【時事抄】 米大統領選TV討論会、対照的な両候補の立ち位置
11月の米大統領選に向けて、民主党候補ハリス副大統領、共和党候補のトランプ前大統領、TV討論会による両者初の直接対決が終わりました。米CNNの世論調査によれば、6割超がハリス氏勝利だったと回答したとのこと。
すでにトランプ氏という特異な個性は全米中が知るところで、今さらTV討論会で優れた弁論を展開しようが失言を繰り返そうが、トランプ支持者の動静には変化がない。むしろ、対抗馬として躍り出たハリス女史がどう振る舞うか、その一挙手一投足に注目が集まりました。
討論会の様子を報じたワシントン特派員の手による、日本経済新聞の記事を要約しました。
<要約>
10日、米大統領選挙討論会が行われた。そこで問われたのは、民主党候補のハリス副大統領の人物だった。「カマラ・ハリスとは何者なのか」。その答えを示しつつも、なお勝利に物足りなさも見せた夜だった。
共和党候補のトランプ前大統領を挑発して動揺を誘った。トランプ氏と互角に争えるとの力量をうまく示した。
「オハイオ州スプリングフィールドでは(移民が)犬を食べている。猫を食べている。我々の国で起きている残念なことだ」。虚言と批判されたトランプ氏らしい発言は、ハリス氏が「退屈した聴衆がトランプ集会から早々に立ち去った」と指摘した直後に出たものだった。
この10年近く米政治劇の中心にいたトランプ氏だから、米有権者は彼がどんな人物なのかを熟知している。討論会で支持を広げる余地も、支持を失うリスクも共に大きくない。しかし、7月下旬に候補者として名乗りを挙げた「新人ハリス氏」は事情が異なる。
討論会直前の大手メディアの世論調査によれば、米有権者の3割近くがハリス氏を「もっと知る必要がある」と答えた。選挙戦の勝利に向けて、ハリス氏は「戦える候補者」を示すだけでは不十分で、討論の優劣が直に投票行動につながるわけではない。討論で相手を説き伏せても、投票先を決めかねる有権者の支持は得られない。何を訴えるかだ。
ハリス氏は司会者から「米国人の生活は4年前より良くなったと思うか」と問われて直球の答えを返さなかった。資源開発などを巡る政策上の立場を変えた経緯も「価値観は変わっていない」というだけだった。
敵を叩いて味方に笑顔することは、ある意味でたやすいことだ。ハリス氏は、自らの政策理念を正攻法で語る言葉がもっと必要だろう。
(<要約> 原文1103文字→712文字)
米国の選挙制度はかなり特殊で、仮に全米の半数以上がハリス氏を支持していても、トランプ氏が当選することもありえます。全米の総得票数で勝者を決めるわけではないからです。
投票は州ごとに行われます。全米各州と首都ワシントンには、人口に応じて割り当てられた「選挙人」がいて、州ごとに行われる投票の勝者が、その州の全選挙人を獲得します。そして全米の538人の選挙人のうち、過半数以上を獲得した候補が勝者となる仕組みです。
激戦区といわれる数州の投票結果だけで、勝負の行方が決まるという異国の目から見ると歪んだ仕組みで続いてきたのが米国選挙制度です。投票行動を決めかねている「激戦区」の中道・無党派層の投票行動が、勝負の行方を左右すると言われる所以です。
新しい対抗馬として突如現れたハリス女史が、投票日までの残り1ヶ月半のなかで、何を言い、どう振る舞うか。トランプ氏はすでに誰もが知るところですから、つまり彼女次第で勝負の行方が決まると言ってよく、歓迎ムードが落ち着いてしまった今からが正念場です。フェイクニュースも飛び交うのでしょう。