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<果物の宝庫・台湾>②アテモヤ

台湾では冬から春にかけて、「鳳梨釋迦」という緑色のでこぼこした形の果物をよく見かけます。この果物は日本語では「アテモヤ」と呼ばれています。

私はこの果物がとても好きで、店頭に出回る時期になるとよく買って食べています。伝統市場にもたくさん並んでいますし、全聯などのスーパーでも気軽に購入できます。大きさにもよりますが、1粒あたり50TWD程度のイメージでしょうか。

アテモヤの皮を切ると、中は白い果肉と黒い種が入っています。果肉には濃厚な甘みがあって、冷やして食べると、まるでバニラアイスクリームのような味と香りを楽しめます。

アテモヤの産地と台湾の気候

台湾のアテモヤはほとんどが東部の台東で生産されています。栽培面積で見ると、台東だけで全台湾の9割以上を占めています。

台東がこれだけアテモヤで有名な産地になった背景には、気候的要因が大きいと考えられています。

台東は台湾の中でも特に温暖な地域です。夏の間は風が3,000m級の中央山脈を越えて吹き降ろし、フェーン現象の影響で高温になることも多いです。

夏季の南西風が中央山脈を越えて吹き降ろす台東一帯は、フェーン現象により高温になりやすい。過去、台湾の高温記録のほとんどが、この地域で観測されている。

フェーン現象によってもたらされる極端な乾燥や高温は、様々な作物にとって強敵となります。しかしアテモヤはその中でも比較的耐性が強いため、台東での栽培が根付いていったと言われています。

また、台東の農業当局も気象観測網を充実させ、高温が予想される時には事前に農家と情報を連携して散水を促すなど、様々な工夫のもとでアテモヤ産地としての発展を後押ししていったのだそうです。

日本では認知度の低かったアテモヤ

台湾フルーツは日本で一定の人気があります。台湾産のマンゴーやパイナップル、バナナなどは日本でもかなり定着していると言ってもよいでしょう。

一方、アテモヤとなるとどうでしょうか。

アテモヤはデコボコな形をしていて、一見しただけでは食べ方が想像しにくいです。追熟の必要があるなど、食べごろの判断にも少し慣れが必要です。

また、そもそもアテモヤはパイナップルやマンゴーのように検疫が免除されている品目ではありません。日本に持ち込むには、これまで高いハードルがありました。

中国の禁輸措置と日本向けの輸出開始

そんな中、最近になってはじめて台湾から日本へのアテモヤの輸出が始まりました。様々なハードルがある中で日本への輸出に踏み切った背景には、中国との関係があります。

2020年、中国が台湾産パイナップルの禁輸措置を打ち出したのはまだ記憶に新しいところです。中国側は「害虫の検出」など、検疫上の理由を表向きの理由として挙げていますが、これまでの前例を見る限り、なかなか字面通り受け取ることはできません。

ともあれ、思わぬ危機に直面した台湾ではパイナップル輸出先の多角化に取り組みました。そして結果的に台湾側は他市場を開拓することで、禁輸の衝撃を一定程度緩和することに成功しました。日本も随分買い支えを行いました。

すると、「それなら今度は」と言わんばかりに、2021年にはアテモヤが中国による禁輸対象に加えられてしまいました。

アテモヤは近年、全台湾の生産量の約半分が輸出に回されています。そして輸出先のほぼ100%が中国、という極めて対中依存度の高い果物でした。

また前述の通り、認知度や検疫等の問題から、パイナップルとちがって他国へすぐに振り向けることも困難な果物でもありました。

いわば、狙いうちで嫌がらせをされてしまったに等しい格好です。

このままでは生産者にとって大打撃になってしまいます。そこで、台湾側も知恵をしぼりました。そして、アテモヤを「冷凍のカットフルーツ」として売り出す戦略を取りました。

冷凍フルーツであれば、一定の条件を満たせば検疫のハードルが下がりますし、カットされていれば食べ方になじみのない消費者にもアプローチしやすくなります。まずは日本の販路を開拓し、さらには他の国々への輸出も見据えているようです。

今後認知度を上げていけば、やがて冷凍ブルーベリーや冷凍マンゴーのように、日本の家庭に根付いていってくれるかもしれません。私も、もし日本で見かけたら、応援の意味で購入しようと思っています。

日本の果物は台湾でとても人気があります。同様にアテモヤをはじめ台湾の果物がこれから日本で人気になり、食卓に根付いていってくれると嬉しいなぁと思っているところです。

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