映画『大海原のソングライン』を観て〜台湾が「南島語族」の起源の地〜
現在全国の映画館で公開中の映画『大海原のソングライン』(仮設の映画館では9/30まで配信)を公開初日に観に行きました。
—約5000年前、安住の地を求め 海を渡った南島の民族がいた
文字が普及する前の時代、彼らは音楽で交流していた
台湾から出発した旅は東はイースター島、西はマダガスカルまで
3年で16の島国を渡り、受け継がれる島々の文化を記録した
前例なき音楽ドキュメンタリー — 『大海原のソングライン』HPより
原題は『Small Island Big Song』ですが、邦題の“ソングライン”という言葉にまず惹かれました。
ソングラインという言葉を最初に知ったのは、小説『はじまりの歌をさがす旅』(川端裕人著)でした。日本でミュージシャンとしてくすぶっていた主人公が、オーストラリアで祖先が残したソングラインを辿る旅をするという内容で、冒頭早々にブルース・チャトウィンの紀行文『ソングライン』にも触れられています。
そのソングラインが意味する言葉にワクワクするような想像力を掻き立てられました。
映画の冒頭は、台湾最南端のパイワン族「カパナン集落」の歌手アルイ(戴曉君 Sauljaljui)さんの歌で始まります。海辺に突き出たゴツゴツした岩の上で木の棒にマイクを巻きつけ、波のしぶき音が聞こえる中、裸足で大地を踏みしめ力強い歌声が響き渡るその姿にまずは圧倒されます。アルイさんは台湾「金曲奨」に4部門ノミネートされ、現在台湾で最も注目を集めるシンガーの1人です。
そして、ソロモン諸島出身のチャールズ・マイマロシア (Charles Maimarosia)さんは、色彩豊かで壮麗な民族衣装を身にまとい、森林にこだまするパンパイプマスターを奏でます。
マレーシアの河辺に広がる伝統楽器サペの美しい音色、バヌアツのムウェルラップ族の女性たちが一斉に水面を打楽器のように叩いて作り出す自在な音楽。
海の路がつなぐ島々の各地の音楽が、それぞれの場所で、言葉で織りなしていく。
驚いたのが、各地の民族が暮らすその場所で録音された音楽が、次々と他の島々の音楽を積み重ねていっているにも関わらず、全く違和感を感じられないということ。
国や民族を超え、不思議と調和し、一つの音楽を作り上げられることができる。“新しい歌の道”=ソングラインの誕生です。
そのことに感動とともに理屈ではない、何か魂の記憶が呼び覚まされるような感覚がしました。
〜台湾が「南島語族」の起源の地〜
音楽ドキュメンタリー『大海原のソングライン(原題:Small Island Big Song)』の主役となるのは、南島語族(オーストロネシア)と呼ばれる言語集団です。
彼らは台湾を原郷とするモンゴロイド集団を祖先とし東南アジア島嶼部からオセアニア、そしてマダガスカルにいたるまでの広大な地域に居住する「海の民」であり、共通の祖先から分かれていった人々であるため、人類学的にも言語学的にも、さらには文化的にも共通性が高いのだそうです。
植民地化された歴史や、一方的に搾取される歴史の一方で、自分たちの民族の文化や言語や自然を尊び、守り、歌で繋いでいく壮大な物語。
今、地球規模で自然破壊が進み、“今まで経験したことのない”“記録的な”という形容詞で始まる自然災害は毎年のようにやってきます。
どのように技術が発達しても自然災害は避けられません。
「海の民」である彼らにとって、海水温や海面の上昇は生活に直面する切実な問題です。
それは、私たちにとっても同じ問題です。
様々なことに想いを馳せながら、もう一回、もう一回と自身のDNAを呼び覚ますかのように、島々の歌、そして一緒に作り上げたハーモニーに耳を澄ませています。
映画『太平洋のソングライン』出演ミュージシャンのコメント
自然との関係の中核をなすのは海であり 風であり 花であり 木なのです。自然が最も原初のダンサーたちです。
― ケクヒ・ケアリイカナカオレオハリラニ(ハワイ出身)
音楽は本当の自分を呼び覚まします。私たちの歴史 価値観 自然とのつながり私は祖父から受け継いだものを呼び覚ますのです。
― ヨヨ・トゥキ(イースター島出身)
私たちの伝統音楽は植民地化で途絶えなかった。道具を時代に合わせ 過去から未来へ連なる系譜の中で 自分自身を表現したのだ。
ー アイリレケ(パプア・ニューギニア出身)
大地とお互いへの思いやりが人生を長続きさせる。誰もが親切なら 誰もが豊かになれる。
― チャールズ・マイマロシア(ソロモン諸島出身)
■音楽ドキュメンタリー『大海原のソングライン』映画情報
島々の音楽を繋ぐ奇跡のアンサンブル!同じルーツを持つ海洋民族たちの音楽を、現代に新しくよみがえらせる奇跡のプロジェクト!
★監督:Tim Cole(ティム・コール)・オーストラリア出身
オーストラリアを中心にオセアニア各地の先住民文化と音楽をリサーチ、収集してで音楽製作や映像制作を行ない、そこで作られた作品は多くの受賞に輝いている。彼の音楽に対する情熱は彼を最も辺境の地へと連れて行き、その作品を世界の最も素晴らしい舞台へ連れてゆく。
★プロデューサー:BaoBao Chen(バオバオ・チェン)・台湾出身
台湾・学学文創志業、中国・北京798 藝術區、及びシドニーオペラハウス、アボリジナル音楽祭などで働く。2013年より開設した“BaoBao 的世界最棒工作” (BaoBao の世界で一番凄い仕事)は15万人のフォロワーを持ち、TEDx、台北芸術祭などでの講演を行う。
<予告編>
<特典映像>
【劇場上映情報】
[上映中]
8/1~9/11 | 東京・イメージフォーラム 11:10 / 18:50 ( 9/12~9/25 | 11:10 )
8/29~9/11 | 大阪・第七藝術劇場 18:55
8/1~9/30 | 「仮設の映画館」
[近日上映]
9/12 ~ 9/18 | 新潟・高田世界館
9/18~ | 京都・京都みなみ会館
ほか全国で順次公開
劇場情報
仮設の映画館
【特典に関して】
① 劇場限定・映画オリジナルポスター
② 劇場&オンライン・デジタルミニアルバム
③ 劇場&オンライン・本編未収録《ワールドツアー記録映像》
★オリジナルアルバム(CD)は劇場にて。
「Small Island Big song」
収録曲 / Tracks(全18曲)定価 3,000円(税込)
・アルバムパッケージには、タパの樹皮とサトウキビの繊維を材料にした手作りの紙を使用しています。
・56ページ カラーブックレット付き。(すべて英文となります)
・純利益の50%はアーティストとNGOに還元されます。
アメリカ インディペンデントミュージック・アワード2019 最優秀コンセプト部門ノミネート/・ドイツ レコード批評家賞 ミュージック・アワード2019 年度最優秀アルバム受賞/・SONGLiNES MUSIC AWARDS2019 アジア・太平洋部門 最優秀アルバム賞受賞
⭐️Tim Cole / ティム・コール(音楽プロデューサー)のマニフェスト: 海洋民族の子孫である彼らの母語で話し、歌い、演奏しました。楽器は全て先祖から受け継いだその土地に残るアコースティック楽器です。音楽家の母国で歌い、彼らが選んだ自然の中の場所で録音を行いました。 演奏された曲は、演奏者達が選んだものです。 制作する中で、イコライザーと、レベル調整は行いましたが、リバーブやエコー等のデジタル・エファクトは使用していません。
★川端裕人 著『はじまりの歌をさがす旅』(角川文庫)