時計じかけのオレん家~ICU2、3日目
大動脈弁閉鎖不全症で骨形成不全症で大動脈弁置換術を受けたキリスト教会牧師のブログでございます。
入院八日目。
夕飯にマスカットが出た。
なんと甘美な響きだろう。
マスカット ああマスカット マスカット
芭蕉も思わずそう詠まずにいられなかったとかそうでもなかったとか。
シャイニングじゃない方の、シャインシャインしてない、どちらかといえばくすんでさえいる普通のだけれども、マスカットはマスカットだ。
夕飯にマスカットが出るらしいという知らせが病棟を駆け巡ると、あたりは戦慄に包まれた。
「あいつの方が一粒多い」とか「こいつのは大きい」とかで、
暴動が起きることもあるらしい(ないない)。
そんな塀の中みたいなお話。
それぐらいフレッシュなものに飢えているのだ。
糖質や水分を制限されているので、
お膳の上にマスカットを見た時には、
「うわぁ、マスカットやぁ」って昭和初期の子どもみたいな声が出た。
もう、節子と一緒に食べたい。
魚のムニエルが出た時にもレモンの切れ端をしがんでまでフレッシュ採取に余念がないわたくしなのである。
今一番食べたいのは濃厚なメロン果肉入りのジェリーである。
さて、思い出し記録、ICU編
ICU2日目のお身体にはあらゆる管が差し込まれている。
お腹のドレン二本、お胸のドレン一本。
お首の点滴、左手の動脈と静脈に点滴一本ずつ。
右手はちょっと控えめに静脈に一本だけだ。
おしゃれに気を遣うなら、あまり盛り過ぎはよろしくないからな。
それに尿導カテーテル。そして心電図。
とにかく管、クダ、K・U・D・A!
ICU2日目の夜は静かなものだった。
静けさの中に時計のような音がティックタックと鳴っている。
ああ、これが人工機械弁の音か。
実は他の先輩のブログで、機械弁の音は自分で聞こえると知っていた。
時計じかけのオレん家、か。
ふふふ。ふはははは。
「時計じかけのオレンジ」という映画があったが(よいこのみんなは観ない方がいいかもだぞ)、もとはイギリス東部のスラングで、表面上まともでも中身は奇妙というもののたとえらしい。
人のからだは、聖霊なる神の住まわれる宮だという。
つまり、お家なわけだが、ぼくのからだは、時計じかけでティックタックと鳴るお家だ。
神さまもうるさくないかなぁ。
「時計じかけのオレん家」に住んでくださる方、ともにおられる主に感謝しながら、もう一回だけ、「時計じかけのオレん家」と言ってみた。
ふふふ。ふはははは。
なかなか愉快な夜だった。
ICU3日目
お首の点滴とお腹のドレン二本を抜去した。
ドレンは結構な太さの管で、お腹の出血を外に出す仕組みだと思うのだが、これを抜くのがなんとも気持ち悪い。
一言で書くなら「きゅるっぽん」だ。
うん?「きゅるっ」と「ぽん」で二言なのか?
こいつは、しまった。
そして、ドレンの抜けた穴を埋めるのは(大型助っ人外国人戦線離脱!みたいだな)
ホッチキス(医療用)!!
ホッチキス(文房具)で一番やっちゃあいけないのは
指の肉を挟むことだ。
それだのに(医療用)のこいつときたら、同じホッチキス家にありながらそんなことおかまいなしさ。
一発ごとに顔が歪む。×8
でも、あとは引かない痛みだ。
身体の管が減るにつれて、自由度も増し、少しずつ人間らしさを取り戻していくような気になった。
こうしてICUを3日目に出て、一般病棟に戻るのであった。
あなたがたは知らないのですか。あなたがたのからだは、あなたがたのうちにおられる、神から受けた聖霊の宮であり、あなたがたはもはや自分自身のものではありません。
あなたがたは、代価を払って買い取られたのです。ですから、自分のからだをもって神の栄光を現しなさい。
[コリント人への手紙 第一 6:19,20]