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2025年東京大学理系数学の総評
1. 全体概観
試験時間は150分で大問は6題、配点は120点となっています。すべて記述式ということで、自分の思考過程をきちんと表現する能力が求められるのが東大数学の特徴です。
今年は、昨年までに比べると誘導が少なく、やや手ごわく感じられるセットになっているようです。ただし、「昨年と難易度に大きな差はない」という印象の受験生もいれば、「問題数や計算量の多さでやや厳しい」と感じる受験生もいるはずです。いずれにせよ、東大理系数学らしく幅広い分野からバランスよく出題され、微積分・複素数平面・整数論・数列・図形など、代表的な単元がしっかりと網羅されています。
特徴的なのは、ここ数年あまり顔を出していなかった複素数平面の問題が復活した点です。一方で、毎年のように出ることもある「空間図形」に関する問題は見られず、幾何は平面ベースに留まっています。また、文系との共通問題は今年度も存在せず、すべて理系特有の問題セットでした。
試験時間の150分を6題で割ると1題あたり25分ですが、実際の難度や計算ボリュームを考えると、問題ごとに時間配分を変えていく必要があるでしょう。特に長めの計算を要する大問や、漸化式・不等式の評価などステップが多い問題では、解法を確信できない段階で粘りすぎると他の問題に割く時間がなくなるリスクがあります。
今年の出題で見られたキーワードをまとめると、次のような点が挙げられます。
✨複雑な計算を丁寧にこなす力
✨不等式や極限の評価テクニック
✨整数論(平方数の判定や剰余など)の論理展開
✨三角関数を使った図形的発想
✨複素数平面を幾何学的に捉える思考
どれも東大理系数学としてはオーソドックスなテーマではありますが、今年は「誘導が少ない」「計算が長め」という声が多いので、最終的な答えにたどり着くまでの段階的な思考や、記述の説得力がより重視される印象です。
全体としては、昨年と大きく変わらないか、あるいは少しだけ難化したと捉える人が多そうです。出題量そのものは大幅に増えたわけではないですが、「問題文の中に細かい処理を要する要素が散りばめられている」ため、時間配分を誤ると取りこぼしが発生しやすいでしょう。
では次に、大問ごとの内容を順番に見ていきましょう。
2. 大問ごとの分析
ここでは、それぞれの大問について出題分野・主題・難易度などをざっくり解説します。自分が受験生の立場に立って「解き始める順番をどうするか」「どの大問を確実に取るか」を考えながら読んでくださいね。
◆ 大問I(図形と方程式/正方形や曲線の長さ:標準)
幾何寄りの問題です。座標平面上に正方形を設定し、その辺の「内分点」を連続的にとっていくと出来上がる曲線を扱う構成になっています。この曲線に対して「面積」や「長さ」を求める流れが想定されているようです。
💡ポイント1:パラメータの設定
曲線の形状をきちんと捉えるには、$${x}$$ と $${y}$$ をそれぞれどんな式で表すかを明確にするのが大切。変数の取り方を上手く整理すると、ルートが絡む式でも比較的スムーズに処理できます。💡ポイント2:根号の外し方
弧長を求める際に現れるルート部分をどう扱うかが山場。微分法や幾何的な工夫を使って式を単純化する練習がモノを言います。💡ポイント3:計算ミスに注意
何点も連続的に内分していくような手順なので、ちょっとした計算のズレが次のステップに響くかもしれません。序盤から紙に図を描いて、各点の座標を一貫してチェックすると安心ですね。
難易度は「標準」レベルで、東大理系としてはオーソドックスな幾何×微積の融合問題という印象。なんとか完答を目指したい大問です。
◆ 大問II(微分法・積分法・極限:やや難)
定義された不等式と定積分を絡めて極限を求める問題です。最初の(1)では不等式を証明するステップがあり、それを利用して(2)の極限計算へ進むような構造となっているようです。
💡ポイント1:(1) の不等式の証明
ここで与えられる評価をそのまま暗記している人はいないと思いますが、よくある平均値の評価や、単調性を使った定積分の上下評価など、基本的なテクニックの総合力が問われます。💡ポイント2:(2) の極限への応用
「(1)の不等式をどう当てはめるか」を自分で組み立てられるかどうかがカギ。上手く評価式を選ぶと、(2)での計算手順を短くできる可能性があります。💡ポイント3:微分積分の本質理解
不等式と積分・極限の融合は、東大含めた難関大で頻出のアイデアです。教科書レベルの公式に加えて、自分の頭で「こういう評価が成立するからこれを使おう」と柔軟に発想できるようにトレーニングしておきたいですね。
問題自体は発想さえつかめればゴリゴリ計算するほどではないかもしれませんが、序盤で方針を見失うと時間を浪費するリスクがあります。慎重に見極めたい、大問の中ではやや難度が高めのカテゴリーです。
◆ 大問III(三角関数・平行四辺形と長方形:標準)
与えられた平行四辺形を取り囲む(または内接・外接する)長方形の面積最大化問題です。辺の長さや角度を三角関数で表して、最適条件を探るタイプですね。
💡ポイント1:三角関数による辺の長さ表現
平行四辺形の辺や対角線、あるいは長方形の縦横の長さを三角関数を用いてパラメータ化することが多いです。加法定理や合成公式をしっかり整理すると式がスッキリします。💡ポイント2:場合分けの確認
角度の設定や平行四辺形の形状によっては、面積最大化のために場合分けが必要になるかもしれません。うっかり見落として途中で結論を出すとミスのもと。必ず「全パターンを見たかどうか」をチェックしましょう。💡ポイント3:目標は完答
図形要素と三角関数がメインなので、数学IIIのような重い計算は比較的少なめです。早めにゴールが見えたら、ここは確実な完答を狙いたいところですね。
全体難度は標準的。「東大理系なら三角関数と図形の融合問題はよくある」という印象で、演習経験があれば対応しやすいと思います。
◆ 大問IV(整数:標準)
正の整数 aa や bb が登場し、2次式が平方数になるかどうかを調べる流れや、不等式で評価する流れなどが含まれています。整数問題では「平方数かどうか」が一種の定番テーマですね。
💡ポイント1:$${(n+1)^2}$$ との比較
「$${f_a (n)<(n+1)^2}$$ に注目して議論を進める」といった記述があるように、標準的な評価を使って、ある範囲の整数しか成り立たないことを示すやり方が想定されています。💡ポイント2:剰余・対偶の活用
整数論では、4で割った余りの分類や、対偶を用いた証明などが頻出です。問題文にも「$${4a+1}$$ は4で割って1あまりになる」といった示唆が見られるように、合同式の考え方をしっかり使う場面が出てくるでしょう。💡ポイント3:丁寧な論証が必須
証明パートでは、あいまいな書き方だと部分点しか取れない可能性があります。自分が使う整数論の知識を体系立てて説明できるよう、ふだんの勉強から注意してくださいね。
問題としては標準レベルとのこと。東大の整数問題はやや厳しい論理展開を要求されることもあるので、じっくり正確に仕上げていけば合格点に十分届くはずです。
◆ 大問V(数列・漸化式:やや難)
ある操作を何度も繰り返すことで定義される数列や関数を論じる問題です。設定が複雑になりやすく、パターンを小さい例で確かめ、それを一般化して漸化式を立てる流れになっていると思われます。
💡ポイント1:最初の小問の重要性
(1)や(2)で部分的に漸化式や操作のパターンを確立し、(3)や(4)あたり(もしあれば)で一般化する構造になりがちです。最初の段階で得られる結果を見落とすと後半が全く進みません。💡ポイント2:情報を整理する図や表
単純に数列を追うだけでなく、「どの段階でどんな値になったのか」を表形式で書き出すと混乱が少なくなります。試験本番で時間が押してくると、こうした地道な作業を飛ばしがちなので注意しましょう。💡ポイント3:漸化式の典型パターン理解
完全非重列(重複なく数字を並べる仕組み)や、前後の項の差を考えていくタイプなど、いくつか定番の手口があります。普段から数列問題に慣れておくと、「あ、これはあの形だな」とスムーズに気づけることがあります。
やや難レベルですが、最初の小問でうまく基礎を作れれば得点の見込みが立ちます。一方、(1)・(2)でつまずくと大崩れすることもあるので、序盤から慎重に進めてください。
◆ 大問VI(複素数平面・軌跡、極形式:標準)
複素数$${z}$$を用いた幾何の問題で、「逆数」が表す点の軌跡や、放物線との関係を論じるタイプです。複素数の逆数がどんな図形を描くか、あるいは極形式に直すとどんな形になるか、といった考察が中心になるようです。
💡ポイント1:極形式で扱うメリット
複素数平面での円や放物線は、座標でダイレクトに処理すると計算が重くなる可能性があるので、極形式での幾何的アプローチが有効。💡ポイント2:座標変換を丁寧に
(2)や(3)で座標変換をしっかり行う場面が予想されます。慌てて書き進めると符号ミスや要素の見落としが出やすいので、書き始める前にどんな変換を使うか・どの順序で計算を進めるかを一度頭の中でイメージしてください。💡ポイント3:幾何との対比
逆数変換で円が別の円や直線になる、あるいは放物線との相対位置がどう変わるかを、図を描いてイメージするのも大事です。文字式だけでは見落としが生まれやすいので、紙に補助線を入れて考察すると理解が深まります。
難易度は「標準」レベル。久々に出た複素数平面の問題としては、まさに東大理系らしい構成といえそうです。計算力と幾何的発想のバランスが問われる一問でしょう。
3. 今年のポイント
ここまで6つの大問を見渡してみると、今年の最大のポイントは以下の通りだと感じます。
🍀計算の正確さ・スピード
記述試験でありながら、一部で長めの計算が生じる箇所があります。ちょっとした計算ミスが致命傷になりかねないので、途中式の検算を欠かさないようにしましょう。
🍀誘導が少ない問題への対応力
例年、東大数学は部分的にヒントが与えられることも多いですが、今年は「(1) でちょっとした不等式を示すだけ」とか「(1)(2) で誘導はするけど最終的には自力で大半を組み立てる」など、手取り足取りの誘導は少なめな印象です。過去問演習で「誘導なしでも自分なりに解き進める力」を養っておくことが重要。
🍀幅広い分野がバランスよく出題
数学I・A・II・B・III・Cの各範囲から、幾何・整数・微積分・数列・複素数平面といったメジャー分野が満遍なく網羅されています。出題数は6題ですが、内容は相当広いです。苦手分野があると不利になりやすいので、苦手をできるだけ減らして臨みたいですね。
🍀複素数平面の復活と空間図形の不在
複素数の出題が復活し、その代わりに空間図形が消えた形になっています。空間的な立体幾何の問題に慣れていた人は少し拍子抜けだったかもしれませんが、その分、複素数の扱いに慣れていないと困る流れです。
🍀整数・数列の本格的な扱い
平方数や漸化式など、東大が伝統的に好む整数論・数列論の問題も見どころが多いです。すぐ答えが出るものではなく、(1)(2)の着実な積み重ねが後半に活きてくる設定。部分点を稼ぎにくい場合もあるので、着手のタイミングに注意しましょう。
4. まとめ
今年の東大理系数学は、昨年までと比べて大きく傾向が変わったわけではありませんが、「誘導がやや減ったぶん、取り組むハードルが上がった」と感じる受験生が多いかもしれません。一方で、「複素数平面が復活し、空間図形が出なかった」という分、一部の受験生にはプラスに働いた可能性もあります。
難易度的には「昨年並~やや難化」という評価が妥当でしょう。問題量が極端に増えたわけではないものの、じっくり考察すべき要素が細かく散りばめられており、計算力や論証力の差がはっきり表れたのではないでしょうか。
合格に必要な正答率の目安としては、大問6題すべてを完答するのは相当ハイレベルですが、3~4題を比較的しっかり得点し、残りの問題でも部分点を拾うことで合格点に到達するケースが多いと予想されます。東大の記述式では途中経過も部分点の対象になるので、諦めずに途中までのアイデアを書いておくことが大切です。
最後に、今後の学習アドバイスをまとめます。
🌟過去問を繰り返し演習し、誘導が少ない問題にも慣れる
過去の東大数学の問題でも、年度によっては誘導がほとんどない回があります。自分で評価や方針を立てる練習を普段からしておくと、本番で応用が利きます。
🌟複素数平面の幾何をイメージで捉える練習
今年の出題を見てもわかるように、複素数の逆数・共役変換などは極形式で考えるとわかりやすいものが多いです。座標に直す前に図形として把握する習慣をつけておきましょう。
🌟整数・数列の典型手法を網羅
平方数かどうか、漸化式の解き方、場合の数の組み合わせ方といったポイントは、どの年度でも頻出です。「剰余の使い方」「対偶証明」「漸化式の立て方」を何度も練習し、パターン化しておくと本番で焦りにくくなります。
🌟計算力を鍛え、途中式をきちんと書く癖
大問I・II・VIなど計算が膨らみがちな問題では、一度ミスるとリカバリーが厳しいです。速く正確に処理する力と、要所で確認する慎重さの両立が大切。ふだんから「途中式を省略しすぎない」練習をすると、試験本番でもズレに気づきやすくなります。
🌟答案構成力の強化
記述式なので、ただ答えを書くのではなく「どういう論理でここに至ったか」を端的に示す必要があります。文章としてわかりやすくまとめるだけでも、部分点が上乗せされるケースは多いです。
こうしたポイントを意識しながら、日ごろの勉強で苦手分野をつぶしていけば、東大理系数学でも十分に戦える土台ができあがります。難問に直面しても、とりあえず自分の得意な方法で部分的に突破口を探り、最後まで粘り強く答案を仕上げる姿勢を持ってくださいね。
少し長くなりましたが、以上が2025年度・東京大学理系数学の総評となります。問題を実際に解いてみると、細かい計算や論証で意外と時間を使うかもしれませんが、東大らしい良問が詰まっている印象です。みなさんもぜひ過去問研究を通して、今年の問題をじっくり分析してみてください。積み重ねた演習量が自信となり、本番での強さにつながるはずです。応援しています!