
自分で決めたことだから
2015年の5月から、芦屋の公園で野外アトリエを開いています。
参加者は未就学児と保護者が主ですが、小学生もちらほら、中学生も時々来てくれます。老若男女誰でも参加自由です。参加費は取っていませんが募金箱を置いていて、集まった募金で画材などを購入させていただいています。
一人でひっそり、且つ衝動的に始めたので(ずっと考えてたことではあったのですが)、広報的なことは何もしないまま4年目を迎えた頃の話です。
ある日、小学校低学年のAさんが一人で絵を描きにきました。受付をしている間に募金箱に目が留まり、「これなに?」と聞いてきました。「募金箱だよ。楽しかったなー、またここに来たいなーって人がここにお金を入れてくれるんだ。お金がたまったら絵具とか画用紙を買うの。また楽しく絵が描けたらうれしいでしょ。その人はお金と、また絵が描けたらうれしいなあって気持ちを入れてくれてるの。」と答えました。
Aさんは「ふうん」と表情を変えることなく、そのまますぐに絵を描きにいきました。
2枚ほど描いて、「今日はもうこれでおしまいにする。」と言いました。私が描いた絵を取りにいっている間に、その子は財布から100円を取り出して募金してくれました。
「わあ!ありがとう!」とお礼を言うと、「だって、楽しかったし、絵具買ってほしいから。また描きたいし。」「これは自分のお金だから、自分で考えて使っていいんだ。」
私にはっきりとそう言ってくれたAさんに感動して、思わず、おうちの方に簡単な手紙をその場で書いてAさんが描いた絵と一緒に渡しました。
『Aさんが自分のお小遣いから100円を募金してくれました。とてもうれしかったです。大切に使わせていただきます。ありがとうございます。』とアトリエ名と名前を書きました。
3か月して、久しぶりにAさんがアトリエにきました。
1枚描いて、「今日は用事があるの。」「そう、じゃあ、絵を持ってくるね。」と取りに行こうとすると、
「募金ももうできないんだ。」と言いました。
「お母さんに怒られた。募金なんかしちゃダメだって。」
下を向いたまま話してくれたAさんのそばに行き、話を聞きました。自分のお小遣いではあるけれど、母親に言わずに黙って貯金箱から持ってきて、使ってしまったことが要因のようでした。書きなぐったような手紙も怪しさを増していたことでしょう。。。反省です。
「でも募金してくれて、私は本当にうれしかった。絵具を買ったら、またAさんが楽しんでくれるかもって思ったんだ。」と伝えると、少し顔を上げて微笑みましたが、すぐに下を向いてしまいました。
そう伝えながら、悲しい顔をしているAさんを見て、入れてくれた募金をどうしようかと私は悩みました。
「うれしかったけど、お母さんに怒られてしまったのは悲しいから、募金返そうか?一度、お母さんに相談してくる?」と言うと、すぐに顔を上げてはっきりといいました。
「返さなくていい。これは自分のお金だから。」
「自分で決めたことだから。」
ガーンと頭を打たれた気持ちになりました。
私はこの子の気持ちを返そうとしてしまった。
なんて恥ずかしいことだろう。
「そうだね、気持ちを入れてくれたんだもんね。返そうとしてごめん。」と謝りました。
にこっと笑って「うん。」「本当に返さなくてもいいの。」と言いました。
「今度、お母さんと一緒においで。どんな人がここにいるか、何をしているかわからないからお母さんは心配してるんだよ。」と言うと、「わかった。でもお母さんは忙しいから来れないかも。」と言うと、さっと自転車に乗って帰っていきました。
このことがあってから、名前と顔を出して、アトリエの概要が書かれたカードを作成しました。Aさんのお母さんに届いているかはわからないけど、そうしたことでより多くの方に知ってもらえることとなり、いろいろな人との出会いと経験がありました。
外に向かって、名前と顔を出すことは恐怖に近いことでしたが、これからも野外アトリエを続けていくにあたって素通りできないことでもあり、覚悟を問われたような出来事でした。
Aさんは今でも時々遊びにきてくれています。お母さんにも会えたらいいな。