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精神分裂症のパパとわたし

わたしには60歳になる父がいました。

母も姉たちも父自身でさえもパパと呼びます。
全然、パパという言葉からはかけ離れた容姿、存在感。

農家をしていた父の肌は日焼けをして赤黒く、
体はがっしりとしていている。
笑うと片方あがる、ふさふさの眉。
まつ毛はくりんとカールして、
目鼻立ちがはっきりしていて
シャツの胸元からは胸毛がとび出している。
ピュアで下ネタ嫌いで冗談が通じなくて
母のことを愛していて、
そして病気に苦しんでいた。
パパが初めて病院で診断された時は
それを精神分裂症と呼ばれていた。

パパはいつも何かに怯えて、不安でいる。
誰かが自分を探していると
その存在しない誰かを探していた。

パパはそこに存在があるだけで
存在していない。娘たちの声も届かない。
パパのまわりには目に見えない
厚い壁の箱があり
そこに入っているんだと
幼いわたしは思っていた。

そんなパパが亡くなった。
自らの意思で59歳を迎えた秋に。

突然でもないか。パパはわたしが幼い頃から言っていた
「パパは60歳になったら死ぬよ。」って。

箱の中でもいいから其処にい続けて欲しかった。
たまに大きな声で呼ぶと箱の中にいるパパが
わたしに気づいてくれる。

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