【時事抄】 外債投資が相場の撹乱要因
8月上旬の日経平均の大暴落の余韻が続いています。9月6日に発表された米雇用統計の結果を受けて先物市場で日経平均が大きく売られて週末を終えました。週明けにはブラックマンデー再来か、とX(旧Twitter)界隈で盛り上がっていましたが、蓋を開ければ大きな下げはありませんでした。
なかなか読み通りに進まない金融相場ですが、8月以降の相場はさらに読みづらくなっています。その要因に年金基金の動きがありそうで、事情を報じた日本経済新聞の記事を要約しました。
<要約>
財務省が9日発表した対外・対内証券投資によれば、8月の国内投資家による海外中長期債の買越額が7兆3370億円と過去最大となった。これまでの過去最大の買越額は2016年7月の5兆4494億円である。
主な買い手は年金と銀行で、年金等からの受託資産を運用する信託銀行(信託勘定)が2兆8069億円の買い越し、銀行等(銀行勘定)が2兆6574億円の買い越しで、生命保険会社は5381億円の売り越しだった。
背景にあるのは、7月中旬から8月上旬にかけて外国為替市場で急速に進んだ円高だ。8月に一時1ドル=141円台まで円高が進み、保有資産全体に占める外国債券の比率が低下。年金などのリバランス(資産配分の調整)を目的とした買いが膨らんだ。
国内投資家による外国債券(外債)の買いは、円売りドル買いを伴い、円安ドル高圧力と意識される。8月上旬の141円台まで進んだ円高は、8月末に一時1ドル=146円台で推移するまでに円が反落した。市場関係者は「年金などによる外債の大幅な買い越しで、円高を抑えた」と見立てている。
GPIFが運用の基準とする外国債券の指数は8月に約1.3%下落。一方、金利が低下(債券価格は上昇)した国内債券は約1.2%上昇した。国内債券から外国債券に資金を移す動きがあったとみられる。また、GPIFが投資に回す資金増も影響しただろう。財政資金対民間収支によると、主に国庫からGPIFへの資金流入などを反映する「預託金」が、8月は約2.7兆円と18年以降で最大だった。米利下げ観測の高まりも、利下げによる債券価格の上昇を連想を促し、銀行などによる外債買いを後押ししただろう。
市場関係者は、年金基金の外債買いも一巡して今後は落ち着くだろうと述べる。日銀の利上げによって国内金利の上昇圧力がかかり、国内勢が外債投資から円債投資に切り替えると観測もある。ただ日銀追加利上げ(債券価格の下落)という先高観が根強く、円債購入には動きにくかろう。
(原文1375文字→835文字)
長期分散投資を基本とする年金基金は、事前に決めた資産配分に沿って運用します。リバランスとは、株や債券といった資産の価格が、価格変動によって当初決めた資産配分比率から変った際に、元の比率に戻るよう調整することです。
たとえば株価が値上がりして当初想定の資産比率が資産全体の25%だったのに対して、30%になったとしたら。当初比率の25%になるよう、株式を売却して相対的に比率の減った別資産を購入します。
8月以降の株価やドル円相場は奇妙な動きが続いています。ドル円は連日に渡って2円近い上下動を繰り返し、往復ビンタを喰らったトレーダーも多そう。円安が進んで日経平均は大幅下落とか、訳わからん。
大きく相場が動いた後の謎めいた方向に相場が上下する時、セオリーだけで相場に向かうと大怪我します。大口資金を抱える年金基金のリバランスという視点があると、「方向感がない」という漠然とした評価を抜け出し、相場洞察が一歩深くなります。