工房こそが舞台、ストップモーションアニメーションスタジオ 『TECARAT』
今回は、太陽企画のストップモーションアニメーションスタジオ「TECARAT (テカラ)」のご紹介です。
「100年後も残る映像を目指して」を合言葉に、ストップモーションアニメーションを軸に、オリジナルコンテンツづくり、広告におけるアニメーション撮影、美術制作をしているチームです。個性的なクラフトワークで知られる「TECARAT」の強みや取り組みなどをご紹介いたします。
▷ 「手から生み出す」TECARAT
「TECARAT」は、2015年に太陽企画社内の“ものづくり”スピリットが集結した、オリジナルコンテンツの制作チームとして設立されました。TECARATの発端となったのは、1991年からあった「考える工房」という社内工房です。「考える工房」は、出道具や仕掛けの考案、撮影商品の加工などを、社内スタッフが自らの手で考えながら作ることができるように用意された工房で、そこにはアドバイザーとして現在TECARATの美術デザイナー根元緑子が常駐していました。
その工房を常連のように使っていたのが、現在TECARATを率いる八代健志ディレクターで、CMに使うアニメーションを作るために、考える工房に入り浸っていました。
初期は簡易的なアニメーションだったのですが、年々自分の手で本格的な人形アニメーションを作りたいと思うようになり、2011年に工房の閑散期を見計らってパイロット作品を自主制作しました。
そのパイロット作品に目を留めたのが、現在TECARATでプロデューサーを務める及川雅昭でした。当時、社内では自社で権利を持つ作品の必要性が謳われ始めた頃で、及川はプラネタリウムで上映する自社オリジナルの作品として、八代の立体人形アニメーションの事業化を計画しました。
プラネタリウム界では大ヒットといわれる『ノーマン・ザ・スノーマン』シリーズが誕生したのはこの時です。これをきっかけに、人形アニメーション制作が恒常化し、社内から手を動かすのが好きな人間が集まるようになり、人形制作から美術制作、アニメーション撮影までを完結できる「人形アニメ工房」とも呼べるチームが出来上がってきました。
プラネタリウムを中心に数本の作品を発表し、プラネタリウム界ではこのチームの存在感が目立ち始めたところで、より広くより深く制作機会を広げていくために、社内的に正式に組織化し制作環境を整えたのが「TECARAT」です。
「TECARAT」の語源は「手から生み出す」というスピリットです。起点となった「考える工房」と、そこから派生した「人形アニメ工房」。
スピリットを共有する社内の二つの工房が合流し、手を動かす舞台、すなわち工房から新しい表現を生む部署としてスタートしました。
▷ 多様な肩書きを持ったチーム
“手から生み出す”がスピリットのTECARATには、自ら手を動かすことが好きな様々な肩書きのスタッフが所属しています。いろいろな肩書きのスタッフが所属しているわけの1つは、TECARATのオリジナル作品制作にあります。オリジナルアニメーション制作にあたり、 企画に演出、美術制作・人形制作・アニメート・照明・撮影と、ほとんどの部分をTECARATのスタッフ自ら、もしくはその管轄のもとで行っています。
少人数なこともあり(現在6名)、あえて担当パートを明確には分けず、1人がいろいろな役回りをこなしています。その結果、マルチに対応できるスタッフが増え、アニメーターやディレクター、デザイナーに撮影監督など、一人が多様な肩書きを持つチームになりました。
また、TECARATスタッフは、アニメーション以外でキャリアをスタートさせた人たちばかりなので、いい意味でアニメーションに過度の「憧れ」を持っていません。少し引いて外から見ているような感じです。それ故にチームとして「アニメーションらしくないアニメーション」に向かう傾向があり、それが他のアニメーションスタジオにない表現に繋がっています。
▷ 他にはないTECARATの特徴
アニメーションの世界では、TECARATは個性的なアートワークのスタジオとして知られています。
手から生み出すことを大切にしているため、ガサついた質感、言ってみれば人の手で探った痕跡を色濃く残す作風が特徴です。TECARATが手掛けた『眠れない夜の月』や『劇場版 ごん - GON, THE LITTLE FOX -』で使用した木彫りの人形のように、古くから馴染みのある素材感や、数値化しづらい不規則な造形など、ハンドクラフト的なものを得意としています。
また、TECARATの得意の撮影手法として「ロケーションでのアニメーション撮影」があります。人形を動かしながら1コマずつ撮影をするコマ撮りは、通常はスタジオで撮影します。刻々と変化する太陽や雲、予想不可能な風などがある屋外での撮影は、コマ撮りには不向きと考えられていました。そんな「ロケコマ撮り」に八代監督がコロナ禍の在宅期間中に挑戦し、16分の短編アニメーション『プックラポッタと森の時間』を完成させました。
この「ロケーションでのアニメーション撮影」のノウハウは、他にはないTECARATの強みで、『プックラポッタと森の時間』は、毎日映画コンクールアニメーション部門にて大藤信郎賞を受賞しました。(大藤信郎賞は、主に「実験的な作品」が対象になっています。)
▷「オリジナル作品」と「クライアントワーク」の二輪走行
TECARATはオリジナル作品制作を行う一方で、クライアントワークの広告映像制作にも携わっています。関わり方は様々で、アニメーション全体を請け負うこともあれば、美術・人形制作だけや、アニメート(人形等を動かすこと)だけで受けることもあります。
例えば、2023年10月〜2024年3月に放送されたNHK連続テレビ小説『ブギウギ』のオープニング映像では、マリオネットのような操演の人形が登場しますが、この人形の制作と操演をTECARATが担当しました。アニメーションと操演、双方を取り入れた人形もTECARATの特徴と言えます。
▷https://youtu.be/EfcdZvcEqlE?si=Ib7KXHOdnJ8fWtIL
前述の『プックラポッタと森の時間』のように、新しい表現が形になったオリジナル作品は、クライアントワークの場面では作風の見本として機能します。お互いが目指すものを幸せにマリアージュして作業を円滑に進めるのに役立っています。またその逆も然りで、クライアントワークで、社外のディレクターと一緒に仕事をすることにより、新しい視点や考え方を学ぶことも多く、それがオリジナル作品に生きることもあります。TECARATはこの「オリジナル作品」と「クライアントワーク」の二輪走行によって、新しい表現の開発と活用を織り重ね、独自の作風を作り上げています。
▷ 注目作品 ストップモーション時代劇『HIDARI』
これまでのアニメーション制作の常識に捉われず、様々なことに挑戦しているTECARATですが、今絶賛挑戦中なのが、クリエイティブスタジオの「Whatever」とアニメーションスタジオの「dwarf」と、3社で製作を進めているストップモーション時代劇『HIDARI』です。
『HIDARI』は、実存したか否かが定かではないが、数多くの作品と逸話が残る江戸時代の彫刻職人「左甚五郎」の物語を、左甚五郎の作品と同じ“木彫”による人形を使って描く“ストップモーション時代劇”です。5分のパイロットフィルムを公開していますので、まずはこちらをご覧ください。
彫った動物が命を吹き込まれるといった逸話が残る左甚五郎。その逸話をなぞるように、本作の⼈形は全て⽊彫で作り、⽊ならではの素材感を活⽤した演出も開発し、「⽊」にとことん拘った独自の映像美を作りだしています。本パイロットフィルムでは、TECARATが木彫の人形制作と美術制作を担当しています。希少な研究書なども活用し時代設定に合わせつつも、大胆な考察のプロダクションデザインを披露しています。
現在『HIDARI』は、本編となる長編映画の製作に向けて進行中で、一緒に製作いただけるパートナーを絶賛募集中です。『HIDARI』の詳しい情報・新着情報などは、公式ホームページをご覧ください。
▶︎『HIDARI』公式HP:https://hidari-movie.com
▷ 今後の目標
将来的には長編アニメーションも制作していきたいと思っています。
短編アニメーションで育ったTECARATにとって、初めての長編となる『HIDARI』は規模の面でも大きな挑戦なのですが、同時に大切なステップです。「ロケコマ撮り」や「アニメーションらしくないアニメーション」など、実験的な小作品で表現開発にも取り組みつつ、長編アニメーションを制作できる“大きなキャパシティの獲得”を、大きな中長期目標にしています。
これからも面白いもの・楽しいものを作っていきますので、ぜひ今後のTECARATの活動に注目していただければと思います。
▶︎ HP:https://tecarat.jp/
▶︎ X:https://twitter.com/TECARAT1
▶︎ Instagram:https://www.instagram.com/tecarat_studio/
▶︎ facebook:https://www.facebook.com/tecarat.taiyo/
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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