【時事抄】 待機児童問題、増やした保育所の定員割れ続出
待機児童問題を取り上げた個人のブログ「保育園落ちた、日本死ね!!」が、大きな話題を呼んだのは2016年、今から8年前のことでした。ブログを書いたのは東京都内に住む当時30代の女性。反響の大きさに驚いたと、のちのインタビューで答えています。
待機児童問題の早期解決に向けて、東京都をはじめ各自治体は、保育園を増やし続けます。そして今、保育所の約半分は定員割れどころか、その半数も埋められず、経営難に陥るところも現れ始めたようです。
地道な調査を通じて「問題がここにあります」と光を当てた記者たちの尽力に拍手、という日経新聞の連載記事を見てみます。
<要約>
前例主義、甘い見通し。硬直化した政策で無駄を膨らませる政府や自治体の事業は、事後検証は皆無に等しい。人口減少が続く日本に財源は限られ、確かなエビデンス(根拠)に基づく政策づくりが必須だ。
最大の国難である少子化への対策は空回りし始めている。東京足立区の認可保育所では、18年頃から入所者が減り、20年には定員を10名減らして40人にした。それでも、23~24年度には定員の7~8割しか埋まらなかった。
園長は「いつ赤字に陥ってもおかしくない。高齢者の多いこの地域に新たな保育所は要らなかったのに」と漏らす。足立区では23年4月までの5年間で保育定員を2,127人増やしたが、今その5割以上が空いている。
日本経済新聞は「こども家庭庁」に情報公開請求し、全1741市区町村の保育サービスの受給変化を調査した。過去5年、定員枠は補助金を追い風に半数近い834自治体で拡大し29.8万人分増えた。
一方、利用者の伸びは増加枠の4割以上が空きとなる16.2万人にとどまる。自治体の3割では利用者がむしろ減っている。
政府は保育の充実を少子化対策の柱に据え、保育所新設に1兆円を超す国費を投じた。そして最大2.6万人に膨らんだ待機児童数は、23年までの10年で1割にまで縮小した。だが加速する少子化により、全国の認可保育園の申込者は20年をピークに減少している。
厚労省が5年おきに年金制度改正する基礎統計が、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の「中位推計」だ。これが常に下振れする。20年前の02年当時に仮定した合計特殊出生率は1.38で、88万人だった。実際には23年に1.20まで低下し、出生数は72万人だった。10年前の12年に見込んだ1.30、79万人からもほど遠い。年金のエビデンスはさも心もとない。
社会保障、インフラ整備、地域や住民の全てのニーズに応える余裕はない。何を取り、何を諦めるか。縮小均衡の発想だけでは停滞から抜け出せないし、着実な針路を定めるのは確かなエビデンスであるべきだ。
(原文1592文字→856文字)
良質の記事と高く評価したい本編ですが、需要と供給のアンバランスを放置し続けた政府と自治体の「硬直性」を批判する論調でまとめられています。政府自治体を批判するのはフェアじゃないなあという感想をもちました。
子どもの数が減り続ける少子化問題は以前から広く認知されていることで、保育所を増やしても少子化等によって将来は余ってしまうはず、との予想は政策担当者の間でも8年前の当時から広く共有されていたようです。
しかし、「保育園落ちた、日本死ね」の文章が日本中に与えた衝撃は、待機児童問題という言葉に強烈な息吹きを与え、波打つ世論を作りました。政策立案者も、世論に配慮して保育所増設を進めていかざるを得なかった、というのが実際だったでしょう。
何をとって何を捨てるかという政策の優先順位をつけるのが政治の役目で、それを選び取るのが我われ選挙民。我々は保育所増床を取り、その財源で得られた別の何かを捨てたわけです。これは民主主義の良い所でありダメな所だと思います。出来上がった仕組みを変えるのは難しいとは知りつつも、時代に合わせて少しづつ変えていってほしい。
ただ言えるのは、保育所が増えたから安心したと、子どもを増やそうという動きにはなっていないという現実。それが意味することは、皮肉にも少子化の真因は社会的インフラの不足とは別のところにあるという仮説をひとつ裏付けたことだと思います。
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