新北・早餐店
ここ3日間ほど、仕事関連でちょっと失敗したと思うことがあって、落ち込んでいた。
朝起きて、顔を洗おうとして鏡を覗き込むと、情けない顔の女がこちらを覗いている。そいつは徐に口を開いて、お前はダメだね、と言う。そうだね、と自分が答える。会話終了。あとは窓の外から聞こえる車の走行音を聞きながら、黙々と歯を磨いて顔を洗う。そんな遣り取りを、ここ3日間ほど繰り返していた。
落ち込んでいようがいまいが、明日は平等にやってくる。生きていくためには、飯を食わねばならぬ。動きたくないとぐずる心を叱咤して、近所の早餐店(朝昼食の専門店)へ向かう。部屋を出て、エレベーターに乗り込む。古びたエレベーターの中にも鏡があって(エレベーターの中に鏡があるのは、車椅子の人が後ろ向きに降りなければならない時に背後が確認できるように設置されているらしい)、その鏡に映る自分は、やはり情けない顔をしていた。なんなら寝起きでちょっと顔がむくんでいた。しかもすっぴんだ(午後から出勤なので、まだ化粧をしていなかった)。せめて眼鏡をかけて誤魔化せばよかった、と、ますますげんなりした気持ちになって、ため息をつきながらエレベーターを降りた。
その早餐店はこの辺りでは結構人気の店なので、大体いつも人がいっぱいいる。みんな家族や友達同士で訪れて、楽しそうにおしゃべりしながらご飯を食べている。そんな台湾の朝の一風景を眺めながら、私は一人で4人掛けの席に座った(そこしか開いてなかった)。注文を済ませて、お客さんたちや店員さんたちの楽しげな会話を聞きながら、注文したものが席に届くのをただぼんやりと待つ。
注文した物が席に届く。ホットコーヒーと生野菜のサラダとエビのバーガー。コーヒーを持ってきてくれた店員さんが、「熱いから気をつけてね」と一声かけてくれる。「ありがとうございます」と返して、あとは一人で黙々とご飯を食べた。
食事を終えて代金を払うべく、カウンターへと向かう。飲み終えたコーヒーのカップをカウンターへと持って行きつつ「お会計をお願いします」というと、店員さんは笑顔で合計金額を教えてくれる。「1卓ね。135元だよ」。135元……135元……と、財布の中を探っていると、「ちょっと聞いてもいい?」と店員さんに声をかけられた。
「あなた、台湾人?」
「いえ、日本人です」
「やっぱりね!ここへは勉強に来てるの?それとも仕事?」
「仕事で来ています」
「そっかぁ、ようこそ台湾へ!」
別の店員さんが「どうして分かったの?」と聞くと、「日本人っぽい顔だからね」と、笑って答えていた。よく観察しているなぁと感心しつつ、ようこそ、と言っていただいたその言葉が、自分の心にじんわりと染み込んでいくのを感じた。ようこそ、と言って貰えるのか。店員さんにとっては何気ない一言だったのだろうけど、今の私にとっては、とても温かく感じる言葉だった。仕事、頑張ろう、と思った。こうして何気ない一言で私を助けてくれる台湾の方たちのために、一生懸命働こう。
ちなみに、こちらのお店は輔仁大學の裏手のほうの、明志路という通り沿いにある。マクドナルドの向かいにある店だ。マクドナルドより断然多い品数と、数々の早餐店定番メニュー、そして元気で優しい店員さんたちが売りのお店である。
台湾在住者による台湾についての雑記と、各ウェブサイトに寄稿した台湾に関する記事を扱っています。雑記については台北のカフェが多くなる予定。 そのうち台北のカフェマップでも作りたいと思っています。