ「こたつ」を用意した。皆が嬉しそうに身を潜らせる光景は私の楽しみの一つであった。
これらは、特別大きなイベントを企画することよりも大事な、「世間一般の人たちと同じように『正月気分』を味わう工夫」である。今でも続いているのだろうか。
私自身もこの時期に彼らと過ごしたあの日々は今でも印象強く残っているし、いつもふと思い出すヒトコマだ。
「つながり」や「絆」が名ばかりの偶像になりつつあるこの現代社会において、一人でも多くの「寂しさ」をぬぐえるよう、来年も何らかの形で創意工夫してサポートしていきたい。
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